3-Ex8. 外に出られないが少しずつ力を蓄えている
約1,500字でお届けします。
楽しんでもらえますと幸いです。
樹海の洞窟の最下層と呼ばれる場所。毒蛇の王ニドの棲む泉。ニドは泉の底に尾の先を、この場所そのものに心を縛り付けられている。
かつての古傷はもう痛みを思い出させることもないが、悔しさだけを毎日忘れぬように彼の心に違和感を今も刻んでいた。
「この古傷もそうだが、不味い木の根を齧って生き長らえているこの屈辱、決してあの時のことを忘れはせぬ……自由を手に入れる……私は自由を必ずや手に入れる……ただの自由ではない……真の自由を、だ」
ニドはここに来てからというもの、毒蛇が持ってくる食料だけではどうにも足らず、世界樹の根を齧って飢えをしのいでいた。
一匹の毒蛇が洞窟の外から戻って来た。アニミダックと相対した毒蛇である。
「おぉ。同胞よ。よくぞ戻ってきてくれた。乱暴に扱われて怖かったろう。私のために苦労を掛けさせる」
毒蛇はニドに忠誠を誓っており、それを表現したいのか、首を上げたり下げたりしながら、彼の前で動いている。
「ふっふっふ……いつか一緒に自由になろう。さて、頼んだものはあるか?」
ニドはその毒蛇の姿を嬉しそうに笑いながら見つつ、優しい言葉を投げかける。毒蛇はそれを聞いてから、彼に這いより、ゆっくりと彼を噛み始める。
「ぐっ……ぐあああっ……感じる……感じるぞ……少しだけどいてもらえるか……」
毒蛇が何かを注入している。やがて、注入し終えた毒蛇はニドから少し離れる。何かを注入された彼は毒蛇が離れたことを確認してから、急にのたうち回った。しばらくして、疲れたのか、何かが馴染んだのか、彼はゆっくりと起き上がる。
「ふっふっふ……ふはははははははは……はーっはっはっはっは! 感じるぞ! 力を感じる! これがアニミダックのやつの力か」
ニドの高笑いが洞窟中に響く。彼は世界樹を身体に取り込むことで、不幸中の幸いか新たな固有能力【適応】も得られていた。
【適応】は他者の血や体液などを取り込むことで他者の力も得ることのできる能力だった。その他者の力には固有魔法や能力も含まれている。
「ふむ……アニミダックの【触手生成】か……この触手というのは、私の趣味に合わんな……ふむ……ならば……」
ニドはまるでアニミダックのように何本も触手を出すことができるようになった。しかし、彼は触手を見て、その形に違和感を覚えたようで、ぐにぐにと触手を変形させて、自分と同じような蛇の形に変える。
「触手のような意志なき傀儡を同胞と似たような姿にすることは、少し心苦しいが、どうか許してほしい」
どこからか現れた無数の毒蛇たち。毒蛇型の触手に毒蛇が目を合わせるように見つめている。その後、毒蛇たちは何事もなかったかのようにニドの方を向く。
「ありがとう……同胞の寛大な心に感謝が絶えない」
ニドは感謝の言葉を毒蛇たちに掛けながら、恭しく礼をしているかのように頭を上げ下げする。
「しゅー……ふしゅ……」
ある毒蛇がニドの前に出て、会話を始める。ニドの目が一瞬丸くなった後にその大きな口がいっぱいに開く。
「何!? 見つけた!? よくやった! さすがは同胞たちよ! 皆の頑張りはいずれ報われることを私が約束しよう。ふっふっふ……ふはははははははは……」
ニドの笑いは止まらない。彼の思い描く何かが近付いているようで、楽しみで仕方がないようだ。
「ふしゅ……ふしゅ……」
「……いや、まだ起こすタイミングではない……。もちろん、同胞の提案は魅力的ではある。しかし、その提案には難があるのだ。アニミダックとの共闘ができればいいが、残念ながら4人は仲が悪いのだ。あの女神の取り合いをして、世界を巻き込む大喧嘩をするくらいだからな」
ニドは自身の逸る気持ちを抑えて、毒蛇に行動を起こさないように伝える。彼は慎重に事を運ぼうとしていた。
全ては彼と同胞たちの理想郷のためである。
最後までお読みいただきありがとうございました。




