23:あと1年。「ひみつ」(2)
「キャロル! ブックマークが増えてるの!」
「きゃあ! 嬉しいのー! シェリル、一緒に感謝の舞を踊るの!」
「うん、分かった!」
双子竜は、いつも読んでくださる優しい方々に感謝の舞を捧げるのでした♪
今日からまた、毎日更新に戻る予定です。
エディの近くにいると、不思議と元気になれる。キャロルは、少しずつ起き上がって動くことができるようになった。父もシェリルも安心し、大喜びしている。
「さすがエディだね! キャロルへの愛が半端ないの!」
シェリルがくるくると喜びの舞を舞いながら、エディを褒める。かつてエディとキャロルの邪魔をしていた竜とは思えない言動だった。エディはほんの数年前のことを思い出して、苦笑する。
「シェリルは何か変わったな。前は『私の妹なの! 取らないでー』とか言ってたのに」
「大人になったの! ふふん!」
小さな胸を張り、得意げな顔をするシェリル。
寮の部屋は今日も賑やかだ。キャロルはみんなが楽しくしている様子を見て、ふにゃりと笑う。
ここでお世話になって、もう一週間。父もシェリルもすっかり騎士学校の人たちに馴染み、穏やかな時間を過ごしていた。キャロルがどんどん元気になっていくので、父も安心したようだ。キャロルを急かすことなく、のんびりとさせてくれている。
シェリルがクッションの上で丸くなっていたキャロルの傍に寄ってきた。
「ねえ、キャロル! ムキムキ先生に聞いたんだけどね、明後日、試合があるんだって。模擬戦? っていうのをするらしいよ!」
シェリルの言葉に、キャロルはぴょこんと起き上がった。
「シェリル、それ本当? 私、応援に行きたいの!」
「本当だよ! じゃあ二人で一緒にエディを応援する?」
「うん! 応援するの!」
双子竜が仲良くくるくる踊るのを見て、エディが困ったように笑う。
「応援してくれるのは嬉しいんだけど、今度の対戦相手はラスなんだ。あんまり良いところ、見せられないかも」
「ラス? え、ラスって強いの?」
「うん。あいつ、ああ見えて同期の中で一番強いんだよ」
「ええー?」
キャロルとシェリルは二人揃って驚きの声をあげる。ラスは白銀の髪に青の瞳、どちらかというと華奢で儚げな感じの少年だ。中身もへらへらしているお調子者で、とても強そうには見えない。
以前エディと戦っているところを見たけれど、そこまで強い感じはしなかった。
「エディならラスに勝てると思うんだけど……」
「うーん、でも俺、一回もあいつには勝ったことがないし」
暗にエディは試合を見に来るなと言っている気がする。キャロルは自信がなさそうな様子のエディを元気づけたくて、ぴっと立ち上がって宣言した。
「試合に勝ったら、ごほうびをあげるね! 今度こそ、キスを贈るの!」
「え、でも」
「頑張ってね! ラスをやっつけて、勝利を掴むの!」
傍にあったクッションをラスに見立てて、キャロルはぽすぽすと拳を繰り出した。
そうしていると、ラス本人が部屋に帰ってきた。
「クッションとぬいぐるみが遊んでるー! あはは、えっと、シェリルちゃんかな?」
「違う! 私はキャロル!」
「あれ、やんちゃな方がシェリルちゃんじゃないのか?」
ラスがまた頬をつんつんしてきたので、キャロルは半泣きでエディの背中に隠れる。
それを見て、やけに嬉しそうにラスが笑った。
「いやー、本当に可愛いよね。あ、今度の試合、俺が勝ったら人間キャロルちゃんにキスしてもらいたいな! 良いよね、エディ?」
「良いわけないだろ」
「えー? キャロルちゃんのキスが欲しいなら、頑張れば良いだけじゃん。うん、決めた。俺勝ったら、強引にでもキスしちゃおうっと」
ラスの不埒な考えに、キャロルは涙目で口を手で覆う。
(絶対、絶対、嫌なの! エディ以外の人とキスなんかしないもん!)
エディの背中にぴったりとくっつくと、その背中が小刻みに揺れていることに気付く。どうしたのかと思って顔を上げたキャロルは、びくっと体を震わせた。
そこには憤怒の形相で、真っ黒なオーラをまとったエディがいた。眉間に皺を寄せ、鋭い視線でラスを貫いている。
ラスはというと、余裕の表情でその視線を受け止めていた。
「そんな顔しても駄目だよ、エディ。キャロルちゃんのキス、俺だって欲しいもんね」
へらりと笑って身を翻すラス。部屋の空気は、夏だというのにひんやりと冷えきり、キャロルはシェリルとくっついてぷるぷる震えたのだった。
そして、迎えた試合当日。
父と双子竜は、人化して訓練場へと向かった。擦れ違う人がみんな、美形の親子に見惚れてぼーっとしている。
キャロルは白いワンピース、シェリルは赤いワンピースを着ていた。色が違うだけで、形はそっくりのワンピースだ。襟と裾にはレースの飾りがついている。双子は精一杯おめかしをして、エディの応援をする予定だ。
エディはラスに宣戦布告されてから、それはそれは不機嫌だった。さすがにキャロルの相手をしてくれている時は表情を和らげていたけれど、そうでない時は恐かった。
「ああ、来たな。そろそろエドワードとラスの試合が始まるぞ」
観戦席にはムキムキ先生がいた。竜の親子は先生の隣に並んで座る。
「今日のエドワードは気迫が違うな。良い試合になりそうだ」
「先生、エディは勝てるー?」
「さあな。しっかり応援してあげなさい」
「はーい!」
双子が元気に返事をした後、エディとラスが訓練場に現れた。
以前と同じように「はじめ」の合図で、木の剣がぶつかる音が飛んでくる。キャロルはごくりと喉を鳴らして試合を見守った。
どことなく余裕を浮かべて身を躍らせるラスに、険しい表情のエディが木の剣を振るう。攻撃を躱されるたび、エディの額から汗が滑り落ちた。
体力が奪われていくエディに対して、やっぱりラスは余裕な表情をしている。エディが隙を見せたら一気に叩くつもりのようで、じっとエディの動きを窺っていた。
ふらり、とエディの体勢が傾く。ラスの瞳がそれを捉えた。
「エディ! 頑張ってー!」
キャロルは祈るように叫んだ。その声に、エディの動きが応える。
ラスの繰り出した攻撃を寸前でいなし、その剣を力任せに弾き飛ばす。カラン、と乾いた音を立てて、ラスの剣が地面に転がった。
ラスが首を振って、両手を上げる。
「せ、先生、これって」
「うん。エドワードの勝ち、だな」
「きゃあ! すごーい!」
キャロルはぴょんと立ち上がると、そのままエディの元へと駆け寄る。エディは荒い息で呆然としていた。ラスに勝てたことが信じられないようだった。
「エディ! すごかったの! かっこよかったの! おめでとうー!」
ぎゅっとエディに抱き着いて喜んでいると、ラスがにやりと笑みを浮かべて近付いてきた。
「あーあ、キャロルちゃんのキスはエディのものか。惜しかったなー」
「全然惜しくなかった! エディの方が強いもん!」
ラスに言い返すキャロルを、エディが無言で引き寄せた。それから、ちらりとラスを一瞥した後、キャロルの手を取って歩きだす。
キャロルはきょとんとしたまま、エディに連れ去られた。




