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曲の合間に漏れ聞こえる歌を何と無く聴いちゃう25

「ルイドー君ルイドー君」

「げぇ」


 昼食のために部屋に入ってきたメンバーの中で一番小柄な影を捕まえると、あからさまに嫌そうな顔をされた。


「今日も場所代わって」

「またかよ!! いい加減にしろよお前」


 ルルさんの隣に座るのが極めて気まずいため、最近はルイドー君を間に挟むことにより私は心の平安を得ていた。今はジュシスカさんがいないため、反時計回りにルルさん、ルイドー君、私、フィデジアさん、ピスクさんの順で座っている。

 流石に私も夫婦の間に入るのはちょっと気が引けるので、ルイドー君を盾にしているのだが彼にはそれが不満らしい。


「いいじゃん、大好きなルルさんの隣じゃん」

「よくねえよ誰が好き好んであんな凍てついた視線貰いたいんだよ! さっさと仲直りしてフィアルルー様のご機嫌を取れ」

「ひどい! 私これでも救世主なのに!」

「おいやめろ、お前が触るたびにフィアルルー様の当たりが強くなる! オレはお前みたいなのぺっとした女は好みじゃないのに!」


 のぺっとしたって形容詞、初めて聞いたわ。私のどこを形容したんだ。

 配膳を手伝いながらコソコソ言い合う私たちを、同じく手を動かしながらルルさんが見ている。その視線に負けないように、それぞれのお椀を席に並べていった。

 お皿はカラフルな焼き物や木製のものがあるけれど、みんなで食事をするのも恒例になってきたので、なんとなくそれぞれが使う食器が決まってきているのである。例えばピスクさんは大きいものや黒っぽい色のもの、ルルさんは青の食器が多く、フィデジアさんは赤、ルイドー君は緑、私はオレンジとかピンクの小さいもの。ちなみにジュシスカさんは紫色である。


 青いお皿を並べた隣の席にすかさず緑のものを並べて、それから自分のものを置く。反対の隣にフィデジアさんのものを並べれば一安心だ。

 かなり子供っぽい対応だとは思うけれど、気まずい。お皿に取り分けてもらったり、お肉を小さく切ってくれたりしてもらったりといったような、今まで純粋な親切だと思ってやってもらっていたことがそうでもなかった的なことを考えるとなんかもうむず痒くてしょうがないのだ。そもそも料理の取り分けくらいは自分でできるのでやってもらわなくてもいいし。


「リオ」


 ルルさんが呼んでいる。返事をしたら、ルルさんが私の席のすぐ隣に立った。お皿を取り、中央に並べられた料理をそこへバランスよく盛り付けていく。ルイドー君が邪魔にならないよう、椅子ごとちょっと移動していた。裏切り者め。

 どうやらルルさんは、私の幼稚な態度に対して対抗することに決めたようだ。座る場所が離れてようが関係ないと言わんばかりに私に料理を取り分けている。


「あの……自分でできるから」

「そうですか? 昨日も同じものばかり食べていましたよね。どれも美味しいですから、栄養が偏らないように少しずつ食べてください」

「スイマセン……」

「どうぞ、おかわりも言ってくださいね」


 綺麗に料理を取り分けたお皿を私の前に置いたルルさんは、グラスにお水も注いでから私の肩をぽんと叩いて自分の席に戻った。

 隣に座るルイドー君がぼそっと言う。


「おい、これ余計気まずいじゃねえか。この席意味ないだろ」

「ないことはないと思う」

「お前な……。さっさとどうにかしろよこの状況」


 迷惑を被っているルイドー君はもちろん、フィデジアさんたちも私に気を遣っているのがわかるし、この状況を早くどうにかしたいのは私も同じなんだけれども。

ちらっと見ると、一片の曇りもない笑顔のルルさんと目が合ったのですぐ逸らしてしまった。


 気まずい食卓で話題を提供してくれるのは、大体ルイドー君かフィデジアさんである。今日はルイドー君も疲れたように黙っていたので、フィデジアさんが大体話をしてくれていた。

 これからの天気や街の様子などの話に頷きながら、私もフィデジアさんに質問する。


「そういえばあの薬草、ちゃんと使えてるのかな? あの量で足りてる?」

「サカサヒカゲソウについては、協力を要請したシーリースの男によると早速現地の治療に役立てているようです。向こうにいる同胞から実際に疫病が発生していると確認できましたので、速鳥も貸し出して運べる量を増やす検討をしています」

「鳥に運ばせるんだねえ。ジュシスカさんも元気かなあ」

「あの神獣がどれほど速く飛ぶかはしっかりと確認できてはいませんが、早ければそろそろ大陸を超える可能性もありますね」


 予定としては、このマキルカのある大陸の端にある街で半日から1日ほど休養することになっているらしい。大陸を渡って任務を遂行するために調子を整えるのと、それからその街にいる神殿騎士たちにも準備をしておいてもらうためだそうだ。


 異世界人をマキルカに連れて帰ることになったときに、行きに使った鳥に乗れなければ大陸間に渡されたとても長い橋を渡って戻ってくることになる。追っ手が掛かれば危険だし、それでなくても体力を消耗するだろうと言うことで、橋のすぐ近くで保護や援護できるように準備をしておくそうだ。


 うまくいって、ジュシスカさんが無事に帰ってきたらいい。

 ここのところ、大体そういう話をしている気がするけれど、本当にそう思う。

 ジュシスカさんが乗っていった鳥も神獣なので、神獣繋がりで無事に帰ってこれますようにと祈りながらヌーちゃんとニャニにパンをあげた。ニャニは嬉しそうに片手を挙げたものの、ヌーちゃんは若干がっかりしたように食べていた。ポテチか。ポテチがよかったのか。


 食事が終わると、それぞれが仕事に戻っていってしまう。引き止めて邪魔をするのもよくないので私は黙って見送るけれど、それからの気まずいタイムったらない。

 ルルさんとまた二人になるのだから。

 いや、ニャニはいるけども。ヌーちゃんは帰ったけども。






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