3-43. 途中まで上手くいっていたが危機に陥る(3/3)
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目くらましが徐々に晴れ、視界が良くなっていく中、メイリは元の姿で膝をついている。顔から激突したのか、顔の右半分は血が滲んで腫れており、額からおびただしいほどの血が流れている。
「ぐっ! ダーリンの【バリア】が?」
メイリは額の血を手で拭うが、切れた所が悪く、血は止まることなく流れる。
「ようやく、できたよ。新しい触手がな」
それは今までの紫の触手とは少し色が異なっていた。それはムツキの髪の色と同じ濃い目の紫をした触手だった。
メイリはムツキの【バリア】を感じる。つまり、壊されたわけではない。しかし、紫色の触手はその【バリア】をすり抜けて攻撃してきた。咄嗟に彼女は両腕で受けるが、彼女に耐えきれるだけの力などなく、受けきれずに吹き飛ばされる。
「ぐううっ!」
「破壊できた方が良かったが、時間がなかったからな。ムツキの魔力で触手を生成した。つまり、【バリア】はムツキ本人の攻撃と錯覚するわけだ」
紫の触手が増殖する。メイリは触手の攻撃を躱していくも頭を強く打ったこともあり、脚が上手く動かない。触手は容赦なく、彼女の顔や身体を殴りつけていく。
「ぎゃっ! あがっ! ぐうっ!」
メイリは躱すことを諦め、顔と腹を隠すように丸まって触手の攻撃に耐え続けることにした。【変化の術】で衣類の防御力を上げてみるも、焼け石に水といった状態である。
「おら、おら、おら! お前を守ってくれるものは何もないぞ! それとも、助けを呼ぶか? ああ? 散々コケにしてくれたな!」
「ぐうっ……ぎっ! ぐっ! がっ! うぐっ……うっ……ダーリン……助けて……」
メイリは必死に耐えた。顔が腫れ、血まみれになり、腕や脚が痺れて上手く動かなくなっても、ムツキが来ることを信じていた。
やがて、触手は彼女の腕を絡め取り、持ち上げる。吊し上げられて全身が見るも無残な姿の彼女は、それでも諦めていないと示しているかのように笑みを浮かべる。
「何を笑ってんだ? 頭でもおかしくなったのか? あーあ、こんなに顔が腫れちまったら元に戻らないかもなあ? 半獣人にしては綺麗な顔をしていたとは思うぜ?」
「はあ……はあ……お前には、何を言われても嬉しくないね」
アニミダックは思ってもいないことを淡々と言い始める。一方のメイリは軽口を忘れない。まだ負けていないと言わんばかりで、彼女の瞳はまっすぐ彼を睨み付ける。
「ははっ! だが! 下等な! 半獣人が! 俺に! 盾付いたのは許せねえ! こうなった半獣人のメスなんざ見せしめに犯すことは簡単だが、汚らわしいことはしたくねえ!」
「はははっ……僕のさっきの発言は訂正するよ。それはすごく嬉しいね……僕もお前なんかに犯されるなんてゴメンだね。もういっそ、死んだほうがマシさ」
「そう、だから、お望み通り、もう終わりだ!」
メイリを持ち上げていた触手が彼女を大きく振り回して地面に叩きつけようとする。彼女はその衝撃だけで気絶しそうになった。だが、今もムツキが来ると信じている。
「ごめん……遅くなった」
メイリはふわりと浮いた後、誰かに温かく優しく抱き留められていることに気付く。その後、掛けられた言葉の声の主は彼女が心から待ち望んでいたムツキだった。
彼はボロボロになった彼女を見て、涙が零れ始める。
「なっ! なんだ? 触手が消滅しただと?」
「……本当にごめんな……【ヒーリング】」
ムツキの涙は止まらない。メイリの腫れた頬に落ち、まるで彼女も泣いているかのように見える。しかし、メイリはカッと目を見開くと、か細く途切れ途切れの声で話し始める。
「おっ……そい! 遅い! もう……ダーリンがさ……助けて介抱してくれるのって、僕が、いっっっつも……ボッコボコにされてからじゃん! 僕、武闘家とかじゃないんだけど! もう……損な役回りだなあ。まあ、それは……自分からやっちゃっているんだけどね……ううっ……痛い……痛いよう……安心したらさ、痛みが急にやってきたよ……」
「お、おい、喋るな。前と同じくらい、いや、それ以上に酷い。頼むから安静にしてくれ」
ムツキはメイリの惨状を見て焦っている。【ヒーリング】も万能ではない。見た目まで完璧に治せるかどうかは分からないのだ。
「俺を無視するな! 触手の攻撃が……当たらない?」
アニミダックは触手をムツキに向けるが、ムツキの近接攻撃無効化に阻まれる。今の紫の触手の効果である【バリア】の無効化では、ムツキの近接攻撃無効化のパッシブスキルを無効化することができない。
「それに、あーあ、こんなに顔腫れちゃって、いたた……。治らなかったらダーリン、責任取ってよ? 一生大事にしてよね」
「もちろん、これからも一生大事にする」
「本当? ダーリン、想像以上に、面食いだからなー。怖いなー。絶対にポイ捨て禁止だよ?」
「絶対にしない。するわけないだろう。俺の妻になったんだから、最期の最期まで離さないぞ」
「それはそれで怖い気もするなー、なんてね。じゃあ、約束ね。あと、こんな良いムードをぶち壊してくれちゃっているあいつをちょっとだけやっつけてくれないかな? その間だけ、ちょっとだけ、ゆっくりしてもいい?」
「あぁ……分かった。終わるまでゆっくりしていてくれ」
メイリは少しだけ目を瞑る。【ヒーリング】の効果で瀕死の状況からは回復した。ムツキは彼女を治していたい気持ちもあるが、アニミダックが逃げても困るのは彼も同じだ。
ムツキは先ほどから後ろで煩くしているアニミダックに怒りを覚えていた。
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