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分厚い曲集めくって探した時代が懐かしい6

 安全が確認されるまで、とりあえずこの小神殿で待機するらしい。そしてこの小神殿は出入りを一時的に禁じているらしいので、私とルルさん、ニャニ、そして現れたヌーちゃんという大体いつものメンツでぼんやり待機中だ。


「おすわり。おーすーわり。そうそう賢いねーよーしよしよし」


 砕いたニムルを鼻先に差し出すと、それにつられたヌーちゃんが鼻先をあげ、お尻を床に付ける。褒めながら撫でると、ヌーちゃんはパリパリとニムルを貪った。私の手を舐めて粉まで平らげたので、また欠片を摘む。後ろで密かに体を持ち上げたりお腹を床につけたりを繰り返しているニャニには気付かないフリをしつつ、私はヌーちゃんに芸を仕込んでいた。


「おすわり。おすわりだよーあれ? おすわりは? ヌーちゃんおすわりはー?」


 何度かの訓練ののち、ペロペロと口の周りを舐めたヌーちゃんは私の命令など全く聞こえていないかのように身繕いしたあと、カリカリと爪で私の膝まで登ってから仰向けになって寝る体勢をとった。ニムルを見せてみても、ヒクヒクと小さい鼻を動かすだけでそのままつぶらな瞳をうとうと閉じてしまう。おすわり習得の道は厳しそうだった。


「バクは非常に気まぐれな生き物ですから。リオにはとても懐いているようですが、誰かに懐くこともとても珍しい神獣なのです」

「そうなんだ? あの施療院? のお姉さんには懐いていたよね」

「あそこはとても貴重な場所です。あれほどバクの集まる場所は他にありませんよ」

「へぇ……」


 ヌーちゃんもあそこでは癒しの手伝いをしているけれど、本来特にそういう性質はないらしい。行きたいところへ行き、食べたいものを食べる。夢を食べるのでバクに助けられたという人は多いけれど、食欲のままに食べているだけで積極的に助けているわけではないようだ。


「神獣バクも神獣ニャニも力をよく捉えるといいます。リオの側が心地よいのでしょう」

「力に心地良いとかある? 強いから?」

「強ければ同じというわけではありません。リオの力はとても暖かく、心地良いものですよ」

「そうなんだ。よくわからないけど」


 マイナスイオンみたいなものだろうか。まあ、ヌーちゃんやメルヘンは可愛いので好かれるのであれば嬉しい。まだ密かに上下を繰り返しているニャニはちょっとアレだけれども。

 お腹丸見せでフコフコ寝息を立てているヌーちゃんを一緒に眺めていると、ルルさんがふと顔を上げて立ち上がった。しばらくしてから、その視線の先にあった扉の向こうで声が上がる。


「フィアルルー様! お食事をお持ちしました! 俺ひとりです!」

「リオ、安全な人物です。入れてもよろしいですか?」


 頷くと、微笑んだルルさんが扉の方へと歩いていく。

 今、足音とか聞こえてたのかな。ルルさん猫みたいに耳がいい。


 扉を開けた先から、元気な声が聞こえてきた。ルルさんが促すと、ひょいと中を覗き込んだ人物が大きなお盆を抱えて入ってくる。

 背は私と同じくらい、やや幼い顔つきをした少年だ。明るい金髪に緑っぽい青の目が人形のようである。パッと嬉しそうな笑顔でルルさんを見ている。


「フィアルルー様のお好きなものを用意しましたよ! ベンゼルの燻製にニーダ鹿のシチュー、フコの薄焼きと、少しだけど果物も!」

「悪いなルイドー、急に準備をさせて」

「予言で何かあると出ていましたから。祭のこともあるし、皆で予想はしていました!」


 ニコニコと嬉しそうに話しながら、少年が机の上に手際よく料理を並べていく。お肉が乗ったお皿に蓋の乗った深皿、クレープのような皮が重ねられたお皿には、飾りのようにソースが入った小皿が乗せられている。

 ほかほかと湯気が出ていてとても美味しそうだ。じっと見ている私に気がついたルルさんが、私の背中に手を当ててそちらへと促した。


「リオ、彼はルイドー、ここで見習いをしています。ルイドー、こちらがリオ様。私が今お守りしているお方だ」

「どうも初めまして、リオです」

「こんにちはー!」


 ……ん?

 頭を下げるとルイドー君は反応してくれたけれど、なんか割と、スルーに近いような笑顔だった気がする。

 実際、こんにちはの一言だけで彼はまた配膳に戻ってしまった。いや、仕事の途中だからというのもあるけれど、なんかこう、なんだろう。


「シチューはまだ沢山ありますから、あとでおかわりを持ってきますね! フィアルルー様必ず二杯も召し上がるから!」

「助かる。それと、パンはあるかな。リオはフコがあまり得意ではないから」


 大きなお盆に乗っていたものを全て配膳したルイドー君が、すっと私を見た。それからルルさんに向けて笑顔で口を開く。


「ちょうど今日焼く日で、まだ焼きあがっていないかもしれません。さっき捏ねて寝かせたところですから」

「なら、シーシの実を砕いて入れたものを作ってくれるとありがたいな。料理長に言っておこうか」

「……そういえば、先程ピスク様がお見えになっていましたよ! ご報告もあるようですから、フィアルルー様は長老たちとそちらでお食事なさいますか?」

「いや、リオと摂る。だが報告は聞いておきたいな」


 そう返事をして、ルルさんが私の方を見る。


「申し訳ありません、少し抜けるので、先に食べ始めて頂いてよろしいですか?」

「う、うん。あの、私一人で食べても別に」

「すぐに戻ります。こちらの料理は熱いので、舌を火傷なさらないようお気をつけください」


 ルルさんは私を椅子に誘導すると、小皿にあれこれと取り分けて準備を整えた。


「神獣ニャニ、どうぞリオをお守りくださいますように。ルイドーもここで守っておくように」

「……はーい」

「ではリオ、少し席を外します」

「あっ……うん……」


 テキパキと動いたルルさんが、さっと言い残して部屋を出て行ってしまった。後に残ったのは、ヒクヒク鼻を動かしながら寝ているヌーちゃんとじっとしているニャニ、私

そしてルイドー君である。

 無表情でこちらを見るルイドー君である。


「……いただきます」

「どうぞ」


 とても気まずい昼食が始まったのだった。






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