超ショートショート『手作りぬいぐるみと私の話』No117
手作りのぬいぐるみが動き出すなんて、素敵だと思いますか?怖いと思いますか?
私は、始めは結構驚いたんですよ。
今からその時のお話をしますね。
このまえ、赤と黒のタータンチェックの布と、白いふわふわのワタをたくさん。
買ったんじゃなくて、貰ったんですよ。
背高帽とぶかぶかの背広を着た、猫みたいな目と表情と、鼻の人が尋ねてきてね。
なんだったかな...。その人は配達員って言ってたけど、ほんとかどうか。怪しいんですよ。
服装も配達員の服じゃないし、ハンコを頼むのも忘れて帰ろうとしちゃうし。
で、その人が渡してきたんです。箱には『誕生祝い』って書いてあったけど、私の誕生日は6ヶ月もさきなんです。
間違うにも、程がありますよ。全く反対の日に寄越すなんて。やっぱり変わった人ですよね。
で、その冬の日の家みたいな布と、新雪みたいなワタを使って、私は何を作ろうか迷ったんですけど...
やっぱり、布とワタなら、ぬいぐるみが作りたくなるでしょう?
渡した人も、もとからそれが狙いだったのかも。
そう思うと少し「しゃく」だけど、でも私は観念し作りましたよ。
それで、私はバクのぬいぐるみを作りました。
あの、夢をたべてくれるやつです。口が長くて、のっそりしてる。
最近寝つきが悪かったから、そのせいかも。
裁縫はあんまり得意じゃないんですが、へたくそなりにチックリチックリやっていって。
ちょっと失敗しましたけど、体裁は保てる程度の出来ばえのができました。
で、ここからが話の本番ですよ。
そのバクがね...動いたんですよ。
見た目通り、のっそりのっそりとね。
あ、私だって、かなり驚きましたよ?
ぬいぐるみが動くなんて、そうそうないですからね。
で、一通り驚いたあと、そのバクがあんまり怖い子じゃないことが分かったんです。
だから、これからの暮らしについての計画を立てました。二人暮しをするにあたって決めることは、山のようにありますからね。
...え?だから驚いたって言ったじゃないですか。
でも実際動いたんですし、驚きすぎても仕方ないですよ。
とにかく話を続けると、その子はかなりいい子で、言いつけはよく守るし、気が利くし、疲れてたら励ましてくれるんですよ。
え?喋れるのかって?彼は別に喋らなくても、励ますくらいできますよ。
例えば......膝の上や手の上に、口をのせるとかね。
特に彼のいれてくれるコーヒーはとても美味しくて。飲みすぎでまた眠りにくくなりましたよ。まったく。
で、この後がちょっと怖かった話なんですけど。
あの子はほら、ぬいぐるみだから、だんだんヨレヨレになってくるでしょ?
それに動いてるから、だいたい6ヶ月くらいで、だいぶぼろぼろになっちゃったんです。
本人も疲れてそうですけど、ぜんぜん文句も言わないんですよ。
そういうのも、考えものですよね。
で、ある日、その子家の中で転んじゃって、その拍子に体にコーヒーをこぼしちゃったんですよ。
......ずいぶん熱がってて……。そりゃそうですよ。コーヒーなんかかぶったら、人間でも大やけどですから。
で、私、彼を氷で冷ましながら、どうしたらいいかわからなくなっちゃって。
それで...
ぬいぐるみの病院って、知ってますか?
そう。つまり、すぐにそこへ行きました。
生きたぬいぐるみも受け付けてるかは、知らなかったんですけど、行ったらちゃんと治療してくれました。
すぐに退院出来て、シミひとつ残らなかったんですよ?まさに名医ですね。
とにかく、そういうわけで、手作りぬいぐるみが動き出したら素敵だけど、怖いこともあるって話でした。
今度は、あなたの話を聞かせてください。
最近、どんなことがありましたか?
...そういえば、あのお医者さん。
猫みたいな目と、鼻をしてたような...
ま、気のせいですかね。
ご拝読ありがとうございます!
まだまだ若輩者ですが、小説を続けるためにひとつひとつ頑張っていきます。
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