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曲の合間に漏れ聞こえる歌を何と無く聴いちゃう12

「リオ様」

「フィデジアさん!」


 背の高い美女が、微笑んで扉から入ってくる。ついでにその後ろからニャニが帰ってきていた。階段を歩いて付いてくるときはかなりゆっくり戻ってくるのだけれど、今日は早い。ダバダバ走ってきたのかと思ったら、フィデジアさんが階段を昇るのを手伝ったらしい。

 部屋の定位置に戻ったニャニはご満悦そうだ。微妙に口を開けた表情が、なんかニタァ……と笑っているように見える。怖い。


「あの……赤ちゃんに何かあっても怖いし、あんまりニャニは持ち上げない方が」

「ご心配感謝いたします。しかし、ニャニは意外に軽いので、加護をもらったようなものです」

「軽いんだ……」


 神獣は縁起物的な扱いをされることもあるらしい。お腹にいる子の上でバクが眠ると幸せな人生になるとか、ニャニが歩いているのを見ると幸運が訪れるとかそういう言い伝えがあるんだそうだ。

 ぶっちゃけバクのヌーちゃんは捕まえてお菓子をいっぱいあげればフコフコ寝るし、ニャニの歩くシーンは毎日見ているので信憑性が疑わしい言い伝えだけども。


「こちらは先日、我が実家より送られてきたものです。料理に掛けてお召し上がりください」

「わあ、ありがとうございます!!」

「いつもフコを頂いているお礼代わりといってはなんですが、熱風の強い季節でも食欲が湧きますので」


 焼き物の器に入れられているのは、日持ちのする調味料だった。開けると、細かい具材が入った、黒っぽくてとろみのある液体が入っている。匂いはツンと酸っぱそうな感じだ。フィデジアさんによるとお家に代々伝わっている調味料で、辛さも強いので最初は取り皿に少し入れて食材に付けるといいらしい。


 フィデジアさん、優しい。何かと私に食べ物をくれるけれど、それが街で有名な燻製屋さんのものだったり、最近流行っているというお菓子だったりしてそれも楽しかった。


「フィデジア、それを届けるためだけに?」

「いや。リオ様にお話ししたいことがあり参りました」


 お茶を飲んだフィデジアさんが、すっと表情を引き締める。

 何か大事な用事のようだ。つられて姿勢を正すと、私の隣に立っていたルルさんが間に入るように一歩フィデジアさんへと近付く。


「待て、私が先に聞こう。何故朝伝えなかった?」

「リオ様のいない場所で話せば、お前が伝えぬままで終わらせるかもしれないからだ」


 強い視線でルルさんに言い返したあと、フィデジアさんは私へと向き合った。


「フィアルルーは職務に忠実ですが、あなたを外と遮断しすぎるところがある。祭りの初日に捉えたシーリース人のその後について、私は何度かあなたに伝えるようにとこの男に言ったのですが」

「頃合いを見て伝えると言ったはずだ」


 ルルさんが苦虫を噛み潰したような顔で反論する。

 私が聞いていないと言うと、フィデジアさんはやはりと頷いた。


「昼食での様子から、そうだとは思っていましたが。私は全てを隠すことが良いことではないと思う」

「リオにいらぬ心労をかける必要はない。部下の腕の悪さをリオに押し付けるな」

「あのー、とりあえず落ち着いて。ねっ、ルルさんも座って。平和に平和に」


 なんだか険悪な雰囲気になりかけているので、私は慌てて割って入った。なごみ要員としてヌーちゃんをテーブルへと乗せてみるけれど、この黒いふわふわはお菓子にしか興味がないようである。

 ヌーちゃんに独占される前に私は小皿にナッツがゴロゴロ入った素朴なクッキーを分けて、それぞれの前に置いた。お茶も注ごうとしてルルさんに代わられる。

 とりあえず険悪さに水を差せたようだ。


「それでなんだっけ、フィデジアさんは私になんか伝えたかったけど、ルルさんが良かれと思って伝えてなかったと」

「ええ。しばらく様子を見ていましたが、そう長くも待っていられないようですのでこうして直接お伝えすることにしました」

「リオ、あなたが聞くべきではない。フィデジアも弁えろ」


 ルルさんが厳しい顔をしていた。さっきまでののんびりした雰囲気とは全然違う。褒めろと強要していたシェパードが、仕事中の警察犬に変わってしまっていた。

 それほどまでに私に伝えたくないと思うことを抱えたまま、ルルさんは普段通りに生活していたのか。ポーカーフェイスうますぎ。


「ここまで聞いたらもう内容聞いちゃってもいいのでは」

「リオ」

「いえごめんなさい」


 割とマジでたしなめられた。クッキーをお皿に戻してお行儀よくしていると、代わりにヌーちゃんが食べてしまう。ニャニも遠くで欲しそうに口を開けているけれど、この雰囲気の中では流石に投げる勇気はなかった。


「確かにフィアルルーの案ずる通り、聞けばリオ様には心労がかかるでしょう。しかし、聞かぬまま事が起こればリオ様はより強く後悔するはずだ」

「フィデジア!」

「ルルさんっ」


 腰を浮かせかけたルルさんの腕を慌てて掴むと、ルルさんは私の方を見てそれから座り直してくれた。


「ルルさんが私のことを考えてそう判断したのはわかるよ。さっきも言った通り、いつもあれだけ私のことを気遣ってくれてるし。ルルさんが理由もなくそういうことする人じゃないのもわかるし」

「リオ……」

「でもフィデジアさんも、本当に私にとってまったく必要ないことだったらこうやって言わないと思う。だから、ルルさんの気持ちは嬉しいしありがたいと思うけど、聞いてもいいかな」


 言う機会は何度かあったと思う。

 最近はサカサヒカゲソウの話をすることが多かったけれど、それに関してあのシーリース人についても話すことが多かったし、その流れでお祭りのことを話題にすることも結構あった。それでもルルさんは、何か隠していることがあるとはおくびにも出さなかったのだ。


 ルルさんも理由なくそういうことをするような人ではないから、やっぱり何か重要なことなのだろう。

 だったら聞いておきたいし、ぶっちゃけそんな話があると知ってしまった今、ここで何も聞かないままでいてもモヤモヤし過ぎてその後の生活に支障が出そう。


 ルルさんを見つめていると、顔をしかめているルルさんがしばらくしてから溜息を吐いた。


「わかりました。その代わり、いくつか約束していただけますか?」

「うん」

「話を聞いても責任を感じないこと。内容のせいで外へ出ると言わないこと。相手に同情しないこと」

「えぇ」

「全て約束できないのであれば、私は力ずくでも反対します」

「約束する……」


 それって、ほとんど自力でどうにかできるものではないんじゃ。

 そう思ったけれど、ルルさんが真剣な目でじっとこちらを見ていたので私は頷いた。ニャニも頷いていた。ヌーちゃんは3枚目のクッキーに噛り付いた。






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ルルさんうっとうしい。執着束縛溺愛彼氏だの。
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