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異世界でカラオケしたら問答無用で救世主です  作者: 夏野 夜子


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曲の合間に漏れ聞こえる歌を何と無く聴いちゃう16

 フードをかぶっているので上半身をしっかり見ることはできないけれど、襲撃の代表者であるその人は、私と同じようにマントを着て座っていた。前からわずかに見える服は白い上下で、足は裸足だ。座った状態での膝の高さからすると、背が高いらしい。鍛えているようで体格もいい。


「貴様の希望通り、救世主様を連れてきた。企てていることを吐け」


 フィデジアさんが、高圧的に言った。もし自分に向けられている言葉であれば私ならすぐにハイと全面降伏したいくらいの迫力を持った声だったけれど、鉄格子の向こうにいる人にとってはそうでもなかったらしい。

 掛けられた言葉から30秒ほどたっぷり黙ったままでいて、気まずさを感じはじめた頃にその人はゆっくりと立ち上がった。ガチガチと、重そうな金属が当たる音がする。

 ゆったりした足取りでこちらへと近付いてきたその人は、鉄格子すぐ手前で立ち止まり、ゆっくりと上体を屈めた。


「座れ。接近は許されていない」


 ピスクさんもお腹の底から低い声を出している。ムキムキの体格とも相まって迫力がすごい。けれどその人はまったく聞こえていないかのように動かなかった。

 私を見ているようだ。


「どうぞ、こちらを見てください、我らが救世主」

「出過ぎたことを言うな。供述しないのであれば面会は終わりだ」

「これが面会か? 俺は救世主と会話をさせろと言った。救世主と顔を合わせて言葉を交わせないのであれば意味がない。約束を破っているのはそちらだぞ、マルギルカ」


 低く、少し皮肉げに聞こえる声だった。ルルさんの言葉に応えたその人が言葉を言い終えるや否や、大きな音がして私は飛び上がるほど驚いた。ルルさんが私の背中に手を置いてなだめるように撫でている。


「言葉を慎め、無礼者が」


 そう吐き捨てたのがジュシスカさんだということに気付いたのは、彼が剣を抜いているのが見えたからだ。大きな音は、剣の鞘で鉄格子を叩いたせいで出たものらしい。

 普段は吐息多目というか力の入っていない喋り方をしているジュシスカさんは、言われた言葉に腹を立てたようだ。ルルさんに言われて鞘は下ろしたものの、ジュシスカさんは剣を持ったまま黙った。


 うん、なんか、怖い。この空気。

 私とニャニだけが場違い感半端ない。ニャニはなんでこの空気の中おすわり繰り返してるの。じっとしてて。


 変に力の抜ける光景から視線を逸らして、背筋を伸ばす。フードを取るために手を掛けると、ルルさんが私の手首を掴んで囁く。


「いけません」

「でも、喋らないと言わないって言ってるし。大丈夫、約束は守るから」


 フードを脱いで、前髪を軽く整える。

 私の真正面に、その男の人は立っていた。


 紺色の短髪に、紺色の瞳。年齢は四十代にいくかどうかくらいに見える。

 左の頬に、鼻筋から肩の方にかけて大きな傷痕のようなものがあった。白くひきつれているようなそれは、昔のものらしい。


「やはり人間だったか。救世主。思っていたより随分若いな」

「……企んでることを話してください。できたらやめてください」

「お前が我々の元へ戻るなら、その願いは聞き届けよう。我々を裏切りマキルカについたことも見逃してやる」


 手に汗かいてきた。

 バレないように、そっと服で拭う。マントしっかり着ててよかった。

 フィデジアさんやピスクさんのような高圧的な態度でも、大声でもないけれど、なんだか圧力を感じる。人に命令し慣れてそうな感じの人だ。


「……シーリースには、行きません。行っても、私にはシーリースをどうすることもできません。ここで祈ってるのと同じです」

「行ってみなくちゃわからないだろ」

「わかります。神様がそう言ってたので」

「ほう、神とやらとも話せるって言うのか」


 やばい。今の言うべきじゃなかったかな。なんかおじさん、興味深そうな顔になってるし。あとルルさんの手に若干力が。もう黙りたい。ルルさんに腹話術で会話代わってほしい。

 深呼吸して、手をぎゅっと握り込む。スカートシワになってそう。


「何を企んでるのか教えてください。くれないなら、帰ります」

「いいだろう、救世主。現状では意思を変えるつもりはないようだからな」


 こちらを覗き込むようにしていたおじさんが、背筋を伸ばした。ゆっくりと歩いて椅子の前へと行き、それからくるりと振り向いて、足を組んで座る。

 芝居がかった動きだけど、スタイルがいいから様になっているのがちょっとくやしい。


「我々は本国にて、大掛かりな魔術を構築している」

「なんだと? まさか」

「異世界より、再び救世主を喚ぶつもりだ」

「バカな! できるはずがない!」


 立ち上がって叫ぶフィデジアさんも気にせず、紺色の瞳はじっと私を見つめていた。

 皮肉げに歪められた口が開く。


「救世主、あんたがシーリースへ来るなら、その魔術は中止することもできるぞ」






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