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曲の合間に漏れ聞こえる歌を何と無く聴いちゃう6

 しばらく片手で私の頬を揉み続けたルルさんは、ニャニのシャ……シャー……? という若干迷いが感じられる威嚇によってようやく手を離してくれた。ルルさんの力が強いせいで全然逃げられなかったので、今回ばかりはニャニに感謝してしまった。


「心外です、神獣ニャニ。私はリオに危害を加えようとしたことなど一度もありません」


 ルルさんがなんかしゃがんでニャニに話し掛けてる。ニャニは表情筋とかなさそうなワニ面なので、瞬膜で瞬きするくらいしか反応していないけれども。


「えっとー、ルルさんジュシスカさんと話してきたんですよね? 結局アレなんだったんですか?」


 座り直してテーブルの上でお菓子を盗み食いしているヌーちゃんを抱き上げ、ふわふわの毛についたお菓子のカスを落とす。甘酸っぱいジャムの乗ったクッキーがお気に入りのようで、選んで食べていた。識別できるとか賢い。でも食べすぎると神獣とはいえ体に悪そう。心なしか最近お腹がぽよぽよしている気がするし。


 ルルさんがルイドー君の座っていた席に座り、それからお菓子の器をよけて小さなものをテーブルの真ん中に置いた。

 茶色い紙を折ったものである。


「これなに?」

「あの男が投げてよこしたものです」


 手で摘んで傾けると、シャカシャカと音がする。薬包紙のように中に何かが入れられているようだ。音と指で触った感じからすると、ゴマ粒くらいのものがたくさん入れられているようだ。


「同封されていた手紙によると、サカサヒカゲソウという花の種を入れたと書いてありました。この国では手に入らないものなので時間が掛かりましたが、事実のようです」

「花の種くれたの? それはなんというか……変わった贈り物だねえ」


 花束はすぐ枯れるから鉢植えの方が嬉しいと言っていた人をしっているけれど、これはさらに種から育てる楽しみをプラスしたプレゼントだろうか。上級者向けな気がする。相手が園芸しない人だった場合、致命的なすれ違いを引き起こしかねない。


「シーリースでは、今疫病が流行り始めていると書かれていました」

「ええ」

「北方の山岳地帯で稀に見られる病のようですが、治療するための薬草が非常に入手しづらく、民は苦しんでいるということでした」

「このサカなんとかソウがその薬草なの?」

「そう書かれていました。フコを短時間で増やしているのであれば、サカサヒカゲソウも同じく増やせるのではないかと」


 救世主様についてみんな興味津々のようで、街では既にフコを育ててるらしい的な噂もちらほら流れているらしい。それを聞き付けて頼んだのだろう。


「元はマキルカ国内で薬草を融通してくれないかと神殿に頼む予定だったようですが、この大陸では見ない植物のため、リオを頼ることにしたようです」

「あらら」

「そもそもそういった病についての記録がこちらにない上に、シーリース国絡みなので証拠もなく信じることはできません。方々に問い合わせている最中ですが、もし疫病が事実であれば対処は早いに越したことはありません」

「まあそうだよね」

「この花には毒もなく、干して根を煎じることによって薬効が出るようです。リオ、力を貸してくださいませんか」


 よくわからない人間がよこした情報、しかもシーリース人っぽい人であれば信憑性は低いのだろう。それでも、事実だった場合に備えて薬草を増やしておくべきだという結論になったようだ。

 なんというか、本当にエルフの人たちはまっとうだよなあ。

 キナ臭いと評判のシーリース関係だし、裏を取ってから薬草を増やしてもいいだろうに、病気で苦しむ人のことを考えて素早く判断するのってすごいことだと思う。これを盾に、政治的に強く出たりとかできそうなのに。

 なんかその誠実さに触れると、ちょっと嬉しくなるのは何故だろう。


「いいよー! っていうか私は中に運んで歌ってるだけだし、上手くいくかはよくわからないけれど」

「ありがとうございます。リオの祈りと神の御力できっと上手くいくでしょう」

「どうせヒマだしこれからちょっと行ってこようか。これそのまま持っていけばいいのかな?」

「念のため、まず一粒から始めましょう。安全と、成長の具合を見ながら増やすべきかと」


 今日はお祭りの最終日で楽しかったし、ルイドー君とも喋って面白かったのでちょうどカラオケでも行きたい気分だったのだ。

 よっしゃーとヌーちゃんを抱えて立ち上がると、ルルさんが私の前で跪いた。片手を取って、その甲を額に付ける。

 金髪の髪にくすぐられた手に、顔を上げたルルさんがそのまま唇も付けた。


「えっ!! 何、急に?!」

「リオのご慈悲に感謝します。厭うことなく引き受けてくださってありがとうございます」

「全然そんなのアレだから! ほら、ルルさんたちがそうした方がいいってすぐ決断したほうがすごいから!」

「光栄に思います」


 ルルさんが私の手を握ったまま立ち上がり、微笑む。

 ていうか今普通に手の甲にキスしなかったこの人?


 思わずピスクさんを見たけれど、ピスクさんは何故か仏像顔を維持していた。目を細めてどこを見ているかわからない。というか頑なに目が合わない。ニャニは目が合ったけれど片手を上げられただけだった。ヌーちゃんは私の腕でペロペロと口の周りを舐めている。


「リオ?」

「あっうん!! じゃあ行こうすぐ行こう!」


 顔を覗き込まれたので、ヌーちゃんを抱えて私は扉の方へ歩き出す。

 外国人との交流もない人生を送った日本人に手キッスはハードル高い。なんでルルさんはそんなに普通にしているのか。そういうことする文化がここにもあるのだろうか。異世界怖い。

 なんか恥ずかしくなったのでヌーちゃんに顔を埋めると、干した布団とお菓子の匂いがした。






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