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34:おまけ。「おうじさま」(1)

これまでのおはなし。


もふもふ竜の少女キャロルは、人間の少年エディと恋に落ちました。「つがい」だと判明した二人は、いつまでも仲良く幸せにもふもふするのでした。

一方、キャロルの双子の姉シェリルの「つがい」が、うろこ竜の王子様だと判明!

眠り続ける王子様とシェリルの恋の行方は――?


本編の、カウント、ゼロ。「つがい」(5)あたりのお話になります♪

番外編は、全5話の予定です!

「じゃあ、私は王子様のところへ行くから! あと、よろしく!」


 小さなもふもふ竜の少女シェリル、十五歳。一目見たうろこ竜の王子様のことがどうしても忘れられなくて、半ば強引にこの竜の集落へとやって来た。

 集落の中で一番高い石造りの塔。石の階段をすっ飛ばして、シェリルは飛んだ。あっという間に豪華な装飾のついた扉の前に辿り着く。


(ここに、私の(つがい)さんがいるの。すごく綺麗で、かっこいい竜の王子様が……)


 ごくりと喉を鳴らして、シェリルは扉を開けた。

 部屋の中にあるベッドの上に、王子様はいた。ミントグリーンのつやつやした鱗。鋭い爪。長くてしゅっとしたしっぽ。蝙蝠(こうもり)みたいなするりとした羽。眠っているだけだというのに、その顔はとても凛々しく整っていた。


「キャロルお嬢様……じゃなくて、シェリルお嬢様! 置いていかないでくださいよ!」


 門番をしているうろこ竜が半泣きで部屋に飛び込んできた。シェリルは、そういえばこんな竜いたなと目をぱちぱちさせる。番に早く会いたかったので、つい置いてきてしまった。


「ごめんなさい、門番さん。王子様に早く会いたくて。……でも、やっぱり眠ったままなのね。番である私がこんなに傍にいるというのに」


 竜は、番が傍にいれば生命力が高まる。だから、王子様もすぐに目覚めると思ったのに。

 もふもふの手で、王子様の手を握る。ひんやりとした鱗の感触に、シェリルの頬が熱くなった。


「早く目が覚めないかな。お話、してみたいな」

「……昔から、眠っているお姫様に王子様がキスしたら目覚めるって言いますよね。早く起こしたいなら、キスしてみたらどうですか?」

「ええっ! キス?」


 門番の突拍子もない提案に、シェリルはぴゃっと飛び上がった。それから全身がばふっと熱を持つ。


「こっ、こんなかっこいい王子様にキス? 恥ずかしいのー!」

「え? でも番なんですよね? じゃあ問題ないんじゃないですか? あ、自分後ろ向いてますんで、どうぞ」


 大柄な門番がくるりと後ろを向いた。シェリルは恥ずかしさで悶えていたけれど、意を決して王子様の唇を見つめる。


(が、頑張るの! 早く起きてほしいもん!)


 シェリルはばくばくと鳴る心臓を押さえながら、王子様に顔を寄せた。

 王子様の規則正しい呼吸音に、腰がくだけそうになる。シェリルはふるふると震えながらも、王子様の唇に自分の唇を重ねた。


 ひんやりとした唇の感触。爽やかな青葉を思わせる香り。

 唇が離れる時、やけに可愛らしい音がして、シェリルは思わず顔を手で覆った。


 恥ずかしい。これは、本当に恥ずかしすぎる。


「……ん……」


 目の前にいる王子様が、(かす)れた声を漏らす。シェリルははっとして顔から手を離し、王子様を見つめた。


 ゆっくりと、その瞳が開かれる。透き通るような金の瞳がシェリルを捕らえた。


「君は、天使か……?」


 王子様がシェリルを見つめて、微かに微笑んだ。シェリルはその笑顔にこれまで感じたこともないくらいの衝撃を受けて、ぱたりと倒れる。

 竜の王子様は、シェリルの想像以上にかっこよすぎたのだ――。




 竜の王子様ヘルムートが目覚めたという知らせは、すぐに集落中に広まった。でっぷりの王様もそれはそれは喜んで、お祝いの宴を開催することになった。

 城の大広間に、貴族のうろこ竜が集まっている。王子様の目覚めをみんな喜び、会場は笑顔でいっぱいだった。


 王子様は堂々とした振る舞いで、貴族たちと接していた。シェリルは少し離れたところからその様子を見守り、うっとりとする。


(ヘルムート様、本当にかっこいいな。こんな人が私の番だなんて、信じられないの……)


 シェリルは、双子の妹キャロルのことを思い出す。妹は、番であるエディを見るたび、ふにゃふにゃ笑っていた。今、その妹の気持ちが、シェリルにもよく分かる。

 竜の番は運命の恋人、最愛の伴侶。顔が緩むのも当然だ。


 もふもふの手を頬に当てて、もじもじするシェリル。そんなシェリルの前に、すらりとしたうろこ竜の女性が立ちはだかった。


「あなたが、ヘルムート様の番ですの?」

「そうなの。あなたはだあれ?」

「……私はゴルネッサ。ヘルムート様とは結婚の約束をしている仲ですわ」


 ゴルネッサと名乗ったその竜は、シェリルを見下ろしてふふんと笑った。


「番というからどんな素晴らしい竜なのかと思えば。ただの桃色の小犬ではありませんの」

「犬じゃないもん! もふもふ竜だもん!」


 シェリルは必死になって言い返しながらも、ショックを受けていた。王子様には婚約者がいたのか。そんなの、全然知らなかった。


 ちらりと離れた場所に立っている王子様に目を()る。王子様は貴族の相手をするのに忙しいようで、シェリルの方を全く見てくれない。シェリルは悲しくなって、きゅーんと声を漏らした。


 落ち込むシェリルに、ゴルネッサは畳みかけてくる。


「あなた、ええと、シャロルさんでしたっけ?」

「シェリルだもん!」

「あら、そう。まあ、それはどうでも良いですわ。あなた、番だと言い張っているようですけれど、ヘルムート様の竜石(りゅうせき)を赤く染めたわけではないのでしょう? それでは本物の番だとは言えないのではなくて?」


 ゴルネッサの指摘に、シェリルは呆然とする。竜石は番を教えてくれる不思議な石。シェリルの竜石は王子様が番だと教えてくれた。でも、ゴルネッサの言う通り、王子様の竜石の反応は謎だ。

 だって、王子様の竜石は行方不明だというから。


「ただの赤い石を持ってきて、ヘルムート様をだまそうとしているのでしょう? でも、そうはいかないですわ。ヘルムート様は、この私ゴルネッサが守りますもの!」

「だ、だまそうなんてしてないもん!」


 シェリルは口をへの字にしながら、ゴルネッサを見上げた。ゴルネッサは勝ち誇ったような目で、小さなシェリルを見下ろしてくる。

 城の大広間には、ゴルネッサみたいな大きなうろこ竜ばかり。今、シェリルはひとりぼっちだった。


 今までこんな風にひとりぼっちになったことなんてなかった。いつも、誰かが傍にいてくれた。

 心細くて、悲しくて、シェリルの瞳からぽろぽろと涙が零れ落ちる。


「……シェリル嬢」


 (うつむ)いたシェリルの頭上から、低く優しい声が降ってきた。涙目のまま顔を上げると、そこには遠くにいたはずの王子様が立っていた。


「どうした、なぜ泣いている?」

「……ヘルムート様……」


 涙声で、シェリルは番である王子様の名前を呼ぶ。王子様はぴくりと片眉を上げ、黙ってシェリルの体を抱き上げた。


「今は祝いの宴の最中だ。そんな顔をするな」


 王子様はシェリルを抱っこして、宴の会場を出る。そして、隣の控え室に入ると、シェリルをソファの上に下ろした。

 そして、ひんやりとした手のひらで、シェリルの頭を撫でてくれる。


 少しほっとしたシェリルだったけれど、王子様はそれ以上何もせず、すぐに会場に戻っていってしまった。

 そう、シェリルをひとり、控え室に残して。


 急に、不安に駆られる。王子様の反応は、ちょっと冷たい気がした。シェリルは本当に、あの王子様の番なのだろうか。

 王子様に邪魔者扱いをされたような気さえしてきて、シェリルは悲しくなってしまう。


 ぽろり、とまた涙の雫が零れ落ちた。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 番外編楽しみにしていました♫ しかも5話もあるなんてー嬉し過ぎます(*´∇`*) [一言] リクエストの番外編を書いて頂き、ありがとうございます♫ 更新を楽しみにしています!
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