分厚い曲集めくって探した時代が懐かしい13
熱唱するとスッキリするのは何故だろう。
運動とはまた違ったスッキリ感な気がする。体内に蓄積した思考のカケラが、横隔膜をバネにして飛んで行っているのかもしれない。
どうでもいい妄想をしながら2時間ほど熱唱しまくった私は、さっぱりした気持ちでルルさんに出迎えてもらった。恭しく手を差し出されたのに答えて、それから一緒に歩き出す。
白い渡り廊下の途中で下を見下ろすと、今日も綺麗な水面が細かく波打っていた。この間刈ったばかりなのに、草がまた伸び始めている。
その草むらから、ニュッと飛び出た青いワニがその勢いで水へと飛び込んでいる。ドボンと大きく立った水音にルルさんもちょっと下を覗いていた。円状に波打った水面から金色の目だけを出している。
ニャニが何をしたいのかはまったく理解できないけれど、傾きそうな太陽の下でも暖かい良い天気だった。ルルさんが言っていた通り、毎日少しずつ夏に向かっている。
「ルイドー君がね」
「はい?」
空を見渡していたルルさんが、私の声に振り向く。その目を見ながら、私は歌いながら考えていた説明を始めた。
「あの態度がなんか嬉しかったのは、やっぱり私はもうちょっと砕けた態度を取って欲しかったんだなーって」
私にツッコミを入れたことはまあ置いとくとして、あのちょっと粗雑な感じの態度は、今の救世主様扱いよりもうんと私に馴染みのあるものだった。
この世界の人と出会って半年も経ってないというのもあるけれど、やっぱり今の敬語と丁寧な態度で接してもらっていることに私は壁を感じていたらしい。
雑であれば嬉しいわけではないし、丁寧な態度でも親しみを覚えることもある。だけど、実感のない救世主様扱いはやっぱりどこか気まずさがあるし、敬われるということは線を引かれるということでもある。
私はこの世界の人々にとってかなり重要な人間だ。ゆっくり滅びていた世界をぐいぐい戻せる唯一の人間なのだから。だから特別扱いされるのは仕方ない。
でも、私のことをもっと知ってくれたら、きっと他の態度を見せてくれる人もいるだろう。
たとえばルルさんとか。
「私ですか?」
「うん。なんか薄々気付いてたけど、ルルさんってその態度が素じゃないよね。ジュシスカさんとか、ルイドー君に対してはもっと雑な感じ」
「それはまあ……」
「いつか気を遣わないような関係になれたらいいなーって。あと、ルルさんとかこの世界の人にもそう思ってもらえたら良いなーと。で、今のまま何もせずにぼーっと暮らしてたら変わらないよなーと思って」
「だから、外で祈ることを考えたのですか」
「うん。それはまあ無理だったけども」
ルルさんにあれこれやってもらって、私はここでぬくぬくと用意されたご飯やお風呂を堪能しながら毎日カラオケしているだけだと、今まで通りの扱いのままだ。そして完全に甘やかされた引きこもりだ。ルルさんが外に興味を向けようとさせたのも頷ける。
もっと色んなことを知って、色んな人と色んな関係を築いていけたら嬉しい。
「ぶっちゃけ地球でも友達少なすぎたせいで人と仲良くなる方法なんてよくわからないけど、せっかく異世界に来たんだし色々頑張ろうかと」
「とてもいい心がけだと思います」
ルルさんは微笑みながら頷いてくれた。
この微笑み、落ち着く。私がこういうこと言い出せるのも、ルルさんがいいよって言ってくれそうな雰囲気を出してくれてるからだなと思った。
「胸を張って全てが善良だと言い張ることはできませんが、力の強い神殿には人格者も少なくありません。リオを知ればより親しみを抱く者も多いことでしょう。私がそうだったように」
「えールルさん親しみ抱いてくれてる? もっと砕けた感じでもいいよ?」
「そう言われるのは喜ばしいことですが、急に態度を変えるのは難しいものですね」
「そんなこと言わずに! 私をルイドー君だと思ってみて!」
「それはお断りします」
「拒否が早い」
顔が一瞬本気で嫌そうだった。ルイドー君かわいそう。今度フコの実でもあげよ。
「では私との仲を深めるために、今度2人で乗馬の練習でもしてみますか?」
「おおー、それっぽい! さすがルルさん!」
「私が後ろできちんと教えて差し上げますよ」
「いやあれ緊張するし照れるしむしろ気まずいけど」
「明日も明後日も共に乗るではありませんか」
「うわそうだった忘れてた」
明日もあの二人乗り体勢でお祭りに出ると思ってうへえとなっていると、ルルさんが私を見て笑った。その笑顔はなんか楽しそうで、ちょっと砕けた感じだったと思う。




