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12:あと3年。「かくしごと」(1)

 ――春。

 キャロルは家族と一緒に、大陸を二つ越えた先にある竜の里に行った。もふもふ竜の仲間がたくさんいるところで、番探しをするためだった。けれど、やはり番は見つからず、がっかりして山に帰った。


 そのすぐ後、キャロルは寝込んだ。疲れが出たせいか、何日も起き上がれない日が続く。双子の姉シェリルも相当落ち込んでいたようで、家の中は火が消えたように静かになっていた。




 ――夏。

 キャロルは相変わらず寝込む日々が続いていた。でも、シェリルの方には大きな変化があった。


 人化ができるようになったのだ。


 桃色のふんわりとした髪の毛は、肩よりも少し長いくらい。紅い瞳はぱっちりとしていて、可愛らしい顔立ちをしている。声は竜の姿の時とあまり変わらない。花の模様のついた赤いワンピースを着たシェリルは、とてもあか抜けて見えた。


 実際の年齢と同じ、十二歳くらいの少女の姿。エディの隣にいてもおかしくないような、とてもお似合いのような、そんな感じ。キャロルはすごく羨ましくなった。




 ――秋。

 キャロルの体調は、一向に良くならない。シェリルの真似をして人化の練習もしてみたけれど、全く進歩はなかった。悲しいくらい良いことがない。


 そんな中、シェリルの方はどんどん成長していった。背中の小さな翼をはばたかせ、少しずつ飛べるようになっていく。


 双子なのに、どうしてこんなに違うんだろう。どうしてキャロルはこんなに落ちこぼれなんだろう。

 ベッドの上で丸くなり、ひとり、涙を零した。




 そして、また冬を目前にして、伯父の屋敷へ向かう時がやって来た。けれど、今日もキャロルは熱を出してふらふらしている。いつ出発したら良いものか、父は頭を悩ませていた。


「今年の冬は山から下りずに、ここで過ごさせたほうが良いかな。温かい家の中から出ないようにすれば、キャロルの体にもそんなに負担がかからないかもしれないし」

「嫌なのー! エディが待ってるのー!」


 キャロルは熱でぼんやりしている頭をぶんぶん振って抵抗した。エディに会えない冬なんて、耐えられそうにない。竜の山にいる間、エディのことを忘れた日なんて一日もないのだから。

 そこに、双子の姉シェリルが人間の姿で現れた。


「パパ。伯父様のところへ行くべきだと、私は思う。山を下りた方が、きっとキャロルは元気になれるはずだから」


 ひょいっとシェリルがキャロルを抱き上げる。毛布でキャロルを包み、リュックを拾いあげると、玄関に向かってすたすたと歩いていく。父が慌てて双子の後を追ってきた。


「シェリル、待ちなさい! まだキャロルは熱があって……」

「パパが連れて行ってくれないなら、私がキャロルを運ぶよ。一日でも早く、キャロルをエディに会わせてあげたいもん」

「……シェリルはまだあまり長くは飛べないだろう。無理だよ」

「それでも、頑張るもん」


 キャロルは、抱っこしてくれているシェリルを(あお)ぎ見た。人化できるようになってから、どことなくシェリルは大人っぽくなった。キャロルのことを今まで以上に心配し、守ってくれようとしているのが分かる。


 そんな頼れるお姉ちゃんのシェリルに、とうとう父が折れた。


「分かった、山を下りよう。シェリル、竜の姿に戻って。パパが二人を抱っこして連れて行ってあげるから」

「ありがとう、パパ!」

「パパ、大好き!」


 ぱっと顔を明るくした双子が父に飛びつく。白いもふもふ竜の姿をした父は、双子をもふっと受け止めて、むぎゅむぎゅ抱き締めた。

 そこに母が顔を出す。母はもふもふ親子が仲良く団子になっているのを見て、締まりのない顔で笑った。そして、しみじみと言う。


「うちのパパも娘たちも、可愛すぎるわねー。ふふっ」




 こうして今年の冬も無事、伯父の屋敷に辿り着いた。伯父と伯母に温かく受け入れてもらい、双子は揃ってエディを待つ。

 しばらくすると、エディが学校から帰ってきた。走って帰ってきたようで、息を切らしている。汗をかいているのか、黒髪が額にはりついていた。


「ただいま、キャロル!」

「おかえりなさーい!」


 エディはそっくりの双子を見間違えることなく、キャロルに向かって手を差し出した。相変わらずキャロルだけを特別扱いしてくれている。

 キャロルは嬉しくて嬉しくて、しっぽをぶんぶん振りながらエディの胸に飛び込んだ。エディはキャロルを抱き留め、キャロルの鼻の頭に軽くキスを落とす。


「待ってたよ。会いたかった……」

「……んー?」


 キャロルは首を傾げる。エディの言葉というより、その声になんとなく違和感を覚えた。記憶にあるエディの声よりも低い気がする。きょとんとしてエディの顔を見上げると、エディが「なに?」と不思議そうな顔をした。


「エディ、なんか声が違うね? のど、痛いの?」

「ん? 別に痛くないけど……ああ、俺、声変わりしたから」

「こえがわり?」


 キャロルは再びこてりと首を傾げたけれど、すぐに「ああ!」と手を打った。

 そう言えば従兄パトリックも声が変わった時があった気がする。確か、大人の声になったと言っていた。


 ということは、エディも大人の声になったということか。


「わあー! エディ、かっこいいね! 私、エディの声大好き!」

「え……? あ、ありがとう?」


 エディが照れ臭そうに頭を掻く。キャロルは頬を染めたエディの顔にきゅんとしてしまい、ほぼ無意識にエディにべったりくっついた。二人はしばらくそのまま仲良くぎゅうぎゅうしていたけれど、急にエディがはっと顔を上げる。


「どうしたの、エディ?」

「……おかしい。シェリルが邪魔してこない」


 こんな風に仲良くしている時には、必ずと言って良いほどもふもふパンチをしてくるシェリル。なぜか今日は大人しいので、傍にいないのかと見回してみると、少し離れたソファの上にいるのが見えた。シェリルは黙ってじっとこちらを見ている。


「シェリル?」


 エディが恐る恐る声を掛けると、シェリルはふんと小さく鼻を鳴らした。


「エディ。今年もちゃんと、キャロルのこと溺愛してあげてよね。キャロルは竜の山でもエディ、エディってずっと言っていたんだから」


 シェリルはそれだけ言うと、すたっとソファを下りた。そして、ふわふわしっぽを揺らしながら去っていく。今までと違うその態度に、エディが目を瞬かせた。


「あのね。最近のシェリルはとっても大人なの。人化できるようになったし、竜の時は飛ぶことだってできるようになったの」


 キャロルがそう教えてあげると、エディは「へえ……」と感心したように頷いた。


「シェリルは人化できるようになったのか。じゃあ、キャロルも?」

「私はまだなの。これからなの」

「そうか。……楽しみだな、どんな姿になるんだろう」


 キャロルとエディは期待に胸を膨らませ、くすくすと笑い合うのだった。

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