分厚い曲集めくって探した時代が懐かしい11
太陽が高い位置に登って気温が上がっていたけれど、相変わらず行列を挟む人々には活気があった。最初の頃よりも歓声が多い気がする。
ニムル投げをルルさんに手伝ってもらいながら、私はできるだけあちこちに手を振った。
「救世主様ーっ!!」
「はい救世主ですよー」
「こちらにもお顔をお見せください!!」
「いいよー」
返事をしてみるけれど、歓声がすごくて自分の声も聞き取りにくい。しかし私の衣装は三姉妹が気合を入れた派手さなので、遠くからでもよく見えているだろう。
花びらを撒かれたり、ニムルを撒いたり、口を全開にしてメルヘンの背中に乗っているニャニにしかたなくニムルを投げたりしながら、行列は広場へと辿り着いた。
「おおお色んないい匂いが!」
「ここは屋台も多いですから」
「甘い匂いもする! これは揚げ物系のお菓子とみた」
「えぇ……パシムを揚げたものでしょうか」
広場の中央にはドーナツ型の舞台のようなものが作られていて、そこでは楽器を持った人たちや踊っている巫女さんたちがいた。祈りのようなものをしていたらしい。
その舞台上へ先に降りたルルさんが、私をパステルの背中から降ろしてくれた。すぐ後ろで舞台に横付けになったメルヘンの背からもニャニが降りている。降りているというか、ズルゥ……っと滑り落ちていた。先に舞台にいた巫女さんたちが慌てて手を貸している。
「救世主様、お怪我などございませんか」
「全然」
「ご無事でなによりです」
10人ほどの女性巫女さんたちも、普段とは違うちょっとしたおめかしをしていた。といっても私のような派手衣装ではなく、薄桃色でひらひら成分がちょっと増えた程度の可愛い衣装である。私もこれがよかったなとちょっと思ってしまった。
「ちょうどこれから植樹式を行うところです。どうぞリオ様もご臨席くださいませ」
「はーい」
この世界にも、記念植樹というものがあるようだ。
巫女さんの案内によると、舞台の中央に空いた穴のところにフコの木を植えるらしい。私の祈りでフコがよく育っていたのと、奥神殿で育てたフコの苗を配ったりしていることから私のイメージがフコと結びついているため、なんか記念に植えとくかという運びになっていたそうだ。
「こちら、リオ様がお育てくださいましたフコの苗です。中央神殿の中庭で丹精したもので、一番よいものを選びました」
「へー」
ちょうど私の身長くらいの高さまで育ち、わっさーっと葉っぱが茂った苗が運ばれてくる。奥神殿で伸びた枝がさらに成長したらしい。
舞台の中央、穴が空いている部分には階段が付いていて、地面へと降りられるようになっていた。ルルさんが階段を使わずに飛び降りて、周囲の安全を確認してから私に手を貸してくれる。
踏みならされた硬い地面の広場だけれど、そこだけが柔らかく黒っぽい土で耕されていた。穴が掘られたところへ、巫女さんたちが苗を運んで入れた。木で作られた小さいスコップのようなもので土を掛けて根を埋めていく。
植樹作業をしているのは巫女さんだけだ。周囲に神殿騎士っぽい人もいるけれど、何か決まりがあるのか手伝っていない。あまり大きな苗ではないけれど、巫女さんは細腕だし慣れていない感じが出ていてちょっと大変そうである。
「ルルさん、あれ私も手伝っていいと思う?」
「リオがですか? ええ、構わないと思いますが……」
ルルさんに尋ねると、年長の巫女さんにお願いしてくれた。私もスコップを貸してもらって近付くと、巫女さんたちが笑顔で輪に入れてくれる。
「まあ、救世主さま自らお手伝いくださるなんて」
「リオ様、ありがとうございます」
「そんなに頼りにならないと思うけど頑張ります!」
「頼もしいわ」
正直スコップは重たいし、その上あまり土を掬えないので作業量が増える。土を掛けると苗が微妙に斜めになったりして意外に難しい。巫女さんたちも普段こんなことをしたことがないらしいけれど、それでもなんだか楽しそうにやっていてこっちも頑張ろうと思えた。
植え替えといえば小学校のチューリップか室内用の観葉植物かくらいの経験しかないのでルルさんにアドバイスをもらいつつの作業である。
「フコは根が強いので、しっかり踏み固めても大丈夫ですよ」
「なるほどー。だそうです」
「踏んで固めるのね」
「踏むと地面が沈むわ。もっと土がいるわねえ」
「このフコ、本当に元気ねえ」
泥汚れを気にせずにキャッキャと作業する巫女さんたちに、見守る神殿騎士の人たちも微笑ましそうな顔になっている。舞台上から顔だけ出してじーっとこっちを見ているニャニも微笑ましく思っているのかもしれない。いや全然表情読み取れないけども。
「このくらいでよいのではないでしょうか?」
「わーい完成〜。お疲れ様でした〜」
「リオさま、ありがとうございました」
いい感じに植えられたフコの木を前に、お互いを労い合う。いい運動になった。ルルさんがスコップを受け取って、代わりにタオルを渡してくれた。運動部員とマネージャー的なシチュエーションである。
「随分励まれたようですね」
「結構大変だったよー。面白かったけど」
「手に怪我などはされていませんか?」
「ないない」
スコップが硬かったのでちょっと手のひらが赤くなっているけれど、水ぶくれはできていない。心配性のルルさんチェックを受けていると、同じく汗を拭った巫女さんが笑顔で話しかけてきた。
「手伝っていただき、本当にありがとうございました」
「いえいえ楽しかったです」
「他の巫女たちもリオさまの申し出を非常にありがたく思っています」
「そんな、この程度だったら全然、いつでもお手伝いしますー」
「ではこれからこのフコが大きく育つようにと皆で祈るのですが、よろしければ引き続きリオさまも共に」
「あーすみません植樹頑張りすぎてお腹減りすぎて力が出ない!! 祈るのはちょっとムリですね!!!」
「そ、そうですか?」
「そうです! 今動くと死んじゃいますね! 空腹で!!」
「リオさま……?」
あっぶねー、どんな罠だよ。
巫女さん、神殿騎士、そして溢れる民衆の前で歌うとか、拷問か。
私は非常にスマートに申し出を断り、ルルさんと一緒に巫女さんたちの祈りの鑑賞側として立つことに成功した。
鑑賞していた私には特別に、屋台で売られているお惣菜やお菓子が続々と届けられた。




