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1.「最低な幼馴染」

新連載です。

どうぞ、よろしくお願いいたします。

「ルーク……アンタは紅茶ひとつ満足に淹れることもできないの? アンタって本当に何もできないのね。クエストでは、いつもいつもいつもアタシに迷惑ばかりかけてるくせに、生活能力すらないだなんて怒りも笑いも通り越して放心しちゃうわ。アンタ紅茶を淹れるの何回目だっけ? 百回? 二百回? いつになったら成長するのよ、ホント。幼馴染じゃなきゃとっくにゴミ箱にポイよ。いい? お情けでパーティを組んであげてることをキチンと理解しなさい。分かったら正座。ほら、早く!」


 王都の冒険者ギルドに併設された宿屋。その一室でリリアは、いつもの罵倒フルコースを俺に浴びせた。

 彼女の唇は、心の底から嬉しそうな嘲笑で歪んでいる。


 リリアは俺と冒険者パーティを組んでいる幼馴染だ。腰まである金髪は艶やかで、瞳は深いブルー。鼻筋が通っていて唇は薄い。巷では王都一の美女と囁かれている。

 そして、信じがたいことに『性格美人』とまで噂されているのだ。

 単に表では大人しくしているだけなのに。


 彼女とパーティを組んでいることを、これまで何度羨ましがられたことか分からない。

 俺と同じ冒険者から「あんな美人と幼馴染だなんて人生勝ち組じゃねえか」と言われたときには、思わず苦笑してしまったものだ。


「ルーク、聞いてるの? 何ぼうっとしてんのよグズ」

「あ、ああ、ちゃんと聞いてるよ」

「次のクエストはAランクダンジョン『氷の迷宮』の踏破よ。足を引っ張ったら承知しないから」

「Aランクダンジョン……? さすがに厳しいんじゃないか?」

「うっさいわよ。アンタの意見なんて聞いてない。いい? アンタはアタシよりも弱いんだから、マトモな判断なんてできるわけないでしょ。黙って大人しく自分の役割をまっとうしなさい」


 リリアは無茶ばかりする。幼馴染の俺とパーティ……というよりタッグを組んでからというもの、明らかに実力以上のクエストばかりを受けてきた。

 でも、今回ばかりは俺も黙って受け入れるわけにはいかない。


「この前のBランククエスト――『大量発生したフレイムリザードの殲滅』だって正直いっぱいいっぱいだったし、Aランクダンジョンの攻略だなんて……」

「でも楽勝だったじゃない。アンタが盾になって、アタシが攻撃魔法でやっつける。完璧よ。アンタの小粒な脳味噌じゃ理解できないだろうけど、『氷の迷宮』だって今までの作戦で問題ないわけ」


 俺は職業『盾使い』で、敵を引き付けて盾で防御する。その隙に、職業『賢者』のリリアがお得意の雷の魔法で倒す作戦だ。

 ただ、完璧だなんて言えない。前回のクエストではフレイムリザードの吐く火炎に包まれて、俺はひどいダメージを受けた。初期スキルの『防御の構え』のおかげで表面上は無事だったけれど、熱までは防げない。リリアがフレイムリザードを駆逐し終えるまでなんとか耐えたけど、楽勝だなんて言えるのは彼女だけだろう。


 そもそも俺は、初心者に毛が生えた程度の実力と呼ばれているCランク冒険者だ。

 リリアはというと、世間では『優秀』と呼ばれるAランク冒険者である。しかも、最上位であるSランクまで秒読みとまで噂されていた。Sランク冒険者ともなれば、世間では『英雄』と呼ばれる存在である。


「これまでは俺の防御が通用したかもしれないけど、Aランクダンジョンは別だ。頼むから考え直してくれないか?」


 抗議した瞬間、ばしゃ、と顔に熱い液体がかかる。

 フレイムリザードの炎よりはマシだけれど、せっかく淹れた紅茶がもったいないじゃないか。


「アタシたちのパーティはCランク冒険者のルークと、Aランク冒険者のアタシだけがメンバーよね? パーティリーダーは誰? 言ってみなさいよ、ほら」


 紅茶が顎を伝ってぽたぽたと膝に落ちる。


「君がリーダーだよ」

「どっちが強いのかしら?」

「君のほうが強い」

「これまで受注したクエストは全部こなしてきたわよね? 毎度毎度アンタが『無理だ』とか『自分には厳しい』とか言ったけど、結果的にクリアしたわけ。ところで、冒険者として判断力に優れているのは?」

「……君だ」


 今まで何度となく繰り返したやり取りだ。今さら屈辱なんて感じない。


「スキルボードを見せてみなさいよ。ほら早く」


 ギルドから支給された腕時計を軽くタップすると、ブォン、という音とともに半透明のウインドウが空中に浮かび上がった。


~~~~~~~~~~~

【職業】盾使い

【冒険者ランク】C

【貢献度】0

【習得スキル】

防御の構え

~~~~~~~~~~~


「相変わらず『貢献度』ゼロで初期スキルだけとか……恥ずかしいわ。あーあ、なんでアンタとパーティなんて組んじゃったのかしら。やだやだ」

「……」

「ほら、なんか言うことあるでしょ」

「ありがとう」

「主語が抜けてるんだけど? 何に感謝してるの? 部屋の埃にでも感謝してるのかしら?」

「パーティを組んでくれてありがとう」

「ほかに言うことないの?」

「迷惑ばかりかけてごめん」


 ようやくリリアは満足そうに嘲笑する。


『貢献度』とは冒険者ランクを決める指標で、クエスト達成や素材の納品で上昇するらしい。冒険者になりたての頃に、受付のお姉さんから説明を受けたのを覚えている。

 なんで俺の『貢献度』が上がらないのか、そのへんのことはさっぱり分からない。リリアが言うには「アンタが役立たずだからでしょ」らしいけど。


「作戦会議終了よ。さっさと自分の寝床に戻りなさい。まさかひとりじゃ寝れないなんてゴミクズみたいなこと言わないわよね?」

「おやすみ、リリア」


 部屋を出ると、自然とため息が漏れた。


 ずっと昔――本当に幼い頃はここまでひどくなかったと思う。お互い冒険者を志したくらいから、段々と今の調子になっていったのだ。

 今では一方的な罵倒や暴力にも慣れてしまった自分がいる。


「Aランクダンジョンか……頑張らなきゃな」


 気が重いけれど、ネガティブに考えたって仕方ない。

お読みいただきありがとうございます!

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