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1話 森の中

少し長めですが、是非楽しんでいって下さい! 

※プロローグを読んでいないと話が繋がらないため、必ずプロローグを読んでから一話をお読み下さい。


 目の前が真っ暗で何も見えない。


 俺に、いやこの世界に、一体何が起きたのかすら把握できていない。


 俺はーーーー死んだのか?

 まあ死んだのなら、それはそれで良い。何故ならこの世界は静かで、俺にとってぴったりな空間だから。

 そう思った数秒後。

 静かな世界はあっという間に終わりを迎えた。



 『ーーくん、ーーて!』



 何だ……? 誰かが俺の名前を呼んでいる。



 『戸ーーん、起ーー!』



 なんだよ、さっきから……。

 いや、この声何処かで聞いたことあるような……。

 同じ声が繰り返される。



 『ーー田くん、ーーて!』



 やはり聞いたことのある声だ。

 繰り返される度強くなっていくその声は、徐々に明確に聞こえるようになっていった。



 「戸田くん、起きて!」



 はっきり聞こえたその声の正体は、あの生徒会長《篠原楓》だった。

 なんでここに篠原が……?

 


 「篠原……さん?」



 俺がそういって上体を起こすと篠原は今にも泣き出しそうな声で言った。

 


 「戸田くん、やっと目覚めてくれた……。死んじゃったかと思って心配したんだよ……」



 篠原は俺の手を握っていたらしく、その手をほどく。

 そう言われて俺は自分の身体を確かめるが、幸いにも怪我一つ見当たらなかった。

 ちなみに制服と持っていた鞄も無事だ。



 「俺は大丈夫……だけど、篠原さんは……その、怪我とか無いの?」


 「私も大丈夫だよ。もう、本当によかった……」



 篠原は一息ついてその場でストンと肩を落とした。

 どうやら篠原も無事なようで良かった。



 「起きて早々悪いんだけど、戸田くんはここが何処か分かる?」



 篠原は不安そうな表情で俺を見る。


 俺はそう言われて辺りを見渡してみると、驚いたことに俺たちが今いる場所は自然に満ちた森の中だったのだ。

 そこら中に草花が生え、木の根がうねうねと絡まっている。ここはいったいどこなのだろうか。



 「ごめん、分からない。なんで俺たち森の中に……」



 何故篠原と俺がここいにいるのか、それはよく分からない。

 が、正直なところ篠原と二人きりで同じ空間にいれることが二度も起きるというのは嬉しいなんてもんじゃない。

 

 だがしかし。こんな訳の分からない場所で互いに不安な状況、興奮しようにも恐怖が勝ってしまうのは当然だ。


 こんな時思うのだ。あの学校でのつまらない生活もこんな目にあうなら楽しんでおけば良かった、とーー。


 その瞬間休み時間や、あの放課後の出来事を思い出す。いや、やっぱりあのクラスはクソだ。

 

 そんな事を思っていると篠原は自分の鞄をゴソゴソと漁り、いかにも女子らしいピンクのスマホを取り出した。



 「さっきね、持ってたスマートフォンで確かめたんだけど圏外で……。やっぱり学校近くの森や林って訳じゃなさそう」


 

 篠原は髪を耳にかけると、スマートフォンを近づけてきた。

 ほら、と見せられた画面の左上の表示には確かに圏外と示されている。

 ではここは一体どこなのだろうか。俺はとりあえず立ち上がって言う。



 「ここが何処だか分からないけど、まずは森を抜けた方がいいと思う……。暗くなれば移動ができないし、森を抜けたら民家があるかもしれないし」



 こんな事を言うが全く自信は無い。


 どっちの方角へ行けばいいのかとか、夜になる前に森を抜けることができるのかとか、そんなの分かりやしない。

 何せ学校で陰キャだった俺が急に自分に自信を持てるかといえば、そんなの無理だ。

 そこまで頭も良く無い俺にはーー。


 しかし篠原には心配を掛けたく無い。



 「うん、私もそう思う。さぁ、行こう。戸田くん」



 篠原は立ち上がり、手を差し出してきた。


 

 「迷子にならないように。手、つなごっか」

 


 何の意図があるかは分からないが、確かにその通りだ。

 俺は素直に差し出された手を握る。


 長い髪が吹き抜ける風によってなびく。

 言葉では言い表せないその神秘的な姿に、俺は無意識に目を見開く。

 

 木々の葉が風に当たりザアザアと音を鳴らす。

 その間からこぼれる日の温かい光が、俺たちに希望を見せてくれる様であり、少しだけ心が軽くなった。

 

 俺は差し出された手を握る。やわらかく、やさしいその手を。



 「さっさと森を抜けて、家に帰ろう」



 そう言って俺たちは歩き出すのだった。




   ◇ ◇ ◇



 

 あれから何時間経ったのだろうか。


 俺たちは随分と長い間森の中を彷徨っている。



 しかし後ろにいる篠原は疲れていないのだろうか? ここまで何も食べていない俺はお腹がペコペコだ。

 かと言って、食べる食材なんてこの場に無い。我慢する他無いのだ。


 篠原が少し心配ではあるものの、いきなり振り向かれたら気持ち悪く思われるかもしれない。辞めておこう。


 陰キャな俺に話題を振る力なんて無いが、篠原に関して気になる事は沢山ある。

 ここまで無言で歩いてきたが、(と言っても一言も喋らなかった訳では無い)そろそろ喋らないでいることが辛くなってくるところだ。



 「戸田くん、大丈夫? そろそろ休憩しようか?」


 

 タイミングの良いことに、篠原から話しかけてきたでは無いか。

 しかしその内容が心配されているものだったとは、男として情け無さを感じる俺。



 「うん、気にしないで……大丈夫だから」



 とは言ったものの、正直言ってキツイ……! 当たり前と言ってしまえば当たり前だ。なんせ俺は体育の授業が苦手。得意な事と言えば美術ぐらいだった。

 体力のない俺がぶっ続けで歩ける訳もないと言うのに、なに元気に振る舞ってるんだか。



 「息、荒いよ。隠さなくて良いのに。それに私も疲れたし、一休みしよっか」



 篠原は繋いでいた手を離し、丁度良いと思ったのか朽ちた切り株の上に腰を下ろした。


 続けて「ふぅ」と息を吐くと鞄からスマホを取り出し、現在時刻を確かめる。



 「歩き始めてから二時間経ったみたい。てっきりもっと長い間歩いてるのかと思ったけど、そん事なかったね……」



 同感だ。しかし二時間歩いても森を抜けないとはどこまで続いているんだ? 少し不安な気持ちが昂って来る。

 


 「大丈夫だよ、篠原さん。俺たちなら抜けられる」



 「うん、そうだね。戸田くんを信じるよ」


 

 優しい彼女の笑顔を見ると俺が篠原を護らなくてはならない、という謎の使命感に駆られる。なるほど。

 確かに美少女と言われ男子達から人気を集める理由がわかった気がする。

 俺はそれから一、二分後 ついに“ 謎 ”について質問する事にした。


 「その……篠原さん。ここに来る前って学校にいたよね?」


 「うん、そうだよ。あ、そうそう、これ見て欲しいんだけど……」



 そう言って手に持っていたスマホートフォンの写真アプリを開くと、俺が見たものと全く同じ“ 光 ” が画面いっぱいに映されていた。


 「これ、俺が見たものと一緒だよ。篠原さんも見ていたなんて……」



やっぱり俺たちは“ あの光” によってここに連れて来られたのだろうか? しかし“ あの光” の正体は一体……。



 「戸田くんも見たんだね。よく分からないけど、必死で片手に持ってた携帯で撮ったの。でも気づいたらこの森にいて、近くに君がいたから……」



 そう言うと篠原は携帯を鞄にしまい、軽く背伸びをした。



 「んーっと。さ、私はもう大丈夫だよ。戸田くんはどう? まだ休む?」


 「俺も大丈夫だよ。心配してくれてありがとう」


 「ううん。疲れたら言ってね。あと、ここまで一緒にいるんだし、他人じゃ無いんだから呼び捨てで良いよ」



 ん?今なんて……。 

 俺は篠原のその一言に食いつく。



 「え、呼び捨て……?」



 うんうん、と首を縦に振る篠原。



 「いや……でも……篠原さんと俺は釣り合わないし……」


 「だーかーら、篠原さん、じゃなくて?」


 「えぇ! まだ心の準備できてない!」



 むぅっとする篠原を見て、その表情を見れば流石に俺も諦める。 



 「ごほん……。えっと…………し、しのは……」


 「し? もっとはっきり言ってよ、戸田くんっ」



 声に出すのがこんなにも難しいとは……仕方がない。

 ここはもう思い切って行ってしまおう……!



 「し、……篠原っっ!!!」



 俺は異性に呼び捨てで読んだことは一度も無かった。

 まさか今日がその記念すべき一回目であるとは……


 俺の声はあまりにも勢いがあったのか、木々に止まっていた鳥達がバサバサと飛び立っていった。


 「ふっ……戸田くん、勢いありすぎだよ」


 そんなクスクスと笑う篠原を見ると、何だか元気になれるような気がした。


 「ごめん、でも笑い過ぎじゃない?」


 俺がそう言うと、申し訳なさそうに「ご、ごめん! そんなつもりは……!」と慌てふためく篠原。

 俺はこの一連の流れを見て、なんだか面白くなってしまった。


 「じゃあ、太陽が沈む前に行こうか。篠原」


 「うん。そうだね」


 俺達はまた立ち上がり、歩き始める。

 今度はちゃんと話せそうだ。


 そう思いながら傾きつつある太陽を眺めた。


 

ここまで読んで頂きありがとうございました。

これからも宜しくお願い致します。

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