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分厚い曲集めくって探した時代が懐かしい4

 ボーゥと聞こえた大きい音は、巨大ゾウの鳴き声だろうか。悲鳴や怒声が聞こえる中で、上の方からバッサバッサと大きな羽ばたきが聞こえてくる。ついでにルルさんの舌打ちも聞こえてきた。

 あ、これアレですね。前に見たでかい鳥のやつ。


「射掛けろ! 近寄らせるな!」


 張った声を近くで聞くとかなり迫力がある。私を懐に隠しながら、ルルさんはしっかりとあぶみを踏んで手綱を持ち直した。


「軒へ入れ! 逃げ回ると馬に踏まれるぞ!」

「救世主様をお守りしろ!」

「捕らえるんだ!」


 あちこちで色んな人が叫ぶけれど、さっきまでとは違って物騒な雰囲気だ。道の両側にいる人たちを私たちに近寄らせないようにか、ピスクさんの怒声も聞こえた。

 救世主様を守れ、という声の合間に、救世主様を返せ、という声も聞こえた気がする。


「フィアルルー!! お連れしろ! 道は我等が切り開く!」


 後ろから聞こえてきた威勢のいい声にルルさんは頷いて、いきなり私を持ち上げたかと思うと体を九十度回転させた。マントの中から顔が出て、周囲が随分混乱してしまったことに気付く。動き回ろうとする人たちに、それを抑える神殿騎士の人たち。大きな音を立てながら駆ける動物や上方をさっと過ぎる大きな影もあった。


「なに?!」

「すみませんリオ、走ります。私に捕まっていてください」

「なにー?!」


 鞍に横向きになるように座ることになった私の腕を、ルルさんが引っ張って自分の胴体に回す。慌ててカゴの持ち手を腕に通していると、ふと視界の端で人が動いた。

 男の人が流れに逆らうようにこちらを向いて叫んでいる。


「中央神殿には戻るな! 狙われるぞ! 広場へ行け!」


 見つめていると、目が合う。紺色の瞳が印象的な人だ。

 次の瞬間にはルルさんによってまたマントが被せられ、私はぐわんぐわんと突き上げられるような揺れに翻弄されることになる。


「ああああ」

「舌を噛むので口を閉じて! しっかり捕まっていてください!」


 揺れてる中で口を閉じるのって意外と難しいんだな。ギュッと奥歯を噛み締めて、振り落とされないようにルルさんにしがみつく。


 体を捻ってルルさんにしがみつくと、当然進行方向とは反対を向くことになるわけで。

 速度に加えて揺れがプラスされるわけで。

 もちろんどういう動きをするかは全くわからないわけで。


 私は当然の帰結として、酔ったのだった。


「すみません、もう少し耐えてください」


 ルルさんの声が、この揺れに対してではなく吐き気に対してなのではないかと誤解するくらいには追い詰められていると、人の声がいくらか聞こえてきて、それからルルさんは私を抱えたまま馬から降りた。


「フィアルルー様!」

「開けろ」

「どうぞ奥へ! ここは閉めます!」


 随分と若い声が聞こえてきて、その声がどんどん後ろに流れていく。馬よりは揺れがマシになったものの食べたものが喉元まで戻ってきているのを感じていると、ようやくルルさんは私をフカフカの椅子の上に下ろした。そして手で私の額を覆う。

 じわーっとあったかい温度を感じたかと思うと、少しすっとする感じがして、ちょっと酔いがマシになった。


「しばらくここで休みましょう」


 見上げると、ルルさんが優しい顔で微笑んでそのまま私の額と頬を撫でた。それから上体を起こし、マントを外して私の首から下にそっと掛ける。

 私の顔にかかっていた髪を指で避けてから、ルルさんは私に背を向けた。その左手は

腰に差した剣をいつでも抜けるように構えている。


 うん。どう見ても休むって姿勢じゃないな。

 引いていく酔いを感じながら、私はルルさんの頼もしい後ろ姿を眺めた。






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