3-35. 女の子たちは応戦していたが敵が卑怯だった(2/4)
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ムツキやユウほどではないが、アニミダックの十二分に強く大きすぎる魔力にケットやクー以外は冷や汗が止まらない。
「魔物でもたまにいるけど、触手ってどうも好かないわね」
「触手が好きな人っていますの? サラフェは大嫌いです」
「緊縛の一種でしょうから、いるかもしれませんが、特殊かもしれませんね」
「縛る……ね……ムッちゃんに言われたら……断れないかも……」
「頬を赤らめて言うことじゃありませんよ……しかもこのタイミングで……」
「そうですね。もしマスターの性癖が増えてしまったら対応するしかありませんね」
「えっと、キルバギリー? サラフェの話を聞いていますか?」
女の子たちは、周りの触手の動きに生理的な嫌悪感を抱いているようだ。
「おいおい、軽口を叩いている場合じゃないぞ。……囲まれているのか。メイリとコイハは下がれ、というか、真ん中に居ろ。旦那様に似ているが、少し……いや、かなり、おぞましい感じがするな……。これが魔人族の始祖の一人、アニミダックなのか」
ナジュミネがいつでも魔法を出せるように手に魔力を込めている。その彼女をアニミダックは一瞥した後に小さく溜め息を零した。
「まさか、鬼族の小娘ごときが俺を呼び捨てとはな……。まあいい、久しいな、ケット・シーと……忘れてしまったな、犬コロの名前など」
クーは笑う。
「ふっ……クー・シーだと何度言えば覚えられる? 脳みそまで触手か?」
「あぁ……思い出した。そんな名前だったな。しかし、弱いくせに相変わらず生意気だな」
アニミダックは苦虫を嚙み潰したような表情でクーを睨み付けた後に、ゆっくりと触手で囲んだケット、クー、女の子たちをざっと眺めながら周りを歩き始める。
「しかし、なんだ、いろいろな種類の……女ばっかりいるな……獣人や半獣人……魔人族や幼い人族まで、使用人だか奴隷だかにしているとは、ムツキとやらはとことん変態野郎だな」
「今、あの男、サラフェのことを幼いって言いましたか? いえ、言いましたよね!」
サラフェは警戒よりも怒りのこもった目をアニミダックに向ける。今にも斬りかからん勢いだが、キルバギリーが制止している。
「怒りで警戒を怠るなよ? 旦那様が戻って来るまで、いや、妾たちは妻として留守を預かった身だ。旦那様の手を煩わせるまでもない! 触手ともどもお帰りいただこう!」
「……は? 妻? お前ら、もしかして、ムツキってやつの……まさかな……」
アニミダックは信じたくないと言った顔をする。
「急に何だ? 妾たちは妻、パートナー、伴侶と言った類だが、それがどうした?」
「はあっ!? ユースアウィスがいるのに、ユースアウィスがいるのに、多妻……ハーレムを築いているだとおおおおおっ! しかも、人族や魔人族でもない下等な獣人族や半獣人族までユウと一緒にしているだとおおおおおっ!? ふ、ふふふ、ふふふふふふふ、ふざけるのも……ふざけるのも、大概にしろよおおおおおおおおおおおおっ!」
ムツキにはユウがいるのだ。アニミダックからすれば、ユウがいるだけで十分だとしか思えない。仮にユウに相手にされない時に、ムツキが使用人や奴隷に手を出すことがあるかもしれない。それはそれでユウ一筋のアニミダックにとっては、信じられないことで腹立たしいことだ。
しかし、ムツキが目の前にいる女の子たちを使用人でも奴隷でもなく、順番はあるとはいえ、ユウと同格の妻扱いをしていることに、アニミダックは発狂しかけていた。
「きゃっ! 触手がさらに出てきて襲い掛かって来た!?」
「リゥパ、ご主人の【バリア】があるから、よほどのことがニャければ大丈夫ニャ!」
「ん? ユ、ユースアウィス!? じゃないな……。先ほどはきちんと見えていなかったが、模造の森人だったか。それと、なんだ、お前は? ユースアウィスに酷似しているが」
アニミダックは見落としていたリゥパとキルバギリーを見つけて興味津々である。
「キルバギリーです。レブテメスプ様の造りし最強兵器です」
アニミダックはキルバギリーの話を聞いてから、腹を抱えて大笑いを始める。
「ははははははっ! そうか、あいつ、ユースアウィスに振り向いてもらえないからって、似た容姿のラブドールを作ったのか! どうだ、あいつのは気持ち良かったか? それとも、あいつのが使えなくて、ムツキに乗り換えたのか? こんなに多けりゃ、毎晩は相手してもらえないんだろう? ラブドールの存在意義はあるのか?」
キルバギリーだけではなく、アニミダック以外の全員が不快感を隠さない。
「……極めて不快ですね。マスターと似た顔でそう言われるのは腹立たしささえ覚えます」
「面白い、人形風情が感情を露わにするか。本当に中々面白いな。決めた。そこの2人はついでにもらってやろう」
「勝手に決めないで!」
「勝手に決めないでください!」
「お前らごときに拒否ができると思うな。それに、ユースアウィスも知り合いが多ければ安心するだろうから絶対だ」
アニミダックが触手をどんどん増やし、触手に触手が生えていく。そうして、あっという間に家の中は触手で埋め尽くされる。
「貴様、まさか、ユウがいないのは貴様のせいか!」
ナジュミネがそう言い放つと、アニミダックが刺すような鋭い眼光で反応する。
「ユウだと? ユースアウィスのことを言っているのだったら、言い方に気を付けろ、小娘が! それと、ユースアウィスは今後俺と暮らすことが決まっている!」
「みんニャ! 家はまた直せばいいニャ! まずはアニミダックを追い出すニャ!」
ケットの号令とともに、全員が各々の行動に移った。
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