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18:あと2年。「おでかけ」(2)

 冬がやって来た。キャロルは今年も伯父の屋敷に滞在する。


 エディは以前言っていた通り、騎士学校に通っているらしい。今回会えるのは一週間だけ。年末年始の休みの時だけだ。

 キャロルはエディが帰ってきてくれるのを、良い子で待っていた。物がほとんどなくなってしまっているエディの部屋で、じっと、その時を待っていた。


 そして、エディが帰ってくる日。

 キャロルは、朝からはりきっておめかしをしていた。母が持たせてくれたリボンや服を身につけようと、桃色のふわふわの毛を梳かす。


 シェリルもなぜか一緒になっておめかしをしていた。双子竜はきゃあきゃあ騒ぎながら、エディをお迎えする準備を楽しむ。


「あ、これはキャロルのリボン! もう、ママったら、本当におっちょこちょいねー」

「こっちにはシェリルのスカーフが入ってたの。ママってば、よく間違えるねー」


 母がリュックに入れてくれていた小物を見ながら、双子竜はバタバタする。大雑把な母のせいで、おめかしに時間がかかってしまった。けれど、なんとかエディが到着する前に、全ての準備を終えることができた。


(エディに早く会いたいな……)


 キャロルは待ちきれなくて、玄関に座ってじっと扉を見つめる。するとシェリルも隣にやって来て、ちょこんと座った。そっくりの衣装を着た、そっくりな双子竜が並んでいるのを見て、従兄パトリックが微笑んだ。


「二人とも、本当にそっくりだね。えっと……こっちがシェリルかな?」

「違うの。シェリルはあっち」

「ええー?」

「パトリック兄様は、いつになったら私たちを見分けられるようになるのー?」


 パトリックは「まいったなー」と零しながら、双子の間に陣取った。玄関に、キャロル、パトリック、シェリルの三人が並んで座る。


「……パトリック兄様? なんで真ん中に座るの?」

「……エディが帰ってくるのが楽しみなのは、キャロルたちだけじゃないよ?」


 どうやらパトリックもエディが帰ってくるのが楽しみで仕方ないようだ。


「パトリック兄様、ずるいの! 私が真ん中でお出迎えするの!」

「いや、ここは譲れないよ。どうせエディがここにいる間は、キャロルがエディを独占するんだろ? じゃあ、お出迎えくらい……」

「駄目―!」


 キャロルはパトリックの膝によじ登ると、その膝の上にでんと居座った。それを見たシェリルも、反対側の膝によじ登り、でんと居座る。


「いや、重いよ二人とも……」


 双子竜を膝から下ろそうとするパトリック。抵抗する双子竜。きゃあきゃあ騒いでいると、玄関の扉が開いた。

 ばっと三人が顔を上げ、そこに立つ人を見る。


「エディ!」


 双子竜とパトリックの声が揃った。


 久しぶりに見るエディは、また身長が伸びたようだった。顔つきもかなり大人びて、体つきも前よりしっかりしている。肩幅も少し広くなったような気がした。

 黒髪は前に見た時よりも長めになっていて、さらりと横に流している。青い瞳だけは変わらず、優しい光を(たた)えていた。


(かっこよくなってる……)


 キャロルはぽーっとしてエディを見上げた。エディはというと、玄関で団子になっている双子竜とパトリックを見て、首を傾げている。


「……何やってるの、三人とも」

「え、エディのお出迎えだけど?」


 パトリックが当然のように答える。双子竜もうんうんと揃って頷く。エディは三人の顔を改めて見回して、照れ臭そうに頬を()いた。


「……た、ただいま?」

「おかえりなさーい!」


 キャロルとシェリルが同時にぴょんと飛び跳ねた。エディは優しく微笑み、キャロルに手を差し伸べてくる。


「キャロル、おいで」

「うん!」


 キャロルはエディに抱き上げてもらって、ご機嫌で体を揺らす。ふわふわしっぽは今日も元気に暴れていた。エディは甘い瞳でキャロルを見つめ、その鼻の頭にキスを落としてくれる。


「今日はおしゃれな服を着ているんだね。……すごく可愛いよ、キャロル」

「エディもかっこよすぎなの!」


 べったりとくっついて微笑み合うエディとキャロル。二人を眺めながら、パトリックがため息をついた。


「相変わらずの二人だな。……それにしても、なんでエディは一発で双子を見分けられるんだろう?」

「愛の力じゃない?」


 パトリックの疑問に、シェリルが平然と答えた。




 今回の冬、エディと過ごせるのは一週間だけ。ということで、キャロルはとてもはりきっていた。


「エディ、お疲れさまなの! これ、お茶!」


 庭で鍛錬するエディに、お茶を差し出すキャロル。エディがお茶を手に取るのを見届け、今度はタオルを取りに、とてとて走る。

 頭の上にタオルを二枚乗せて、はふはふ言いながらエディの元へ戻る。そして「どうぞなの!」と頭の上のタオルを差し出した。


「……キャロル、そんなに走って大丈夫か? 無理せず、そこのクッションの上で寝てても良いよ?」

「ううん! 私、エディのために頑張るの。そうしたいの!」


 タオルを一枚、エディが手に取る。キャロルはもう一枚の方を握ると、エディの額の汗を熱心に拭い始めた。


「ありがとう、キャロル。すごく助かったよ」

「どういたしましてー!」


 キャロルがにこにこしながらエディに抱き着くと、エディはくすくす笑いながらキャロルを抱き上げる。そして、こつんと額と額をくっつけた。


「今年もこうしてキャロルと過ごせて嬉しいよ。……そろそろ(つがい)に取られるかなって思ってたから」

「エディ……。私、番さんと会っても、エディのこと忘れたりしないよ? エディのことが世界で一番好きだもん。大好きだもん……」

「……うん」


 エディは少し困った顔をして笑った。


 きっと、エディは覚悟をしている。もうすぐ番にキャロルを奪われるのだ、と。

 キャロルはそんなつもり全くないのに、エディはそう考えている。それはなんだか悔しかった。キャロルがどれだけエディのことを好きか、全く伝わっていないような気がした。


 でも、番に会ったらキャロル自身どういう気持ちになるのか分からない。エディが考えている通り、キャロルは番のことだけを想うようになるのかもしれない。

 だから、今、キャロルにできることといえば。


「エディ、大好き」


 こんな風に、今の自分の気持ちを正直に伝えることくらい。

 キャロルの囁くようなこの告白に、エディは黙って頬擦りを返した。


 冬の冷え切った風が、二人の傍を吹き抜けていった。

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