4. 友達との真の再会と盛大な自爆
「(もう無理)」
登校中、隣を歩く優斗をチラ見しながら彼方はまだ内心でプチパニック状態だった。
優斗の優しさに押し切られて一緒に寝てしまった。
しかも手を握ってしまった。
『しないの?』などと誘ってしまった。
それ以外にも沢山触れて甘えて誘惑してしまった。
再度心が壊れてもおかしくないくらいのイチャラブムーブのオンパレード。
「(なのになんで段々平気になってきてるのよー!)」
それなのに徐々に動揺の程度が小さくなってきている。
程良い恥ずかしさに収束しようとしている。
彼方は『慣れ』に気付いてしまった。
「(私どうなっちゃうんだろう)」
ハレンチな行為を優斗にし続ける淫乱な女性になってしまうのだろうか。
そうなったら嫌われてしまうのではないか。
そんな悩みすらも慣れて気にならなくなってくるのだろうか。
こんな風に悩みながらも無意識で左手を優斗の方に移動させてしまいそうになっている。
これも自然に差し出せるようになってしまうのだろうか。
「(嫌われたくないよ……)」
優斗が彼方を嫌うなんてまずありえない。
しかしそんなことは当人には分からないこと。
正真正銘、彼方は恋する乙女状態であった。
「うわぁ~ん、まっほー、みっちー、どうしよう~」
「え?」
「え?」
教室に着いて優斗と別れた彼方は友達に泣きついた。
まっほーとみっちーはそれぞれ友達の愛称であり本来の呼び方だ。
しかも感情を露わにして話しかけて来た。
それが意味することに二人は気付いたが、ぐっとこみ上げるものを必死に抑えた。
「…………どうしたのさ、かなちゃん」
「…………お姉さん達に任せなさい」
彼方が元に戻っている。
それなら自分達も元のように普通に接しよう。
二人は前からそう決めていたのだった。
笑顔で迎えてあげると決めていたのだった。
「恥ずかしくて言えないよ~」
「ズコー」
「それじゃあ何も分からないよ」
「だってだって~」
「でも篠ヶ瀬君関係なのは間違いないよね」
「うんうん」
「ええ!? なんで分かるの!?」
むしろそれ以外の理由を考える方が難しい。
彼方はここしばらく優斗以外に全く興味を示さなかったのだから。
「ははぁ~んお姉さん分かっちゃったかも」
「流石みっちーだね。それでそれで?」
「恥ずかしくなっちゃったんでしょ」
「!?」
「ビーンゴ!」
『好きな人』発言を始めとして、彼方はこの教室内でも多くのガチデレムーブを繰り返していた。
教室の外ではもっと多くの、そしてもっと強烈なことを仕出かしている可能性は誰から見ても高かった。
そんな彼方が正気に戻ったのなら、そして『恥ずかしくて』言えないということは、それらのムーブによる羞恥心が爆発したのだろうとほぼ正確に推測されてしまったのだった。
「バカップル全開だったもんね~」
「ううう~」
「教室以外だとどんなことやっちゃったの? 教えてよ?」
「や、やだよ!」
「やっちゃった? やっちゃったの!?」
「~~~~っ!」
「え、マジで?」
「やってない! やってないもん!」
「本当かなぁ? 怪しい~」
「本当だよ! まだやってないもん!」
「…………」
「…………」
「え、急に黙ってどうしたの?」
まだということはいずれやる予定があるのか。
などと弄りたいけれど出来なかった。
二人はまだ生娘であり、彼方程では無いが照れてしまったのだ。
それゆえ強引に話題を変えた。
「恋するかなちゃん可愛いなぁ」
「え? 急に何? どうしたの?」
「分かる分かる。元々可愛かったけど今の方が断然良いよね」
「え? え? 冗談だよね?」
二人は彼方の頬をつまんだり頭を撫でたりしながら褒め始めた。
そしてスキンシップはさらに加速する。
「冗談じゃないよ」
「そうよ。可愛くて美人で家事が好きで優しくてスタイル良くて尽くしてくれる女の子とか、童貞が考えた理想の女性像そのまんまじゃない」
「男になんかあげたくな~い」
「私が結婚した~い」
「ちょっと二人とも!」
そう言って抱き締めてくる二人を彼方は優しく受け止めた。
ちょっとしたおふざけなんだと思っていた。
こんな感じで冗談を言い合う事なんか何度もあった。
今回もまたいつもと同じワンシーンなのだと感じていた。
「まっほー? みっちー?」
だが二人は離れようとはしなかった。
むしろ抱き締める力が強くなり、その体が少し震えていた。
「…………」
「…………」
「…………」
三人はしばらく無言でそのまま抱き合う。
謝罪、後悔、赦し、呵責、歓喜、安堵。
多くの複雑な感情が交差する。
そしてそのまま何事も無かったかのように体を離した。
本当に大事なことは誰も居ないところでしっかりと話し合うつもりであり、今はこれだけで十分だったのだ。
「それでぶっちゃけ彼とはどんな感じなの?」
「え?」
「そうそう、どこまで進んでるの?」
「どこまでって……その……」
唐突に話が戻り焦ってしまったのか、反射的に『どこまで』の内容を思い出してしまった。
「わぁお、真っ赤」
「やっぱりかなちゃんならそうなるよね~」
今までの照れもせずに押せ押せだった彼方の姿に二人は違和感を覚えていたようだ。
やはり今の彼方の反応こそが素に近いのだろう。
「一緒に登下校して、愛情たっぷりのお手製弁当を作ってあげて、ラブラブだもんね」
「家でもそうだったりして」
「何言ってるの。それじゃあ同棲じゃん。流石にそんなことないでしょ」
「…………」
「え、マジで?」
「その反応、ホントに!?」
「あ、いや、その……」
教室内の時が止まった。
彼方が異常をきたしていた間、二人は彼方に冗談をほとんど言わなかった。
込み入った状況も聞かないようにしていた。
それは彼方が言ってはならないプライベートな事すらも言ってしまいそうな雰囲気があったから。
だから彼方達の学校外の状況は全く知らなかった。
ほぼ同棲状態であることも当然知らなかった。
しかしそれがついに明らかになってしまう。
しかも友達だけでは無くクラス中がその話を聞いてしまった。
誰もがその事実を受け入れられず、唖然とした表情を浮かべてしまう。
絶対にあり得ないことだと脳が理解することを拒否していた。
しかしガチ照れする彼方の様子がそれが真実だと告げていた。
そして時が動き出す。
「きゃああああ! 本当に!?」
「やったの!? やったんだよね!? どうだった!?」
まず二人の友達が大騒ぎ。
「同棲!? マジで!?」
「信じられなーい!」
「羨ましい……ギリギリ」
「うわぁ。どんな感じなんだろう。聞きたーい!」
「妬ましい……妬ましい……」
「マジヤバくね?」
次いでクラスメイト達が大混乱に陥った。
「でも篠ヶ瀬君なら大丈夫そうだよね。ここではいつも紳士な感じだったし」
「でも家に帰ったら狼かもよ。ねぇやっちゃたんだよね。どうだったか教えてよ!」
「うわああああん! とりあえずみっちーは黙って」
正気に戻って初めて友達やクラスメイトと会うこの日、彼方は朝から早速やらかしてしまったのである。
「子供が出来たら見せてね!」
「馬鹿ああああああああ!」
「子供の作り方教えてね!」
「ほんとみっちー良い加減にして!?」
_(┐「ε:)_ズコー