曲の合間に漏れ聞こえる歌を何と無く聴いちゃう13
「拘束したシーリース人は、主犯とみられる代表者一人を除いて全員が沈黙を貫いています。代表者はリオ様と対話し、リオ様をシーリースへ連れ帰ることが目的だと語りました。それが叶わねば、次に計画していることを実行すると」
「そ、それは……?」
「内容については黙秘しています。リオ様と面会できるのであれば、話してもいいと」
私と会わせない限りその計画は実行するし、しかもその期日は近い。それがフィデジアさんたちがその人から入手し得た情報のすべてで、他には私に会わせなければ喋る気はないと主張しているそうだ。
「それは……、会うしかないんでは」
「リオ、計画とやらが本当に企てられているかもわかりませんし、会えば話すという確証もありません」
「でも、もし本当に危ないことを計画してたら怖くない? 例えば神殿を襲うとか」
「襲撃の可能性については我々も考慮しています。多くの神殿騎士を配置して調査や警備を強化していますが、今のところ有力な手がかりはありません」
神殿騎士の人手にも限界がある。何かあやしい情報がないかと調べることに注力すると、警備のための人員が減る。中央神殿への襲撃を警戒して警備を強化すれば、街の見回りが手薄になってしまう。各地の神殿から騎士を借りればカバーできるけれど、今度は地方が狙われやすくなる。
シーリースの人たちは私を国に持って帰りたいらしいけれど、直接的な手段に出るとは限らない。実際これまでに起こした行動は失敗しているわけだから。
だから手がかりでもないことには、具体的な対策を講じることは難しい。
「会って訊こう」
「リオ!」
「いやルルさん、会うっていってもほら、流石に二人っきりで話すとかそういうことは考えてないから。ルルさんもいるんだったらその人だって何かしてくることはないだろうし、ピスクさんやジュシスカさんも連れていけばいいし、何だったらニャニも連れていこう。ね、ニャニ」
見た目怖い神獣暫定ナンバーワンのニャニを見ると、ニャニはシャッと機敏に片手を挙げた。それに手を挙げ返すと、ダバダバとその場を回っている。殺る気、いや、やる気満々のようだ。
「もしその人が計画について喋りそうにないんだったらその場で帰るし、何か怪しいことしようとしてもすぐ帰る。説得されてもそもそも私はシーリースに行こうとは思ってないし、もし説得されかかってもルルさんやジュシスカさんが論破してくれるだろうし」
神殿騎士で最も強いジュシスカさんとその次に強いピスクさん、さらにジュシスカさんよりも強いルルさんがいるので物理的に怖いものはない。ニャニもいるので絵面的にも強い感じがするし。
「話すだけで何か危ないことを防げるんだったらその方がいいよ。ルルさん、行こうよ」
「……だから嫌だったのに」
ルルさんは苦々しい顔でそう呟いた。私がそう言うだろうと予測していたのでこの話を避けていたようだ。
いやこの状況だったら普通誰でもそうするでしょ。
そう言うと、ルルさんが両手で私の頬を引っ張った。しっかり伸びているのに、地味に耐えられる程度の痛みしかない。ニャニもまたシャ……と戸惑っている。
「フフひゃん、ほっへほひふ」
「あなたは危険な真似などしなくてよろしい。大人しく、部屋でじっとしている方であればよいのに」
事実上のニート許容宣言じゃないそれは。やめといたほうがいいよ。実際そうなったら厄介者扱いとかされて、なんか気を遣われながら食事をドアの前に置かれたりするんでしょ。ジャンプ買ってきてもらえないと壁とか殴る荒んだ家庭になるんでしょ。ここの壁石だから殴ったら私の手が砕けるけども。
ということを喋ったけれど、ルルさんには通じなかったらしい。色んな意味で。
もう一度溜息を吐いたルルさんが、私の頬を引っ張るのをやめた。そのまま頬を包むように手を当てて、じっと至近距離で私を見つめる。
「あなたは私が守ります。どうぞ、おかしなことを考えませんよう」
「はい。わかった。超わかった。わかったから。近いから」
ルルさん、よく見たら睫毛も金色。目が綺麗な碧眼なので、なんか貴金属と宝石のようである。イケメンにまじまじ見られて恥ずかしいので距離をとったら、ニャニがおとなしくなった。ルルさんもおとなしくなった。
「リオ様のご英断、まことに感謝致します。面会については万全を期し、必ず御身をお守りすることを誓います」
「うん、でもフィデジアさんは無理しないでね。今日これからすぐ行く? 計画とやらが明日とかだとイヤだし」
「……ご協力ありがとうございます。もし宜しければ、準備が出来次第にお願い頂けたらと」
「リオ」
「だってどうせなら早く終わらしたほうがいいかなって! ほっぺ狙わないで!」
こういうのは大体、日にちが延びれば延びるほど憂鬱になっていくタイプの予定である。ちゃっちゃと終わらせていつも通りに暮らしたい。
「安全のために少し準備に時間がかかると思いますが、遅くはならないようにしましょう。フィアルルーもそれで構わないか?」
「手は抜くな」
「無論」
どうでもいいけどこの二人の会話、なんかキリッとしていてカッコいい。騎士って感じである。
見上げていると、ルルさんが久しぶりに微笑んだ。
「では今のうちに少し休んでおきましょう。今日はメルヘンとも遊びましたから」
「あ、時間あるなら歌ってきていいかな? 2時間くらいでいいから」
なんか緊張するので歌って体をほぐしたい。
そう思っての発言だったけれど、私の頬は再びルルさんによってのびのびされたのだった。




