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歌ってる途中でドリンクは勘弁してください2

 お腹いっぱいになるまで昼食を堪能し、しばしお茶休憩をする。ルルさんはさらにお茶菓子を勧めてきていたけれど、これ以上食べると吐きそうなので断った。いつものことながら、彼は私を太らせて丸焼きにでもしたいのだろうか。


「それではこれから神殿内を案内いたしますが、お召し替えなさいますか?」

「え? この格好ヘン?」

「変ではありませんが、少々簡素なように思います」


 私の普段着兼仕事着兼部屋着となっているのは、生成り色のワンピースだった。柔らかい生地で袖も若干膨らんでいるワンピースを上から被り、さらに上からキャミワンピみたいなのを着る。これは背中の部分がリボンの編み上げになっていて、上半身は体のラインがぴったり出てスカート部分がふわっとする感じである。


 上半身、より正確にいうと胸部が若干乏しい身としてはこんなに身体のラインは出さないで頂きたいけれど、こういう服装がこの国のスタンダードだと知って涙をのんだ。ちなみに男性はシャツにベストで引き締めている感じだ。メタボを許さないエルフたちである。


「でも私、着替えとかないですけども」

「用意してありますよ」

「いつのまに」

「リオがいらしてから3日後には仕立て上がっていたのですが」

「なんということでしょう……」


 とりあえずお使いくださいと渡されたパジャマとこのワンピース、そして同じ形の洗い替え分を何も考えずに着回していたけど、他の選択肢もあったとは。

 早速私とルルさんは部屋へと戻り、クローゼットを開けた。


「これがクローゼットだったのかー。別の部屋に通じてるのかと思った」

「リオは寝台の周囲しか使っていませんでしたからね……」


 3ヶ月暮らして初めて知る部屋の構造にルルさんが若干呆れている。

 しかしそれには反論したい。


「いや、それは私のせいじゃないから。この部屋がやたら広いせいだから!!」


 私の寝室、前借りていたアパートの部屋2コ分くらいあるのだ。

 前の部屋といっても、キッチンやバストイレも含めた広さで2コ分以上である。それが寝室のみの広さ。他にも洗面台とかトイレとかもやたら広い。巨人が住むことでも想定して作られているのだろうか。土地代安いんかここ。

 そしてベッドがなんと壁に埋め込み式というか、壁をくりぬいた感じで作られているのだけれど、そこだけでも四畳半はある。布団広過ぎて今でも毎晩戸惑うくらいである。


 かなり落ち着かないので無駄な広さについてはカウントしないことに決め、そのベッドの周辺に小さいテーブルや引き出しを持ってきてこじんまり暮らしていた。人間、生活規模なんてそうそう変えられないのである。

 まあこれから奥神殿にこもって歌う時間が短くなるのであれば、この広さにも慣れてくるかもしれない。いやそれはないか。一人部屋に椅子が6脚ある意味とか全然わかんないしな。


 ルルさんがクローゼットに入り(入れる広さだった)、中からいくつか服を取り出してきた。どれも綺麗に染められていて、刺繍がされていたりしてお洒落である。


「鮮やかな色、多いなー!!」

「これらは西部の月夜染めだと思います。発色が綺麗なのが特色ですね」

「もっと地味なやつないんですか。紺色とか」

「青ならありますが……」


 鮮やかな青だった。今日の空に似ている。

 真っ赤とか真っ黄色とかと比べて悩んだ結果、青にする。無難代表の紺色がないのは痛手だ。上に重ね着するものにかろうじて黒があったのでそれを選んでみた。かなり漆黒だけれど、いくらか落ち着いてみえるかもしれない。


「一番下には今お召しのこれを着たままで、こちらの青を重ねて上に黒を着ます。背中がボタンになっていますので、着たら教えてください。留めに参ります」

「……ルルさんや、いつも疑問に思ってたんですけども」

「どうかしましたか?」

「この世界って、男の人に着替え手伝ってもらうのって、普通?」


 ルルさんはちょっとキョトンとした顔をして、それから困ったように少し首を傾げた。金髪がサラッてしていた。


「リオは私が背中を留めるのはお嫌ですか?」

「お嫌なわけじゃないんですけどこう……よくあることなのかなって」


 私の世話は大体ルルさんがやっていて、朝の着替えもそれに含まれていた。ワンピースを着ている時は衝立の向こう側にいるので見られていないとはいえ、背中のリボンを調整されてきちんと結ばれる時間が若干こう、照れるというかこそばゆいというか申し訳ないというか。細かい編み上げなので自分でできないのは仕方ないのだけれど、イケメンにこういうことさせているとなんのプレイなのかなと思う。イケメンカフェとかでやれば追加料金が必要そう。

 大体着替えの手伝いといえばメイドさん的なイメージもあるし。


 というようなことを遠回しに言うと、ルルさんは少し眉尻を下げた。


「申し訳ありません、神殿の中で手伝いの者は人間が多く、救世主であるリオに対して何かをしようとする者がいてもおかしくないので」

「あぁ、そういえば」


 私はそもそも、人間が禁止されている術を使ったことが原因でここに来たんだった。ルルさんたちが上手いこと保護してくれたけれど、術を使った人々はそれを横取りしたと考えているかもしれないそうだ。


「危険な思想でないと全ての者の潔白を証明するのはかなり難しいので、リオの周囲には極力誰かを、特に人間を近付けさせないようにしています」

「なるほど……」

「特に近年はこの国へと逃れ来る人間も多いため、神殿でも雇用の機会を増やしていました。私は長く神殿騎士を務めていましたので、可能な限りお側に控えてお守りさせて頂きたいのです」


 ルルさんが細々と私の世話をしていたのは、ただ異世界転移特典でイケメンウハウハだからではなかったらしい。普通に護衛だった。ちょっとネット小説読み過ぎていたな、私。一人で恥ずかしくなってきた。


「リオには不自由をさせるかもしれませんが……」

「イエ、そういう事情があったとはスイマセン。これからもよろしくお願いします」

「こちらこそ」


 今更ながら頭を下げあってから反省しつつ着替え、ボタン留めを今まで通り手伝ってもらった。リボンよりも手間がかかるので時間がかかって照れたけれど、恥ずかしがってる場合じゃない。


「……いや待てよ? 護衛してるってことはルルさん、私以上に休んでないんでは? 私なんかよりルルさんの方が休むべきでは?!」

「神殿騎士となると、もっと厳しい任務もこなしていました。リオの護衛など、仕事のうちには入りませんよ」

「そういう問題じゃなくない?」

「それに、私はリオと違って体調を少しも崩してはいませんから」


 ぐぬぬ。

 私が奥神殿にいる間、ルルさんは扉の前にずっと立っているらしい。よく考えたら人のこと言えないワーカホリックじゃんと思って指摘すると、ルルさんは爽やかな笑顔で言い負かしてきた。

 しかしルルさんが長時間勤務していいなら、私もしてもいいではないか。歌わせてくれ。


「リオが一日中部屋でゆっくり休むのであれば、私も同様に休めますよ」


 ぐぬぬ……。






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