混んでるとお一人様は並びにくい11
翌朝、私はヌーちゃんの足が頬に当たった感触で目が覚めた。フコフコと仰向けで寝ているヌーちゃんのお腹を撫でてから起きる。
「リオ、起きましたか?」
「うん、ルルさんおはよう」
「おはようございます。アマンダ様も起きているようですから、朝食の支度をしましょうか」
「うん、奥神殿にはアマンダさんも行った方がいいだろうし。まずごはんにしよう」
支度をして廊下へ出ると、ピスクさんがピシッと礼をしていた。すぐ隣でニャニが片手を上げている。ピスクさんは布を手に持っていたので、またニャニを拭いていたのかもしれない。結構仲良いよなこのコンビ。
「ピスクさん、ニャニ、おはよう。今日も暑そうだね」
「おはようございます、リオ様。雲が少なく日差しが強いようです」
ルイドー君やジュシスカさんにも挨拶して食事をする部屋に行くと、すでにアマンダさんがいた。私と目が合って少しホッとしたような顔をしている。グッドモーニングアマンダさんと挨拶すると、モーニンリオと返ってきた。
ネイティブ的にはグッドいらないのかな。それとも私が聞き取れなかっただけなのだろうか。謎。
アマンダさんは朝食の匂いにつられて私の後ろを歩いてきたヌーちゃんを見て、ヌーちゃんにも挨拶をしていた。抱き上げようと近付いて、それから悲鳴をあげる。
「あっニャニ!」
シレッとヌーちゃんに続いて部屋に入ろうとしていた青ワニを見てしまったらしい。部屋の入り口を塞がれているので、アマンダさんは悲鳴をあげながら奥の隅へと走った。
ニャニ的には片手を上げて挨拶をしているらしいけれど、やっぱりアマンダさんも怖いよねわかるすごくわかる。ワニだもん。大きくて青いワニだもん。
「アー……アマンダさん、ディスイズ、ノット……ワニって何だろう……く、クロコダイル?」
アマンダさんが首を振って何か言っているけれど、部屋に侵入してきた青ワニを前にパニックで早口になっていて聞き取れなかった。
「イッツノットデンジャラス。イット……ルックスデンジャラス。バットイッツノットデンジャラス。メイビー」
「Maybe?!」
私の自信のなさをアマンダさんが素早く見抜いている。すまない。私も怖いからあんまり安全とは言い切れない。
アマンダさんと親交を深めたそうなニャニをピスクさんに外に出してもらって、朝食が始まる。アマンダさんは、しきりに他にデンジャラスな生き物がいないのか質問してきていた。
若干の波乱がありつつも朝食を終え、私とルルさん、そしてアマンダさんは奥神殿に行くことになった。
「ニャニ、アマンダさんやっぱニャニのこと怖いみたい。悪いけど遠くから見るくらいにしてあげて。地球ではワニってその辺にいたら通報モノだからさ」
支度をしにそれぞれ一旦部屋に戻り、私は現れたニャニに説明しておく。ニムルを投げると、口でキャッチしたニャニがニヤァ……と口を開けながらズルズルと後ずさった。5メートルほどの距離でゆっくり手を挙げる。
「うんそれくらい……いやもうちょっと離れた方がいいかな? もうちょっと。そうそう」
ズルズル退がったニャニが、ソファの下に入って口先だけニヤァと出す。
「うん……距離はいいんだけど、それも割と怖いからなぁ……いや見えてるより怖くないかな? いや怖いな。徐々にね。徐々に慣らしていこう。ね」
自宅に忍び込んだワニ風なニャニも、ふと見つけると割と心臓に悪い。すっと一度前進したニャニは、また片手を挙げ、それからすーっとソファの下に消えた。
見た目は怖いけど、ニャニは割と協力的なようでありがたい。見た目は怖いけど。




