3-40. かわいいがそれだけじゃない!(3/3)
約2,500字でお届けします。
楽しんでもらえますと幸いです。
ナジュミネ、モフモフ軍隊は部屋の奥まで進軍していた。コイハは足手まといになる可能性を考慮して、自ら入り口から少し離れた地上で待機することにした。
モフモフ軍隊はナジュミネの指示を待っている。炎の壁の勢いが段々と弱まっており、収まれば触手が襲い掛かって来るだろう。しかしこの間に、彼女にも彼らにも一切の焦りはなかった。
ナジュミネは以前よりケットとともにこのモフモフ軍隊の監修をしていたのだ。つまり、彼らの絆は一朝一夕のものではない。
「諸君、妾は今から前口上を述べる! 心して聞け!」
ナジュミネは先頭に立っており、翻ってモフモフ軍隊の方を見て、ゆっくりとはっきりと大きな声で彼らに語り始める。モフモフ軍隊はビシッと姿勢を正す。
「諸君! 諸君らの王は、敵の非道な行いの前に倒れざるを得なかった! 彼の優しさは諸君の知るところであるため、あえて、ここで説明することはしない……」
モフモフ軍隊は顔色一つ変えずにナジュミネの話を聞いている。しかし、その内心はその可愛さから想像ができないほどに、はらわたが煮えくり返っていた。
「だが、我々は彼のその世界樹のごとき偉大なる優しさを愚行と思われるままにしてはおけないだろう……。我々は彼の優しさに付け入った敵を赦すことができようものか? それは否だ……」
ナジュミネは帽子を目深にかぶり直した後に拳を握り締める。
「諸君! 我々の眼前には幾万にも及ぶ無数の敵がいる。一方の我々は小さな中隊1つに過ぎぬ100弱であることは覆しようのない事実だ……」
モフモフ軍隊は静かに聞いている。ナジュミネは拳を振り上げた。
「素晴らしい! この事実に顔色1つ変えないことは実に素晴らしい! そう! 妾は知っている! 諸君が万夫不当の豪傑たちであることを! 諸君はその強さともに強靭な意志を備えていることを! であれば、我々は100万近くの軍集団に他ならないことを!」
炎はかなり弱まってきている。ナジュミネはそれを確認し、いくつか考えていたセリフを省き、締める方へと口上を進め始めた。
「諸君! 我々は戦争、ましてや小競り合いに来たのではない! 正義の鉄槌を携え、諸悪の敵に一方的なまでの殺戮をしにやって来たのだ!」
ナジュミネが激しい攻撃的な言葉を使う。士気を上げ、モフモフ軍隊の意志をさらに強固にするためである。
「諸君! 妾は諸君に2つを強いる! 1つ! 何人たりとも欠けることは許さぬ! 1つ! 1つたりとも残すことは許さぬ!」
「ニャーッ!」
「アオーンッ!」
「プゥ! プゥ!」
ここで初めて、モフモフ軍隊はナジュミネの口上に呼応するかのように叫び出す。彼女は大きな笑みをその顔全体に浮かべた。
「よろしい! ならば、これより殲滅の時間だっ! 意志なき肉塊を蹂躙し、恐怖を、我々への恐怖を奴らの知性のない頭ではなく身体と魂に刻み付けろっ! さあ、奴らの死屍累々の屍を積み上げてゆけっ!」
炎がまだ少し上がる中、無数の触手がナジュミネやモフモフ軍隊に襲い掛かる。だが、その次の瞬間から全員の姿がその場から消えていた。
モフモフ軍隊は8~12匹程度からなる分隊へと分裂し、9つほどの分隊が一斉に動き出す。彼らの見た目だけは、改造軍服を着させられたコンセプト系のふれあい動物広場のようなかわいさだ。
だが、その驚きは可愛さ以上に戦闘力に見られる。
「プゥ!」
「ブゥ!」
四方八方にウサギが触手の間を駆け巡り、上手くすり抜けて触手の攻撃に当たることなく、鋼線のようなものを地上のあらゆるところに張り巡らせて、それを全員で高速で動かすことによって床から生えている触手たちを広範囲で切り刻んだ。
「ニャッ!」
「フシャッ!」
中には鋼線では切れない硬い触手もあった。しかし、猫たちのネコパンチがそれらをすべてぶち抜いていく。肉球型の穴が開いた触手たちは間もなくして動きを止める。猫が攻撃を受けそうになった時、犬たちがすべてその防御力でかばう。
壁や天井からの遠距離攻撃は、すべて犬たちが対魔法障壁の【マジックウォール】、もしくは、対物理障壁の【プロテクトウォール】で防いでいく。その後、犬たちはそのまま【プロテクトウォール】を壁に生えた触手たちに勢いよく押し付けて圧壊させていく。
残りは壁の上方や天井に生えている触手だけだ。この触手は特殊なものが多いようで、催眠ガスを放つものもいれば、火や水、風などの属性魔法に対応したものを放つものもいた。
「素晴らしい成果だ」
ナジュミネはゆっくりと大きな拍手でモフモフ軍隊の活躍を労っている。
「諸君は妾の期待に十全に応えてくれている。ならば、妾が天井の触手どもを任されようではないか! 総員、地上へ退避せよ!」
「ニャ!」
「バウ!」
「プゥ!」
ナジュミネの命令に従い、モフモフ軍隊全員が入り口から地上へと駆け足で脱出する。
「妾はとても気分がいい。とっておきをくれてやろう」
触手は遠距離攻撃を始めるが、ナジュミネに張られた【バリア】の前に為す術がない。
「【妾が放つは 闇よりも黒き 地獄の猛火 荒れ狂う獄炎に 焼き尽くせぬものはなし 妾の眼前の立ち塞がる敵など 灰塵も残さん】、【レイジング】【インフェルノ】」
ナジュミネは片膝をつき、両手を地面へと突き刺した。その後、地面からは、いくつもの黒い炎がツタのようにうねりながら天井に向かって勢いよく広がる。
獄炎にただの水など敵うわけもなく青色の触手は焼かれ、さらには炎耐性があるはずの赤い触手さえもその炎で肉が溶ける。緑、黄、紫などの様々な触手がすべて消え去っていた。
「……しまったな」
獄炎の熱で汗だくになったナジュミネが立ち上がりながら、そう呟く。
「屍を積み上げるつもりが全てを焼き尽くしてしまったな……ふふっ……まあ、仕方あるまい……しかし、胸が高鳴ったぞ……やはり、戦いはこうでないと……ふふっ……」
その後、戻ってきたコイハとモフモフ軍隊は、若干ハイ状態のナジュミネに恐怖を覚えながらも気持ちを落ち着かせるように宥めていた。
最後までお読みいただきありがとうございました。




