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混んでるとお一人様は並びにくい12

「アマンダさん、レッツゴー」

「Okay」


 ぐっと拳を上げると、アマンダさんは頷いた。

 言葉だけで伝わるのか不安なあまり、ジェスチャーがどんどんオーバーになっていく自分を感じる。ルルさんたちから見ると何やってんだって感じだろうなと思うと恥ずかしい。


 奥神殿へは、ルルさんしか同行しない。それをアマンダさんが不安に感じるかと思って、リラックス要員にヌーちゃんを連れてきた。アマンダさんに向けて持ち上げると、アマンダさんがヌーちゃんを受け取って腕に抱いた。


「ヌーちゃん、ポテチあるよ。ポテチ。ポテチ食べにいこうね〜」


 暑いところを避けているヌーちゃんは日が昇って気温が上がったせいか、アマンダさんの腕から若干降りたそうにしていた。なのでポテチで釣ると、ヌーちゃんはキッと鳴いて大人しくなる。目をキラキラさせているあたり、相当ポテチが気に入ったようだ。

 神様が神パワーで地球の食べ物を出せるようにしといてくれてよかった。


 若干気まずさのある沈黙をお供に、私とルルさんとアマンダさんは奥神殿へと向かう。

 中央神殿と奥神殿を繋ぐ渡り廊下へと出ると、アマンダさんが手すりに近寄って空や下を覗いていた。一緒に覗き込むと、奥神殿のある小島で刈り取られた草の部分が目立って見えた。ついこの前行ったのに、もう刈った場所の草も伸び始めているように見える。


「アマンダさん、ウィーキャン、ゴーゼア。ウォーターイズクール。えっと……クールウォーター、メイク、アス、ハッピー」


 アマンダさんはじっと私の話を聞いて、やや首を傾げたものの頷いた。

 伝わっただろうか、あの水冷たくて気持ちいいですよというメッセージが。日本語にするとそんな簡単なメッセージが。


 アマンダさんとの会話でちょっと緊張してしまうのは、言葉が伝わるかどうかというのもあるけれど、アマンダさんがじっと私の目を見つめてくるからというのもある気がした。

 目を見て話しなさいというのは教わってきたものだけれど、私基準で言うと目を合わすのはこう、会話の最初とか最後とか時々やるような感じだった。アマンダさんの目を合わすレベルが私と比べるとめっちゃ高いのである。ものすごくじっと見られると

なんだかそれだけで緊張する。


 そう思って気付いたけれど、私は子供の頃より人の目を見るのがヘタクソになっている。

 前はもっと人の目を見ていたなと考えて、会社に入った頃上司によく「なんだその目は」と怒られたことを思い出した。説教をしている時に目が合うと生意気に見えるらしい。それで目を合わせず下を向いて報告する癖がついたのかもしれない。目を合わせないでいると、怒られる頻度が下がるからというのも理由としてありそうだ。


 人とあまり目を合わせないのは、それはそれで楽だった。でも、相手にとってはあまりいい印象を与えない行動だろう。今まで意識していなかったけれど、そのせいで嫌な気分になった人もいるかもしれない。


「ルルさん、私、会話するときに目逸らしてる? それってここでも失礼なことだったらごめん」

「なぜそう思ったのですか?」

「あのほら、目を合わせるの私避けてたかなって……ごめん」


 こそっとルルさんに謝ると、ルルさんは首を傾げた。金髪がさらっと揺れる。


「特に失礼とは感じませんでしたが……そういえば、こちらへいらした頃はそうだったかもしれませんね。今では全く気になりませんよ」

「本当に? 他にもなんか失礼なこととかやってたら教えてね。知らないでマナー違反とかやってるかもしれないし」

「昼寝のご相伴を何度も断るのはどうかと」

「それ別にマナー関係ないから。流石にわかるから」

「バレましたか」

「バレバレだよ」


 ルルさんが片眉を上げて、ちょっといたずらっぽく笑った。

 私が気にしすぎないように茶化したのかもしれない。そういう気遣い、さすがルルさんだよなと思う。いつか私もルルさんレベルに気遣えるようになりたいものだ。

 今は、私たちの様子を窺っているアマンダさんに微笑むくらいしかできないけど。


 渡り廊下を渡りきって、奥神殿へと入る。

 ここが奥神殿です、上の方の部屋に神様がいます。というのはうまく伝えられるかわからなかったので、とりあえず上り階段を指差してレッツゴーとだけ伝えた。奥神殿って英語で何ていうんだ。英検何級で出てくる単語なんだ。

 それでも頷いてついてきてくれるアマンダさんにちょっと申し訳ない。


「じゃあルルさん、ちょっと待っててね。戻ってくるのがいつになるかわからないけど、今はとりあえず歌わないつもりだし、遅くはならないと思う」

「アマンダ様と神を引き合わせるのですよね。もしもお二方で会話をなさるのであれば、リオは一旦こちらに出てきてもよいのではないかと」

「あ、そうか、私がいない方が話しやすいこともあるかもしれないね」


 どういう流れになったとしても、とりあえずお昼ご飯の時間には一旦戻ることにする、という約束をして、私は白い扉を押す。見た目白い石で作られて重厚なそれはあっさり開いた。不思議そうな顔をしているアマンダさんに手招きしてみせる。

 ……おっと、外国の手招きは手のひらが上だったな。


「アマンダさん、プリーズ、カムヒア。イッツ……セーフ。イッツオーケー! レッツゴー!」


 言葉、歯がゆっ。

 神様に会いに行こう、を怪しくなく言う自信がないので、またもや私は勢いで押し切った。神様に会いに行くってなんかこう、遠回しに死、みたいな意味ある感じするしな。しょうがないよね。


 アマンダさんは入ろうとしないルルさんを一度見て、大興奮で身を乗り出しているヌーちゃんを見て、それから私を見て一歩踏み出した。

 両足が中に入ったのを見て、扉を閉める。隙間からニャニが見えた気がして、私は地味に急いで閉めた。






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