19.「洞窟大脱出」
「ボクたち、なんだかものすごい体験しちゃってますね!」
「ああ、ほんとに……」
絶滅したと伝えられているブレイド・ドラゴンの背に乗って飛ぶだなんて、誰に言っても信じてもらえないくらいの体験だ。
俺たちは今、キュールの背に乗って縦穴を垂直に昇っていた。
キュールの翼が上下するたびに、ぐん、と高度が上がっていく。もうすでに、さっきまで俺たちがいた水晶の床は見えなくなっていた。
「このまま脱出ですよ、ルークさん!」
「ああ!」
「きっと外に繋がってるはずですよ。ほら、風の音も強くなってますし!」
ほんとだ。最下層にいたときよりも、隙間風みたいな音が大きくなってる。
頭上を見上げると――。
「あれは……外の光? にしては弱いな。そうか、夜だからか」
遥か上のほうで、かすかに光が漏れていた。
星や月が滲んでいるみたいな、弱いけれども外を感じさせる光だ。
「いよいよですよ、ルークさん。ボク、なんだかちょっと泣きそうですっ」
「え、どうして?」
「だってだって、ほんとは不安だったんですよぅ! もう二度と外に出られないんじゃないか、って」
確かに脱出できる保証はなかった。実際、頭上は外に通じているようだけど、キュールの力がなければたどり着けなかっただろう。
ありがとう。そんな思いを込めてキュールの背を撫でた。
段々と光に近付いていく。
もう少し――。
「嘘ですよね……」
パぺの絶望的な声が聴こえた。
俺も彼女と同じ思いだ。
光の正体は正真正銘、外の月明かりだった。
ただし、天井に走った小さな小さな亀裂から漏れ出ているのだ。それが天井を覆う紫水晶に反射されて、光そのものが大きく見えてしまったんだろう。
とてもじゃないが、人の通れる隙間じゃない。
「きゅるるるる……」
天井ぎりぎりで高度の上昇が止まった。
キュールは翼をゆっくり上下させて、そのままの高さを保ってくれている。
さて、どうしよう。
……と少し考えてみたけれど、思いつくアイデアはひとつしかない。
「パぺ。体力はまだ余ってる?」
「もちろんですよ。キュールちゃんと遊んでたっぷり休みましたから。今なら何個でも『タマゴ爆弾』を作れますけど、でも……」
振り返ると、パぺはがっくりと肩を落としたところだった。
「残念ながら、『タマゴ爆弾』じゃ亀裂を広げたりはできないのです……。地形に影響を与えないように調整された爆弾なので……」
それは分かってる。洞窟を進んでいる間に説明してもらったし、実際に体験したことだ。
見る限り頭上の亀裂は、ちょっとやそっとの力ではどうにもならないくらい岩盤に厚みがある。
つまり、普通じゃない衝撃が必要だ。
「パぺ……!」
「え、なな、なんですかいきなり肩を掴んでっ!」
「君にこんなことをお願いするのは申し訳ないんだけど……」
「なんですかなんですかー? ルークさんの頼みとあらば、ボクはどんな状況でも聞いちゃいますよー?」
「自爆してくれ」
◇◇◇
天井の水晶にしがみついたパぺと目が合った。
俺と彼女の位置は、どんどん離れていく。キュールがゆっくりと降下しているからだ。
ありがとう、パぺ。
そんな思いを込めて、俺は彼女に親指を立てて見せた。
直後――。
ドガアァァァァァァァァァン!!
パペは自爆した。
ありがとう。君の勇気は忘れない。
崩落した紫水晶や、天井を形成していた岩盤を、キュールは器用に回避する。
やがて、パペの髪色のオレンジが落下物の間に見えた。
「よ、っと」
落下したパペを受け止める。
もちろん、彼女は生きていた。
しかも元気いっぱいな笑顔を浮かべて、頬のあたりでピースサインを作っている。
「上手くいきましたね!」
「ああ! 君のおかげだ」
俺の魔法『防御付与』と、パペのスキル『自爆』。その組み合わせを説明したら、彼女は一発で頷いてくれた。任せてくださいよ、と。
見事に吹き飛んだ天井の先に広がる夜空は、パペの勇気の賜物だ。
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