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15.「とっておきのご馳走」

「パペ、頼む!」

「分かりました、ルークさん! 行きますよ~、えいっ!」


 轟く爆音。

 炸裂する閃光。

 煙が晴れる頃には、俺に接近戦を挑んできた魔物たちはあちこちに吹き飛んでいる。


 クリスタルリザード。ロックスコーピオン。ストーンスネーク。遭遇するのは硬い魔物ばかりだったが、どれもパペの『タマゴ爆弾』で一撃だった。


「本当にすごいな、パペの爆弾は」

「いやいやいや、ルークさんの硬さが異常なんですってば!」


 俺たちは洞窟内をスムーズに進んでいた。

 ピンチは一度もない。

 それもこれも全部、パペのおかげだ。


 倒した魔物の素材はパペのものにしていいと言ったんだけれど、彼女は断った。『一緒に戦ってるんですから、半分こじゃないと駄目です!』と。

 そんなわけで俺の『素材回収鞄』の中は、それなりに充実しつつある。

 納品すればそれなりのお金になるかも。ああ、でも、鍛冶屋のところに持っていってもいいかもしれない。


 俺がホクホクした気持ちで素材の使い道を考えていると、隣から口笛が聴こえた。

 見ると、パペはニコニコと歩いている。なんだか楽しそうだ。


「楽しそうだね」

「え!? あ、ごめんなさい。不真面目ですよね……。つい楽しくって」


 なぜかパペは申し訳なさそうに頭を掻く。


「いや、そんなつもりで言ったんじゃないんだ。俺だって楽しいしさ。誰かと協力して冒険するなんて初めてだし」

「え。ルークさんはずっとソロでクエストをこなしてきたんですか?」

「あ、いや……ええと……」


 嘘をつくのは簡単だ。頷いてしまえばいい。

 言い淀んだ挙句、正直に打ち明けることを選んだのは、器用に取り繕ったりするのが嫌になっていたからだ。


「実は、冒険者になってからずっとパーティを組んでいた相手がいたんだ」



◇◇◇



「――なんなんですか、その幼馴染はっ! ひど過ぎます!」


 道はいつしか、紫水晶があちこちから突き出る空洞へと変わっていた。透明度の高い水晶が、パペの憤慨の表情を映している。


 俺はこれまでの日々のことを、オブラートに包んで語り終えたばかりだ。それでも充分、リリアの酷さは伝わったらしい。

 ちなみにマルスのことまでは話していない。『友達は増やさない主義』って言ってたし、無暗に喋るのも申し訳ないからだ。

 マルスはすっかり寝入っていて、心のなかで呼びかけても返事をしてくれない。もぞりとポケットで寝返りを打つだけだ。爆発の音でも起きないなんて、羨ましいくらい寝つきが深い。


「ルークさん、すごく辛い目に遭ってきたんですね」

「あはは……どうだろうね。今はただ、こうして自由に冒険できるのが嬉しいんだ。今受注しているクエスト――『匂いリンドウ』摘みだって、すごく新鮮な気持ちで楽しかったよ」


「ふふ。お花摘みをそんなに楽しそうに話す人、初めて見ました。まるで駆け出しの冒険者さんみたいにキラキラしてますよ」

「駆け出しだよ、俺は」

「本物の駆け出し冒険者さんは、ルークさんみたいに沢山のスキルは持ってないですぅ」


 口を尖らせるパペを見て、自然と笑ってしまった。

 誰かと一緒に軽口を言い合いながら冒険するのって、こんなに胸が弾むものなんだな。知らなかった。


「そういえばパペは、どんなスキルを持ってるんだ?」

「あ、ボクのスキルボード見ます? 見ちゃいますぅ?」

「うん、見たい」

「しょうがないですねぇ」


 パペはニンマリと笑みを浮かべ、自分の腕時計の盤面を軽く叩いた。

 ブォン、という音と共に半透明の画面が空中に浮かぶ。


~~~~~~~~~~~

【職業】火薬術師

【冒険者ランク】B

【貢献度】2120ポイント

【習得スキル】

暗視

タマゴ爆弾

爆弾解除

自爆

~~~~~~~~~~~


「へー、パペも『暗視』スキル持ってるんだな」

「もちろんです。でなきゃ、灯りもなしにダンジョンを歩けないですよ」


 確かに。パペは灯りひとつ持っていないようだし、『暗視』スキルがあると考えるのが自然だった。


「……ちなみにルークさん。ボクのスキルを見て『少ないなぁ』なんて思ってませんか?」

「お、思ってないよ」

「目は口ほどに物を言います」


 あ、バレてる。

 少ないとまでは思わなかったけれど、厳選されてる印象があったのは確かだ。

 比較対象が自分しかいないので、変な先入観があるのかもしれない。


「あのですね、Bランク冒険者はこれくらいが普通なのです。どんなに多くてもスキルが十個を超えることはないでしょうね」

「それはなんで?」


 パペは得意げに人さし指を立てて、俺の質問に答える。


「それはですね、ひとつひとつのスキルを習得するのに膨大な時間と経験が必要だからですっ! 冒険者にとってスキルとは、歩んできた道のりを示すものでもあるんですよ。ルークさんって、耐性系のスキルが沢山ありますよね? 『熱耐性』とか『雷耐性』とか。それは――」


 パペの語るところによると、俺はリリアから受けた散々な仕打ちの影響で多くの耐性系スキルを得たらしい。真実は分からないけれど、『雷耐性』や『麻痺耐性』は彼女の魔法に由来するものだろう。

 もしかすると『熱耐性』は頭からかけられた紅茶のせいかも……んなわけないか。


 なんにせよ、耐性ひとつでも相応の時間と経験が必要なのは確からしい。

 となると疑問がある。


「はい、先生質問です」

「おほん。なにかねルーク君」


 本当にノリがいいな、この子。

 ちょっと感心して笑いそうになってしまった。


「スキルの習得には時間がかかるんだよな……? でも俺、なんかサクサク習得してるような気がするんだけど……」

「そこがルークさんの規格外なところなんですよ。ありえない防御力もそうですけど、スキルの習得速度もすごいですよ? だってボク、スキルボードに『New』の文字がふたつも並んでるのを見たの初めてでしたもん」


 どうやら俺の成長速度は異常らしい。

 ちょっと不安になってくる。大丈夫かな、この身体。


 ふと気になって、俺もスキルボードを開いてみた。


~~~~~~~~~~~

【職業】盾使い

【冒険者ランク】C

【貢献度】0

【習得スキル】

オートガード

魔法防御

魔物引き寄せ ⇒ デリシャス New

雷耐性

麻痺耐性

熱耐性

冷気耐性

シールドバッシュ

暗視

落下無効 New

防御付与 New

~~~~~~~~~~~


「なんだこれ」


『魔物引き寄せ』のところに矢印が出て、『デリシャス』とかいう単語を指している。


 思わず隣を見ると、パペが「また新しいスキルですか!? ん? あ、今度は上位スキルへの進化ですか!? 普通、スキルの進化は、スキルの習得よりも時間がかかるんですよ!?」なんて仰天してる。


 どうやら俺に、常識的な時間の物差しは通用しないらしい。


「でも、『魔物引き寄せ』が進化してるってことは……」

「さっきから色んな魔物に齧られてましたよね、ルークさん」


「あ、『デリシャス』ってそういうことか……」

「ルークさん、モテモテですねっ!」

「ははは……」


 どうやら俺は、魔物にとってご馳走に見えるようになったらしい。

お読みいただきありがとうございます!

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