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曲の合間に漏れ聞こえる歌を何と無く聴いちゃう2

 流石に3日目ともなるともう見物に来てくれる人が少ないのではと思ったけれど、意外とそんなことはなく、どの日も同じくらいの賑わいでちょっとホッとした。

 人が多過ぎてよくわからないけれど、何度も見にきてくれている人もいるのかもしれない。

 とりあえず、神殿から出て一番最初に見える三階建てのバルコニーで、やたらときらびやかな衣装を着て物凄く激しい動きでアピールしてくるゴツいおじさんは毎日いたな。最後なのでルルさんに頼んでニムルを投げてもらったら、キャッチしたおじさんは両手を突き上げて喜んでいた。楽しそうな人だ。


「お祭り、今日で終わりなんてなんだか早いねえ」

「リオは祭りが好きなのですね」

「うん、なんか賑やかで好き」


 日本でも、家の近所でやる夏祭りなどが近付くとワクワクしたものだった。いや仕事で一度も行けたことはないんだけど、お祭りが近付くにつれて道沿いに飾られる提灯とかポスターとか、終電でも楽しそうな浴衣集団とか、朝帰りする法被を着た人とか。


 どこの世界でも非日常の楽しみはいいものだなあ。

 手を振ったりニムルを投げたりしながら考えていると、目の端でチカッと何かが一瞬光った。瞬くと、もう一度同じ場所が光る。


「あれ?」

「リオ、大丈夫ですか?」


 同じ光に気付いたらしいルルさんが、それを遮るように私の目の前に腕をやった。その腕を掴んで上から覗く形で光った場所を指差す。


「ルルさん、あの人」


 宿屋だろうか、二階の窓の手摺越しに誰かがこちらを見ている。

 日当たりのいいそこにいるのは、短い紺色の髪をした男性だった。

 体格が良く、筋肉のつき方や姿勢からして武道を習っていそうな雰囲気がある。強い眼差しが印象的な、髪と同じ紺色の瞳でじっとこちらを見ていた。


「あの人、初日に助けてくれた人だよね。中央神殿は危ないから広場に行けって」

「……同じ人物のようですが、味方とは限りません」

「でも実際にそうだったんじゃないの?」


 私たちが西の小神殿で昼食を食べたりニャニにビビったりしているうちに、中央神殿付近でも何やら一悶着があったらしいということは聞いていた。近くにシーリース人らしき人が潜んでいて、神殿騎士と衝突したらしい。一方で、広場の方では特に揉め事もなかったということだ。

 あの時に紺色の髪をした男性が言ったことは正しかったのだけれど、ルルさんはそれでも警戒を緩めないようだ。


 でもまあ、この距離である。今日は場が混乱してもいないし、馬に乗っている私とルルさんと男性の間には人々がいて、しかも男性は二階にいる。歓声が大きいので声もあまり届かない距離だろう。


 私がじっと見ているからか、目が合っている気がする。

 手を振ってみると、相手も右腕を上げた。


「おお」


 紺色の髪の男性は、ひらっと一回手を振って、その手を懐に入れた。それからまた手をこちらに向けて振る。何か手に持っている物をこちらにゆっくりと見せつけているようだ。

 何だろうと思っていると、ルルさんがいきなり後ろから私を自分の方へと引き寄せた。


「リオ!」

「うっ」


 しばらくしてから姿勢を元に戻されて振り返ってみるとルルさんが何か持っていた。

 ルルさんが腕で反対を向くように引き寄せたので見えなかったけれど、あの男性は持っていたものをルルさんへと投げたらしい。

 モノはルルさんの手のひらに収まるほどの大きさで筒状の形をしていたけれど、詳しく見ようとする私から遠ざけるようにルルさんが手を動かしたのであまり見えなかった。


「ジュシスカ!」


 ルルさんは、やや離れた位置で歩いていたジュシスカさんにその受け取ったものをそのまま渡してしまった。受け取ったジュシスカさんは他の神殿騎士と場所を交代して静かにいなくなる。


「あれ何だったの? ニムル?」

「調べさせます。危険なものかもしれませんから」


 見た感じあまり重さのあるものではなさそうだったけれど、毒か何かだと困るのでとりあえず私から離した場所で確認するとのことだった。

 男性を見上げると、男性も真っ直ぐにこちらを見続けている。その瞳はとても真摯で、誠実そうに見えた。


「リオ、前を向いてください」

「うん」


 ルルさんに促されてニムルを人々に投げる。それからもう一度振り返ってみたけれど、二階の窓にはすでにその男性はいなかった。






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