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8. 閃と彼方と格好良い男

「初めまして、三日月さん」

「初めまして、都成さん」


 日曜日。


 閃と彼方はおしゃれなカフェで会っていた。

 と書くとまるで優斗に黙って逢引きしているかのように感じるが、もちろん優斗も一緒だ。

 決してNTRではない。


「何でカフェの中でもグラサン外さないんだ?」

「これ外すと女の子に声を掛けられちゃうからだよ」

「これだからイケメンは」

「だから大変なんだって……」


 おしゃれなカフェの客層は若い女性が多い。

 今でさえグラサンをかけても隠し切れないイケメンオーラに気が付いた女性達がチラチラと見ているのだ、もし外したら大騒ぎになってしまい話をすることなど出来ないだろう。


「やっぱり外した方が良いかな」

「いや、そのままで良いよ」

「そう?」


 優斗はチラリと横に座る彼方を見たが、閃に特に興味が無いようでメニュー表の写真をスマホで撮っていた。

 デザインが可愛らしくて気に入ったのだろう。


 その一瞬の視線の理由を閃は直ぐに理解した。


「なるほど、そういうことか」

「なんだよ」

「三日月さんに見てもらいたくないんだよね」

「ばっ、何言ってんだよ!」


 そんなことあるわけないだろう、と即答できなかった。


 別に彼方が閃の素顔を見たから何だと言うのだ。

 イケメンに興味を抱くかもしれないけれど何だと言うのだ。

 閃を好きになるかもしれないけれど何だと言うのだ。


 彼方が恋をして幸せになるのなら、むしろ良い事ではないか。


 そう思えなかった。


「ごめんごめん。今のは僕が悪かったよ」

「…………」


 イケメン弄りのちょっとした意趣返しのつもりだったが、思いの外効果がありすぎたことで閃は素直に謝った。

 この程度で仲が壊れる様な軽い関係では無いが、優斗が考え込みそうな雰囲気だったため強引に本題に入って忘れさせることにする。


「それで僕に聞きたい事って何?」

「あ、ああ。これなんだけど」

「督促状?」


 優斗は督促状を閃に手渡した。


 今日はこの督促状について閃に相談するために集まったのだ。


 彼方に確認したところ、弁護士はダメだけれど友達に相談する程度なら問題無いと分かった。

 それゆえ優斗は最も信頼出来る友人に相談することに決めたのだった。


 もちろん督促状や簡単な事情を閃に説明することは彼方に許可を取ってある。


「もしかしてこの詐欺に引っ掛かっちゃったとか?」

「やっぱり詐欺なのか?」

「当然だよ。こんなの滅茶苦茶じゃないか」


 どうやら相談したかいはあったようだ。

 閃はこの督促状が詐欺であると断言した。


「会社が個人にこんな大金を貸すことなんてあり得ないし、あったとしてもそれはグレーな会社であってこの会社がやるとは思えないよ」

「ん、閃ってこの会社知ってるのか?」

「もちろんだよ。一般的な知名度は低いかもしれないけれど業界ではそこそこ有名な会社だよ。株式上場もしてるしね」

「そうなんだ……」


 つまり誰かがその会社を騙って偽の督促状を送って来たという事なのだろうか。

 しかしそれにしては一つだけ奇妙な点がある。


「でもさ、この借りた人の名前って彼方の父親らしいんだ。しかもちゃんとこの会社に勤めていたんだって。それでも詐欺なのかな?」

「う~ん、この督促状があり得ないってのは間違いないよ。だから考えられるとしたら個人情報が漏れてるってことかな」

「個人情報?」

「そうだね。この会社で何かミスがあったか、三日月さんのお父さんが何かミスしちゃったのか。会社の情報まで分かってるってことは会社側でミスした可能性が高いけど」


 その漏れた情報を使って詐欺グループがこうして督促状をばらまいているのではないか。

 それが閃の推測だった。


「なるほど、そういうことだったのか」

「あくまでも僕の考えだよ。間違っている可能性もあるからね」

「でもこの督促状がおかしいのは間違いないんだろ」

「うん。それは絶対にそう」

「それが分かっただけでも助かるよ。なぁ、彼方」

「うん、ありがとう」


 これでありもしない借金に悩む必要は無くなった。

 彼方も完全に興味を無くしているようで、注文したパンケーキがいつくるかソワソワしている。


「良かったら僕の方で調べておこうか?」

「いやいや、そこまでする必要は無いよ。あまり大袈裟にしたくないからさ」


 何が彼方の導火線に火をつけるか分からない。


 警察、病院、そして弁護士。


 閃が動くことでこれらの仲間入りする可能性だって否定出来ないのだ。


 今の状況で問題無いのなら、下手に動かない方が安全だ。

 彼方の問題が解決した時に、ゆっくりと対応すれば良い。


「優斗がそう言うなら。でも何かあったらいつでも遠慮なく相談してね」

「もちろんさ。こうして今日も相談させてもらっただろ。サンキュな」

「もっと……いや、うん、そうだね」

「?」


 もっと何なのだろうか。

 閃が僅かに寂しそうな顔を見せるが、その理由が優斗には良く分からない。


「真面目な話はこれまで。ということで三日月さんとの話を聞かせてよ」

「ええ、気が乗らないなぁ」

「何でさ。報酬代わりに親友の恋愛事情を聞かせてもらうだけ。何も変なことは無いでしょ」

「だから恋愛とかそういうこと言うなって」


 またチラりと横を見るけれども、やはり彼方は話に興味が無さそうだ。

 というかパンケーキが待ち遠しくてそれ以外のことが頭に入って来ないのかもしれない。


「冗談はさておき、実はちょっと驚いてるんだよ」

「何がだよ」

「自分で言うのも本当に恥ずかしいんだけどさ。三日月さんが僕にこんなにも興味を持たないなんて。ここに来る前はどうやって程よく評価を下げようかって悩んでたんだから」

「評価を下げるってお前……でも確かに気になるな」


 女の子が見たらほとんどの人が目をハートマークにしてしまう閃のイケメン姿。

 グラサンでは隠し切れないそのイケメンオーラにピクリとも興味を抱かないのは確かに不思議な話だ。


 彼方はイケメンが好みで無いのだろうか。


 優斗はちょっとした興味本位で聞いてみた。


「なぁ彼方。閃に興味ないのか?」

「初めて会った人だから特には」

「でも閃ってイケメンだろ。女の子なら格好良い男子とか好きそうじゃん」


 その興味本位が巨大な爆弾に着火する行為だったと優斗は後悔した。




「篠ヶ瀬君の方が格好良い」

「ぶっ!」




 飲んでいたブルーハワイサイダーという謎の飲み物を盛大に噴き出しむせてしまう。

 彼方は照れた様子無くキョトンと平常運転。

 むしろ優斗の方が顔を真っ赤にして慌ててしまっていた。


 そして噴き出したものがかかってしまった閃はそのことを全く気にせずに大笑いしていた。


「あはは! 愛されてるね」


 そんな閃の言葉が耳に入らないほどに優斗は動揺してしまい、この日はもうまともに会話が出来なかった。

今章は文章量が少なめだったので少しだけ話数が長くなる予定です。

少しだけですよ。

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