3-32. 竜王の所に来てみたが女神様は来ていなかった(2/3)
約2,000字でお届けします。
楽しんでもらえますと幸いです。
レヴィアはムツキの問いに唸り始めた。その唸りでさえ、海に大きな波を立てることになる。彼女は考えた末に、そもそもの話に行き着く。
「うーん……特にないと思うけど、だいたいな、言うても、近くにケットおるんやから、遠くのウチよりケットの方が何かとばんばん気付きますやろ。全世界おしなべてって言うんやったらともかく」
レヴィアとケットであれば、彼女の言う通り、ケットの方が魔力探知や気配察知は上手である。もちろん、彼女が世界中にその身体を這わせているので、ケットよりも広範囲を知ることができているのも確かである。
ケットやクーがモフモフ探検隊にある程度集中していなければ、もしかしたら、小さな気付きは得られたかもしれない。だが、過去のもしも話はあまり意味がないのである。
「そうなんだけどな、ケットやクーはその辺りにちょっと別件で気付かなかった可能性があってな」
「ほーなんやね、ん-、せやったら、あれ、気付いてないんやろか? ムツキはんがこないなとこに来てるくらいやし」
ムツキのケットへのフォローを聞いて、レヴィアが1つ思い出したかのように呟く。
「え、何かあるのか?」
「あんま確証ないけど、久々にアニミダックかディオクミスか、要は懐かしい魔人族の気配を感じてるんよ」
レヴィアはユウと同じようにアニミダックの魔力や気配を感じ取っていた。さらに言えば、今もアニミダックの魔力を微かに感じている。ただし、アニミダック自身が魔力や気配を隠そうとしているのか、場所の特定にまでは彼女も至れないようだ。
「アニミダック、ディオクミスって、魔人族の始祖ってやつか?」
「あんなあ、ウチは人族や魔人族が彼らをどう言うてんのかは知らんけど。まあ、古くからおるんは確かやし、始祖って言われてもまあ、間違いないんとちゃうかなあ」
「さよか……じゃなかった。そうか」
レヴィアの鷹揚な言い方にムツキの調子が若干崩れている。
「えっと、それで、そのアニミダックかディオクミスかの気配はいつ感じたんだ?」
「ん-。どないやろ、ちょうどそのユースアウィス様のおらんなった1週間前とちょうどくらいやと思うけど」
「ということは、その気配を確認しに行った可能性はあるな……でも、それなら、1人で探さなくても、俺やケットも一緒に探せばいいんじゃないか?」
ムツキは口元に手を当てて、少し考え込む。
「まあ、元カレやしね」
「も、元カレ!?」
実のところ、ムツキはあまり4人の始祖について理解していなかった。ユウやケット、ほかの誰も詳しく教えてくれないし、彼自身も昔いた人のことなどあまり興味がなかったからである。そのため、ユウの元カレと聞いて、彼は目を真ん丸にして驚いている。
「ムツキはん、なんや、知らんかったん? まあ、ユースアウィス様がわざわざ教えることもないんかな。ケットやクーかて、ムツキはんにわざわざ教えるようないけずな真似はせんやろし」
「そうか……えっと、じゃあ、元カレの所に戻ってるなら、そっとしておいた方がいいのかな……」
ムツキはユウが元カレに会いに行ったかもしれないという可能性にすっかり及び腰になって顔を俯けてしまう。レヴィアがその言葉を耳にした途端、上空の暗雲から激しい雷が落ちてきた。さらに、レヴィアは大きな口を開けて、怒りを露わにする。
「あんさん、ほんま、何言うてんの!? 自分、ユースアウィス様の旦那やろ! そないなんでユースアウィス様が喜ぶ思うてんのかいな!」
稲光はさらに激しさを増し、ついには、雨まで2人に降り注ぎ始める。ムツキは雨を魔法で弾くのも忘れてずぶ濡れになりながら、やがて、ゆっくりと顔を上げる。
「あ、いや、その……いや、正直に言うと、分からないんだ……俺に内緒でわざわざ元カレにこそこそ会いに行ったってことは、なんか俺に足りないものがあったのかなって……」
レヴィアがわなわなと震え始める。目の前にいるムツキがいつもらしくないのもそうだが、少し弱々しい感じがして、喝を入れなければと思い始めていた。
世界のほとんどは、ユウのさじ加減で決まる。そのユウのほとんどは、ムツキのちょっとした態度や仕草で変わることがある。つまり、間接的に彼は世界の状況を変えられるのだ。彼が望むなら、ユウはほとんどのことをやってのけてしまうだろう。世界の大改変も辞さないだろう。
だからこそ、周りが彼を優しくフォローしてあげる必要があるのだ。優しくとは、甘やかすことでもヨイショすることでもなく、彼の視野が狭くならないように広げさせて、その上で彼なりに判断させることである。
最後までお読みいただきありがとうございました。




