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27.「生還」

 ――助けてくれ!


 声がする。


 ――お願い、許して!


 いろんな声だ。

 どれも必死で、哀しい声。


 なんとかしてあげなくちゃ。


 目を開けると暗闇が広がっていて、いくつもの青白い光の球が浮かんでいた。

 声は、ひとつひとつの球から聞こえてくる。


 ――嫌だ! 死にたくない!


 球のひとつに触れると、すっと溶けるように俺の手のひらに吸い込まれていった。


 ――なんでもするから!


 また別の球に触れる。今度も同じように、俺のなかに溶けていく。

 そのたびにどうしてか、温かい気持ちと寂しい気持ちの両方が、同じくらいの強さで心に爪を立てた。


 ――ごめんなさい。


 最後の球に触れると、暗闇がガラガラと崩れ落ちた。

 その先にあったのは、また別の種類の暗闇だ。

 馴染み深い、瞼の裏の闇。



◇◇◇



 目を開けると、傾いた日差しに照らされて薄く棚引く雲と、淡いブルーの空が見えた。

 俺はどこかに横たわっていて、しかも全身が尋常じゃなく痛い。


 特に頭の痛みが酷い。割れそうだ。

 手で頭に触れると、ぬるぬるした感触が指先に伝わった。


 え。

 血だ。

 俺、頭から血を流してる。

 自分の血を見るのって、いつぶりだろう。


 深呼吸をして立ち上がる。

 俺は、なだらかなクレーターの中心にいた。クレーターの周りは見渡す限りの草原。


「……あっちが王都か」


 草原の先に、銀色の木の葉を頂点に乗せた特徴的な塔が見えた。五百メートルくらい離れているだろうか。

 何が起こってこうなっているのかは、ちゃんと分かってる。


 さっき暗闇のなかで経験したのがなんだったのか。

 確実なことは言えないけれど、きっと『死霊砲台ヘカトンケイル』に殺された人たちの魔力が、ああいったかたちで表れたのだろうとは思う。


 あれは、存在しちゃいけない兵器だ。


「待ってろ、魔王具」


 そう呟いて、俺は教会まで駆けた。



◇◇◇



 信者を振り切って最上部まで登ると、目を見開いたシスティーナと視線が合った。


「あ、え!? な、ななな、なななななんで生きてるんですか!? まま、まさかヘカ様が負けた!? うぇ!?」


 動転する変態聖女を無視して、盾を右手に握り、標的へと足を運んだ。


 覚悟しろよ、魔王具『死霊砲台ヘカトンケイル』。

 盾を振りかぶる。標的は眼前の禍々(まがまが)しい砲台だ。


「シールドバッシュ!!」


 俺の盾と砲台が激突して、空気の層が弾ける。

 一瞬だけ遅れて、壁ごと魔王具が木端微塵になり、吹き飛んでいった。


 教会の最上部は、完全に吹き抜けになった。


「あ、あ、あ、あ、そんな……そんな……ひぃっ!」


 システィーナへと向き直る。

 彼女は尻もちをついて、近寄ろうとする俺から後退した。


 やがて彼女の背が、壁に到達した。


 システィーナの瞳には、先ほどまでの愉悦も快感も浮かんでいない。怯えきった表情。


 こいつは最低のクズだ。

 間違いなくリリア以上の悪党で、放っておいたらまた何かとんでもないことをしでかすかもしれない。

 だから――。


 パシン!


 その白い頬を一度だけビンタした。


「もうあんたには奇跡の治癒能力も、人殺しの兵器もない。でも信者はいるし、教団はまだある。いくらでもあくどいことはできるだろうよ」

「あ、え?」

「……次、『ヒュブリス教団』の悪事の噂を聞いたら、あんたが信者にしたのと同じ目に遭わせてやる」


 システィーナは打たれた頬を片手でかばいながら、きょとんと俺を見上げている。


「だから、これからはちゃんと信者を守ってやれ。導いてやれ。あんたは教祖なんだ。……俺には守れないし救えない人も、あんただったらどうにかできるんだから」


 こいつが最悪の行いをしてきたけれど、一方で、パペのお母さんのように不治の病を治してくれたことは事実だ。

 今では奇跡の治癒魔法は失われただろうけど、それで教団が一気に崩壊するわけじゃない。


 きっと多くの信者はこれまで通り教団を――祈りを捧げる相手を必要とするだろう。こいつが信者を、ちゃんと導いてやればいいだけだ。


「でも、神様は……ヘカ様はもう……」

「別の神様を作ればいい。物じゃなくたっていい。というかそれくらい自分で考えろ!」


 こいつの崇めてた神様は、結局のところはただの兵器だったわけだ。だったら、別のなんでもないものを神様として崇めればいい。

 そして、もっと穏やかで開放的な、不正のない活動をすればいい。


 不意に、パペが身じろぎした。


「ん……」

「パペ、大丈夫か?」

「あ……ルークさんだ……え!! るるるルークさん頭から血が!!」

「平気だよ、丈夫だから」


 そう言うと、パペの目が潤み、ぼろぼろと涙をこぼし始めた。


「ルークさんはいっつも、そう言いますね」


 半壊した部屋に流れる嗚咽は、長く長く続いた。

お読みいただきありがとうございます!

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