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曲の合間に漏れ聞こえる歌を何と無く聴いちゃう14

 鼻腔を響かせまくるアイドルポップは、問答無用で明るい気持ちにさせてくれる。子供の頃大好きだったアイドルの曲は、ここに来てからももう何回歌ったかわからないほどだ。


 このカラオケルーム、好き放題踊れるのも本当にいい。ヘッドセットのマイクも念じたら出てきたので、PVを流しながら踊りの振りを真似るなんて芸当もできるのである。誰にも見られないから、踊りが不格好でも恥ずかしくない。ちょっと上達すると嬉しい。

 ライブ音源でのカラオケでライブやってるアイドルの真似をしながら虚空に手を振る。振った先のサカサヒカゲソウがにょろっと伸びた。


「随分ごゆっくりなさっていたので、心配しました」

「ほんとすいません……」


 ライブしてるアイドルになりきりすぎてて、入り口近くにある炎入りのツボが「はよ出てこい」サインの緑色にメラメラ燃えているのに全然気付かなかったのである。

 慌てて出たらルルさんがにっこり微笑んでいらした。それはもうにっこりと。にっっっっこりと。怖っ。


 30分ほど気付かず熱唱していたようで、私はルルさんはもちろん、フィデジアさんやジュシスカさんたちにもフコの実片手に平謝りすることになった。癖で持っていって育ててよかった。ジュシスカさんはフコの味があまり好きではないらしく返されたけど。


「ではこれから拘束した者のいる場所へ参ります」

「神殿の外?」

「いえ、神殿内ですが、ここからは最も離れた場所なので」


 私のいる場所から離れた所の、さらに地下で留置しているらしい。ただでさえ中央神殿は広いのに、さらに地下とかあったんだなあ。

 地図とかほしいなと思っていると、ルルさんが私に畳んだ布を渡してきた。ねずみ色というか、黒っぽい灰色である。


「リオ、こちらを。相手にできるだけ顔を見せないように」

「もう私の顔知ってると思うよ。お祭りでも顔出してたし」

「相手の表情がわからないというのは、親近感を持ちにくいものです。どうぞ相手に余計な印象を持たせないように」

「なるほどー」


 布は広げるとフードのついたマントみたいな感じだった。着やすいように肩に縫い目がついてあるけれど、その他にはフードと首元を留めるリボンがあるだけで袖もボタンもない。ただ、裾の方に紺色の糸で刺繍がしてあった。花や草の間でバクが歩いている図柄だ。


「可愛い。これ、シュイさんたちの刺繍に似てるね」

「三姉妹に頼んだものです。街へ遊びに行くのであれば必要になるかと思って」

「そうなんだ! 今度またフコの実持っていこう」

「ええ。リオ、じっとして」


 肩の部分を少し摘んで整えてから、ルルさんがリボンを手早く結ぶ。それからマントがしっかりと私の体を覆うようにあわせを引っ張って、それからフードをしっかりと被せた。マントのサイズはぴったりだけれど、フードがやや大きい。目元どころか鼻くらいまですっぽり隠れてしまうサイズ感だ。


「取らないで、そのままで面会してください」

「いや、これ見えにくいから。階段こけるから」


 執拗にフードをかぶせたがるルルさんを説得して、道中はフードなしで勘弁してもらった。しかしこういうタイプのマント、ルルさんとかが着てるとすらっとしててかっこいいけど、私はもしかしててるてる坊主みたいになっているのでは。

 鏡がないので確認しようがないけれど、なんかそんな感じがする。ガラスか何かで見れないかと思って見回したけど、手を挙げているニャニと目が合っただけだった。


「えーっと、じゃあ行こっか」


 すっとそれから目を逸らしつつ、フィデジアさんに声を掛ける。先頭をフィデジアさん、次にジュシスカさんが続いて私とルルさんが並んで歩き、後ろにピスクさん、そしてニャニという隊列である。階段で振り向くと、ピスクさんは親切にもニャニを脇に抱えて降りていた。ピスクさん、相変わらず動物に優しい。あと高さが近くなったニャニは怖い。目が怖い。


 ルルさんは気を張っているのか怒っているのか、普段のようにあれこれと話してくれることはなく私の左側を黙って歩いていた。それでも見ていると、視線に気付いて微笑んでくれる。手を出すと、しばらく黙って見てから私の肩に手を置き、それから後ろを回るようにして反対側に来た。そして左手を差し出して、私の右手と繋ぐ。


「すみません、右手は開けておきたいので」

「なんで?」

「剣は右のほうが得意なので」


 割と物騒な答えきた。

 あとルルさん、左でも剣使えるのか。両利きなのかな。剣って右手用とか左手用とかあるんだろうか。

 歩きながら握った手を持ち上げて広げてみると、手のひらに皮の白いところがある。触ると硬くなっていた。あまりザラザラしていなくて、硬い部分はどっちかというとスベスベだ。年季の入った感じである。


「何を遊んでいるんですか、リオ?」

「あ、ごめん。左でも剣使えるんだなって」


 されるがままに手のひらを見せていたルルさんが、私の顔を見てからふっと笑った。怒ってはいなかったようだ。手のひらを戻すと、そのまままた握られる。


「どちらでも使えます。万が一、利き手がダメになった場合にも便利ですから」

「ダメになるってどんな場合なの? 物騒すぎない? ねえ?」


 なんでそんな特殊部隊みたいな想定して訓練しているのか。ルルさんなら落下傘とかもやれそう。

 ちなみに前後の人たちにも聞いてみたところ、フィデジアさんは大体左右同じくらいに使える、ジュシスカさんは左の方がやや得意、ピスクさんは剣や弓など精度の必要な武器は右手のみという結果だった。何この人たち。

 慄いていると、ピスクさんが「両手訓練しているのはごく一部の者ですから……」とフォローしてくれた。普通の人はやっぱり片手のみらしい。よかった。


 しかし神殿騎士でも優秀な人々がこれだけ訓練しているのだから、腕を上げるためには両手を鍛えることが必要なのかもしれない。今度ルイドー君に教えてあげよう。ルルさんの真似としてもうやってそうだけど。


 そんな感じであれこれ話をしていると、目的の場所へは割とすぐに辿り着いた。






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