3-36. 女の子たちは応戦していたが敵が卑怯だった(3/4)
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ムツキが【テレポーテーション】で家の前に戻ると、まず彼の目に飛び込んできたのは扉が破壊されて穴の開いた家だった。それから彼が急いで家の中に入ると、切り刻まれたり射貫かれたり焼かれたりした無数の肉片が転がっていた。それはすべて触手の肉片である。
さらに彼が部屋の真ん中辺りに視線を移すと、そこには倒れているナジュミネ、サラフェ、コイハ、メイリ、ケット、クーがいる。
ムツキの魔力がざわつく。彼の魔力のざわめきは比較的近くにいたナジュミネを起こすのに十分だった。彼は彼女の方に駆け寄り、身体を起こしてあげる。
「……ナジュ、大丈夫か? すまないが、何があったか分かるか?」
「うっ……だ、旦那様か……すまぬ……留守を任されたのにこのざまだ。ほぼ為す術なく、リゥパとキルバギリーをアニミダックに攫われた……」
まだナジュミネは半覚醒といったところか、頭を痛そうにしながらもムツキに状況を説明し始める。
「む、無理はするな……。だけど、アニミダックか……。サラフェ、コイハ、メイリは大丈夫なのか?」
ムツキの問いかけに、ナジュミネはすべてゆっくりと縦に頷く。
「妾たちは大丈夫だ。旦那様の【バリア】があったからな。アニミダックは、直接手を出せないと知っていたようで、触手から妾たちを眠らせるためのガスのようなものを生成して出してきたんだ。だから、気だるさはあるものの眠っただけでダメージはない。それよりもケットとクーのダメージが大きい……回復してやってくれ」
ナジュミネはムツキにケットやクーの方へ行くように伝える。彼がケットやクーをよく見ると、ケットとクーはナジュミネたちと違い、全身にケガをして気絶していた。
「っ! ケット、クー、大丈夫か!? 【ヒーリング】」
「主様か……俺は大丈夫だ……」
「ご、ご主人、面目ニャいニャ……逃げ遅れた仔猫たちを人質に取られて、手が出せニャかったニャ……」
クーとケットはムツキの【ヒーリング】に包まれて、見る見るうちにケガが治っていく。だが、表情は面目ないといった様子でバツの悪そうにしている。
ムツキは「人質」という言葉に一瞬気が立ち、何とか自分を抑えようと必死になった。
「人質……だと? アニミダックってのは、そんな……卑怯な真似をする奴なのか?」
「俺らから見たらそうなんだが、ちょっとだけ違うな。そもそも、アニミダックに自分が卑怯かどうかなんて頭はない。自分が良ければそれでいいってやつだからな」
「そんなやつがユウの元カレなのか……」
クーの説明はどのように聞いても「どうしようもない奴」だった。
ムツキには、そんなアニミダックの下へユウが自分から行くとは考えにくかった。そうすると、レヴィアに聞いた話に信憑性が増してくる。
この時点でムツキは、ユウがどこにいるのか分からなくなっていたが、ユウが帰ってきたらいろいろと目いっぱい付き合ってあげようと思った。
「それよりも主様、ケットを重点的に治してやってくれ。俺の防御力と回復力なら、ここまでしてくれたら問題ない」
「分かった! それと、ナジュ、すまないが、皆を起こしてくれないか?」
ムツキはケットを治療しながら、ふらふらながらも起き上がったナジュミネにそうお願いをする。
「承知した」
ナジュミネはサラフェ、コイハ、メイリを揺り起こす。
「……っ。強制的に眠らされてしまいましたか」
「これが強制的に眠らされるってやつなのか。正直、怖いな……」
サラフェとコイハが頭を振って早々と目を覚まそうとしている隣で、ようやくメイリがぼーっとしながら起き始めた。
「ん-……ふわぁ……アニミダックに強制的に眠らされちゃったのね……。それにしても、なんだか身体が……ん? んん? な、なんなの!? どうして! 私の手が! メイリの手みたいになっているのおおおおっ!?」
メイリが自分の両腕を見て、彼女の目玉が飛び出すかと思うくらいに驚いて絶叫していた。周りにいた全員がそれにつられてか、驚いた顔をする。
「め、メイリ? 大丈夫か? 何か眠った以外に、何かあったのか?」
ムツキはメイリが眠らされた以外に何か攻撃を受けたのかと心配になる。
「ちょっと、ムッちゃん! 私はリゥパよ! メイリが……あれ、いないわね……。だとしてもメイリがいないからって……私がメイリの代わりに……なるわけないって、言わせないでよ! ……って、もしかして今、私がメイリに変化しているってこと!?」
リゥパと自称するメイリが跳び上がって立ち、自分の全身をくまなく眺める。タヌキの手足、耳、尻尾、髪の毛の色は黒く、そして何より、下を向いても地面が見えないほどの大きな胸がそこにあった。
「ってことは、リゥパなのか!?」
「そうよ! 私はリゥパよ! あ、でも、この、胸がぽよんぽよんしている感じ……いいわね。これならたしかにムッちゃんじゃなくても、触りたくなっちゃうかも……? ちょっと、これ、夜に使ってみたいわね……今夜どう?」
「え、いや……どう、って、今言われても……えっと、まあ……いいけど……」
ムツキはそんな場合じゃないと言いたいところをぐっと飲み込んだ。彼から見ると、メイリにしか見えないリゥパがどうにも状況を飲み込めずに、自分の変化に混乱しているように見えるからである。
まずは落ち着かせないといけないと思って、冷静に返すように努めたのだ。
「リゥパよ……和ませる気なのか、気が動転しているのかは分からんが、こう……周りがシリアスな感じのところに、ボケを入れるのはやめてくれないか? あと、旦那様も……強く言えないのは分かるが、最終的に答えているんじゃない! いいけど、って言っている場合か! 流され過ぎだ!」
しかし、ムツキの優しさとは別に、ナジュミネが冷静にツッコミを入れた。その冷静なツッコミを受けて、リゥパが唸り出す。
「……ごめん。本当にちょっと待ってくれる? 少し頭を整理する時間を頂戴……私もこう見えて結構いっぱいいっぱいなのよ……」
「あぁ……こう見えても何もどう見てもいっぱいいっぱいだろうなと思うぞ……」
その後、リゥパが冷静になるのに、5分ほど要した。
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