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分厚い曲集めくって探した時代が懐かしい2

 物憂げな顔のジュシスカさんに「やや派手ですが、祭りでは浮かれた格好は珍しくないかと……」と現実的な意見を貰い、私はとりあえず落ち着いた。ニャニは去っていった。


「パーステルー」


 タッセルの付いた手綱や鞍など、装飾的な馬具を付けられ大人しく待っているピンクの馬に話しかけると、ブヒヒヒンと鳴いたのはメルヘンの方だった。同じような装飾を纏ったメルヘンは、はよ撫でろと言いたげにこちらへ来ようとして、手綱を持って宥めている人を困らせている。

 近付くと、メルヘンは鼻先を私に寄せて柔軟な唇をフワフワと動かした。


「メルちゃん、モヒモヒはしちゃダメだよ。今日の衣装めっちゃお金と手間がかかってそうだし」


 あと人に馬臭いと思われてしまうし。私としてはほんのり残るイチゴの香りは嫌いではないけれど、ピスクさんやジュシスカさんに「馬と戯れてきたのですね……」とチョイ引きで言われた上巫女三姉妹にも控えめに入浴を勧められたりしたので、あまり受けは良くないことはわかった。


 サトウキビっぽい見た目の茎をあげると、メルヘンはボーリボーリと音を立てて食べ始めた。袖のところからヌーちゃんが現れたので落ちていた葉っぱをあげると、サクサクと小気味良い音をさせながら葉っぱが短くなっていく。動物の咀嚼音、聞いてるとなんだか心が和むのはなぜだろう。


「今日、メルヘンも一緒に行くんだね」

「はい。何かあったときのために、メルヘンはパステルの後方を歩かせます」

「何もないといいねえ」


 神殿から広場へと向かう行列には、私たちの他にもカラフルなパステルカラーの馬が何頭か、あと鹿みたいな生き物に乗る人もいる。そして私が搭乗を辞退したあの大きなゾウもいた。背中には、きらびやかな屋根付きの鞍を乗せている。四方には豪華な布が垂らされていて、その屋根の下は見えないようになっていた。


「注目を分散させるためです。リオのお力は強いのでエルフたちにはあなたのことがすぐにわかってしまうでしょうが、人間の中には力の過多を見分けられない者もいますから、少しは目くらましになるかと」

「あれダミーなんだ。確かにあっちのほうが豪華だから目立つかも」


 他の馬や鹿っぽい生き物に乗っている人も、ルルさんも同じような青い服を着ている。私以外は白いマントを纏っているし刺繍は私が一番豪華だけれど、色の派手さではいい感じに馴染んでいるのだった。さすが三姉妹。あとでまたフコの実を差し入れしよう。


「乗りましょうか」

「うん」


 台に乗って足をあぶみに乗せ、ルルさんの手を借りながらよっこらしょと鞍に跨る。私が上体を起こすと、ルルさんが身軽に後ろへ乗ってきた。大人しく立ったままのパステルが、ブルブルと息を吐いた。


「パステル、重くないかな。今日は特に鞍も派手だし」

「もともと重荷を運べる種ですから、リオひとりくらい何でもありませんよ」

「頼もしい〜」


 大人しいパステルは、ピンク色の耳を片方こちらに向けている。私とルルさんを乗せても嫌がらないいい子である。メルヘンはそんなパステルに擦り寄ったり、私の前に顔を突き出して撫でろと見つめてきたりと相変わらずフリーダムだった。押しのけられそうになったヌーちゃんが、私の腕の中でキッと鳴く。


「リオ、これを。道中に集まった人々へと投げてください」

「おおー、餅撒き。これなに? お菓子?」

「ええ、ひとつ食べてみても構いませんよ」


 ルルさんが後ろから渡してきたのは、持ち手のついたカゴだった。中には三角錐型のものがたくさん入っていた。手で掴むと2つ持てるくらいのサイズのそれは、オレンジ色の葉っぱで包まれていて、葉っぱから伸びる茎で上手いこと結ばれている。


 ひとつ開けるとヌーちゃんが鼻息荒く覗き込んできた。茎を咥えて引っ張り、包んでいた葉っぱをモリモリ食べてしまう。メルヘンもそれを見てカゴに顔を突っ込もうとしたけれど、ルルさんに制されてブヒヒと文句を言っていた。


「おおー、焼き菓子……?」

「ええ、木の実などを粉にして甘みを加えて練ったものを、蒸してから焼き固めたものです。少し硬いかもしれません」


 尖った先を齧ると、しっかりした硬さがあった。ガリガリ噛むと甘みが広がってきて割と美味しい。ずっしりしているので、小さくても意外に食べ応えがあった。

 ニムルというこのお菓子は、幸運を分け与えるためのものでお祭りの時によく作られ、そして投げられるものだそうだ。適度に重さもあって投げやすそうな感じはする。


「上に放るようにすると投げやすいですよ。リオは手が小さいので、1つずつがいいでしょう」

「頑張って投げるね」


 ニムルはまだまだあるので、どんどん投げていいらしい。三角を手の中に握って投げる素振りをしていると、うっかりスッポ抜けた。


「あっ」


 落ちるニムルをメルヘンが上手いこと口でキャッチして、そのままバリバリむしゃむしゃと食べてしまう。


「ルルさん、メルちゃんが食べちゃったけど大丈夫?」

「健康には問題がないでしょうが……まだまだ躾が必要なようですね」


 ルルさんが低い声でメルヘンと呼ぶと、メルヘンは聞こえなかったようにトットッと走って小さくぐるぐる回りはじめた。怒られるのが嫌なのは馬も同じなようだ。回りながらもチラチラとルルさんの様子をうかがっているのが可愛い。


「ところでリオ、あそこにもニムルを期待している姿が」

「え?」


 ルルさんに肩を叩かれてメルヘンがいる右側から視線を移すと、少し離れた場所でまたニャニがこちらを見上げていた。四肢で体を起こした状態でじっとしている。


「……ニャニにもあげるべき?」

「食べさせてほしいようですね。神獣ですから、お腹を壊すことはないでしょう」


 しばらく迷ったものの、メルヘンにもあげたしヌーちゃんもニムルの欠片を盗み食いしていたので、平等性のためにニャニにも投げることにした。

 私のコントロール力の低さによって小さな三角錐はニャニから外れた方向へと飛んでいったのだけれど、びっくりするほど素早い動きで大きな口を開けたニャニはバクンと上手にキャッチし、それからドタドタと青い身体をくねらせて回り出した。


「うわぁ……」


 向かって右側ではムラサキの馬が、左側では青いワニが回っているこの状況。

 なんだろう。なにか召喚できそうな気がする。






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