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混んでるとお一人様は並びにくい3

 ジュシスカさんが鳥に結んで送ってくれた手紙には、異世界人は女性。

 そして、こちらの言葉を理解できないと書かれていた。

 私が渡した「この人悪い人じゃないですよ」メモが役に立ったらしい。


「つまり……日本人か、日本語がわかる外国人か、英語がわかる外国人……」


 私が使っている寝室や居間があるところの近くに、その人のための部屋が準備されつつある。人の出入りが少し多いので、ここのところなんだかそわそわした雰囲気だった。


「リオと同郷ですね。楽しみですか?」

「楽しみというか、心配というか……確率的に考えると外国人の人だろうから、私とも会話できない国の人だと大変だなと思って。英語、通じるといいけど」


 高校までの授業で教わった英語、を数年経って忘れかけたレベルである。成績も特別良かったわけではないし、就職してからは英語に全然関わっていない。

 とっても簡単な英語、しかも筆記ならなんとかできるだろうけれど、会話はまったく自信がなかった。しかも英語圏じゃない人の英語はとても聞き取りにくいし。日本にいた頃に一度、アジア人っぽい人に道を聞かれた覚えがあるけれど、理解するのがすごく大変だった。

 そんな乏しい語学能力事情を話すと、ルルさんはちょっと心配そうな顔になった。


「リオの世界では言語の種類が多いのですね」

「そういえばこの世界ってみんな同じ言葉なの?」

「おおよそは。地方によっては独特の訛りで話している民もいますが、元の言語はひとつだと言われています。神殿や巡行騎士は共通の言葉を話すので、そのような地方でも我々の言語は理解されることが多いですね」

「なんて便利な世界……」

「ちなみにリオは、術陣の記述上は、この世界で使われるどんな言葉でも理解できるはずですよ」

「なんて便利な技術!!」


 私、知らぬ間に通訳業の適性がものすごく上がっていたようだ。転職の参考にしよう。


「リオのお力の強さが血筋に由来しているのであれば、同じ言葉を話す人が召喚された可能性も考えられます」

「あー、そういうこともあるかもしれないね」


 私が神様とコンタクトを取りやすいのは、現在この世界を管理している神様が創り出した地球出身だからという理由が大きい。なので地球人であれば大体私と同じ力を持っている気がするけれど、日本人だから呼びやすいという条件もあるかもしれなかった。神様、日本の居酒屋好きそうだったし。


「その女性も、奥神殿で祈ることができるでしょう。力が強ければリオのように神と対話できるかもしれませんし、神官や巫女が言葉を教える準備もしています。心配はそれほどしなくてもよいかと」

「あ、そうなんだ。じゃあちょっと安心だね」


 ここの人たちの親切さは半端ないのでとりあえず命の危険と衣食住の心配がないことだけ理解してもらえたら、あとは何とかなるだろう。

 食べ物に宗教上の制約とかあったら大変かもしれないけど。でも微妙に地球と違う生き物も多いからなあ。見た目牛だけど色が奇抜とか鳴き声が猫とか。


 あと何が心配だろうかと悩んで気付く。私、異世界に来たにしては生活上の悩みがほとんどなかったな。


「ルルさん、ありがとう……」

「急にしみじみと、どうしたのですか」

「いや、私がこの世界にすぐ馴染んだのは、ルルさんが気遣ってくれたからだなーと改めて思って」


 会社が飛んでたショックとか異世界に来たインパクトとかとりあえず歌えば何とかなりそうだみたいな勢いとかであまり意識していなかったけれど、それってかなりすごいことなのかもしれない。


「この中央神殿で暮らすことになった最初の数日、たしかルルさん、食事の時に材料の野菜とかも持ってきてくれてたよね」

「ああ、そうでしたね。料理にすると、何が使われているかわかりにくいですから。知らない食べ物ですし」


 大きなお盆に、色んな野菜や干し肉やフルーツが載せられているものを毎回見せられて、どれが何に入っているとかどんなものとか教えてくれた。丁寧に解説するところが高級レストランみたいだな、行ったことないけど。とか思っていたけど、あれは私の食に対する安心感のためだったのだ。

 ルルさんは他にもこの建物についてとか天気についてとか教えてくれたし、細々と何か気になることはないかと聞いてくれていた。


「ほぼ一日中歌ってた頃も、私が奥神殿にいる間ルルさんはドアの前に待機してくれてたんでしょ? それも考えるとものすごく大変で疲れただろうなって今更ながらにごめんなさいとありがとうが溢れる」

「私はリオが考えるより鍛えておりますから疲れることはありませんでしたよ」


 ルルさんは何でもないように微笑んでいるけれど、業務内容としてはかなりブラックだ。安全上の理由からルルさんほぼ一人で私の世話をしていたわけだし。


「リオはこの世界のためにずっと歌っていて下さったのですから、苦労と思うことは一つもありませんでした」

「あの……割と楽しかったというか……自分のためというか……なんかごめんね」

「リオが楽しかったのでしたら謝ることはありませんよ。私も楽しかったですし」

「どこが楽しかったの? ルルさんも社畜趣味なの?」


 ブラック勤めはブラック勤めを呼ぶのだろうか。怖。闇。


「リオは、よくわからない食べ物であっても私を信用して食べてくださっていたので。ちょっと不安そうな顔をしてこっちを見てから恐る恐る食べている様子が、なんだかとても良かったです」

「やっぱり働きすぎだからそんなところに楽しみを見出すようになったんだと思うな。過労は罪だわ」


 確かに私は日本ではなかったような色や味付け、食感があっても、ルルさんが食べてるし、異世界だもんなで割と食べた。しれっと料理を取り分けていたルルさんが、そんな楽しみ方をしていただなんて。

 もしかして、今でもたまに珍しい食べ物を持ってくるのはそのせいじゃないだろうな。


「とにかく、これから来る人にも、食べ物の安全性は主張していこう。あと誰かの負担が大きくならないようにするのも大事だわ。切実に」

「ええ、リオもどうか考え過ぎないように。何か悩むことがあったら、私にも言ってください」

「わかった。ルルさんも適度に休んでね」

「リオと共にであれば」


 この世界はだいぶ潤ってるから、少なくとも歌いすぎ祈りすぎ状態は必要ない。経験者として教えられることがあるだろうし、ルルさんたち中央神殿の人も二度目に迎えるわけだから慣れがあるだろう。


 余裕がある状態で迎えて、安心してもらえるといいな。

 ルルさんと頷きあうと、ヌッと視界に入ってきたニャニも話に入ってくるように片手を上げた。ニタァと牙も見せている。


 ……やたらと近付いてくる大きくて青いワニがいますという事実をどう受け入れてもらうかも、かなり大きな課題かもしれない。






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