混んでるとお一人様は並びにくい13
アマンダさんは、「ほんとにここで神様に会うの?」みたいなことを半分独り言のように言った。
ですよね。
どう見てもカラオケルームですよね。すみません。カスタマイズし過ぎました。
「えーっと……ソーリー。アイ……チェンジ、ディスルーム。バットイッツオーケー」
ヌーちゃんにポテチの袋を開けてあげながら謝る。
もはや日常に組み込まれ過ぎていて、かなり異様な空間だということをすっかり忘れていた。もうちょっと神殿っぽく戻しておけばよかった。でもここものすごい落ち着くんだよね。
「ディスルーム、フォー、フォー……祈るってなんていうんだ……こう、祈る。わかる?」
手を組み合わせて祈る動作をしてみる。
「For praying?」
「そうそう、多分そう。プレイ?」
「Praying」
「プレイング……」
「Yes」
アマンダさん、今ちょっと諦めて頷いたな。私の発音なんか違うんだろうな。すまない。
「イン、ディスワールド、プレイング、イズ、シンギング。えーっと……シンギング、ソング、イズ、プレイング」
「Really?」
「リアリー」
アマンダさんがちょっと驚いたような感心したような顔をしているので、歌が祈りになるというのが伝わったようだ。
それから改めて部屋を見回して、マイクを指差してなんか言っている。だからカラオケルームなのね、と言っているんだろう。多分。うんうん頷くと、アマンダさんが微笑む。通じるとちょっと嬉しいよね。
それから私は、大画面液晶テレビの方を向く。最初に祭壇を置いてあったテーブルがこっち方面なので、多分こっちが正面なんだろう。神様相手に正面とかあるのかわからないけれど。
「神様ー!」
「ほいほいー」
歌わないと聞こえないかなと思ったら、意外にスッと出てきた。ぽよぽよした赤ら顔で、白ひげのおじいさんが現れる。いきなり出てきたのでアマンダさんがビックリして声を上げていた。
「お久しぶりです、神様。こちらこの度召喚されちゃったアマンダさんです」
「うんうん、とりあえずは元気そうで何よりじゃ」
「あの、イギリスの人で、私はあんまり英語話せなくて……だから疑問とかそういうの、神様に聞いていただきたいんですけど」
「そうじゃの」
「えーっと、アマンダさん、ヒーイズゴッド。ユーキャントーク」
彼は神様です、っていう英語、このシチュエーション以外に使う機会なさそうな文章だな。
そう思いつつ、アマンダさんに紹介した。アマンダさんが本当かどうか確かめるように神様に話し掛けて、神様が英語で返事をしている。それを見たアマンダさんが、ちょっとフラついて、それからへなへなと膝をついてしまった。顔を覆った手の間から涙が見える。喋ろうとしているけれど、涙で上手くいかないようだ。
「あぁアマンダさん、とりあえず座って。こっちのソファで。ねっ、お茶あるから。お茶でいいかな。紅茶かな」
アマンダさんを助け起こして、近くのソファに座らせる。アイスティーと箱ティッシュを思い浮かべて出して、ティッシュを箱ごと渡した。背中をそっと撫でてから立ち上がる。
「あの神様、アマンダさん、多分神様と二人きりの方がいいですよね」
「そうじゃな、しばらく落ち着くまで待っておいてくれるとありがたいのう」
「じゃあ外で待ってますね。あと神様英語話せたんですね」
「だってわし神じゃから」
もう一度アマンダさんの背中を撫でて、それから私はそっと扉の方へ向かった。
涙で途切れ途切れになった声で、アマンダさんは多分、お母さんに会いたいと言った。帰りたい。家族に会いたいと。
なんとなく、私が聞いていいことじゃないんじゃないかという気がした。アマンダさんも引き止めなかったので、きっとその方がいい。
神様の柔らかい声と、アマンダさんの泣き声を聞きながら扉を開ける。
その先では、ルルさんが微笑んで私を出迎えてくれた。
「おかえりなさい、リオ」
「うん、アマンダさん、やっぱり二人きりのほうが良さそうだったから、ここで待つね」
「はい」
私の右手を取って、跪いたルルさんが自分の額に当てる。それから立ち上がったルルさんが私に一歩近付いて、もう片方の手で私の頬に触れた。
「リオ、大丈夫ですか?」
「なにが?」
「なんだか少し、泣きそうに見えます」
「そうでもないよ」
「リオ、」
少し硬い手のひらが、私の目元を拭う。そこは乾いていたのに、ルルさんは心配そうな目をして私を見つめていた。私の右手を握ったままの手が、ぎゅっと力を込めた。
ルルさんは心配性である。
でも、なんだかそれが温かくて嬉しかった。




