グループで歌ってる曲はパートごとに声を変えてしまう8
私が参加するということが決まったお祭りは、20日後に開催されると決まったらしい。3日後くらいにちょっとやって終わるのかなと考えていたので、思った以上に本格的で驚いた。警備のあれこれとか、お祭りに出すお店の準備とか、そういうのが忙しいようだ。
お祭りは3日間行われて、私はそれぞれ午前中に神殿とお祭りのメイン会場をパレード的な感じで往復する。メイン会場は結構近いので、時間にすると1時間くらいのようだ。
時間も短いし、往復するのも自分で歩くわけではないので疲れ果てることはないだろうとルルさんは言ったのだけれども。
「えっ……待って……これ乗るの……?」
これが乗り物ですと案内されたのは、どう見てもゾウだった。
象、エレファントである。パオーンとか言ってるもん、完全にゾウだよ。そしてかなりでかい。造形は限りなく私の知っているゾウに近いのだけれど、地球のゾウより大きいと思う。高さが3階くらいあって、足がもう大樹。耳はレジャーシート。鼻は、もうなんだあれ、でかい。
「霊獣ゾウです」
「あっやっぱりゾウなんだ」
「力が強く賢い生き物ですから、リオをお守りくださるでしょう。人の手が届きにくいですし、遠くの人々からもお姿が見えます」
「え……いや待って、えー……」
どうぞ一度お乗りになってくださいと飼育係をしている人に案内されたのは、厩舎とくっついた小屋である。簡素な小屋の階段を登って、バルコニーから乗る感じのようだ。本当に3階だった。上から見ると、すでに鞍っぽいものが装着されていた。お神輿っぽい、屋根のついた鞍である。小屋のバルコニーから鞍へとはしごのようなものがかけられていた。
「いやいやいやいや……」
「当日は中央神殿の正面からそのまま乗り入れできます」
「いや……いやいや……そういう問題じゃないと思うなー……」
「リオ、怖いのですか?」
「私が怖がりなんじゃないよ、みんな普通に怖いと思うよこれは」
「乗るのはやめておきますか」
「うーん……やってみよう」
とりあえず、乗ってみたら意外といけるかなと思ってはしごを渡ってみた。
これね、意外と揺れるんだね。生き物のゆらめきというか、呼吸というか、なんか揺れてる。感じる。
ルルさんにしがみつきながらなんとか渡って屋根のある鞍の上へと入ってみると、外から見ていたよりも広く感じた。私とルルさんが中で座ってももう一人くらいは乗れそうだ。
上を向くと天井には鮮やかな絵が描かれている。絡まるような植物と、鳥とゾウの絵である。柱が立っている四方は薄布が掛けられていて、下もあまり見えないので落ちそうな恐怖は感じない。
「リオ?」
「なにルルさん」
「かなり脅えているように見えますが」
「そんなことないよ。ただ揺れが怖すぎて死にそうなだけ」
地面がかなり不規則に揺れるの、怖い。予想できない揺れというのはかなり怖いのだと生まれて初めて知った。あとなんか、このお神輿的な屋根ごとゾウの背中からずるっと落ちないかなとか思ってしまってもうそれが怖い。
ルルさんの腕をガッチリ掴んで離さないという気迫に圧されたのか、ゾウが歩き出したせいでさらに揺れて私が叫び出したからか、ルルさんは試乗を中止して私を無事地上へと戻してくれた。
「ゾウに乗っての参加は難しそうですね」
「すみません……見た目はちょっと可愛いとは思うんですけど」
「いえいえ、救世主様が謝られることはありません!!」
飼育係のおじさんが恐縮していたけれど、予定していた乗りものというかゾウがダメになったのは完全に私のせいなのでむしろ謝られてほしい。お互いにペコペコしてから、私はゾウ小屋から離れた。
まだ足がガクガクしているので、依然ルルさんにしがみついたままだ。私、意外に高所恐怖症なのかもしれないな。
「リオ、ご気分はいかがですか?」
「生まれたてのシカの気分」
「もしよろしければ、私の馬を撫でに行きませんか? 毛並みが心地良いですよ」
「ほんとに? 行く行く」
厩舎は一箇所に集まっているので、ルルさんの馬もこの近くにあるらしい。いつぞやのリベンジである。ちょっと元気が出たせいか、足もガクガクが随分マシになった。
馬なんだから、ゾウよりは全然小さいはずだ。そう思いながらも、私は一応ルルさんに質問しながら歩く。
「ルルさんルルさん、馬ってゾウみたいに大きくないよね?」
「ええ、このくらいですよ」
「大人しい?」
「特に穏やかな性格です」
「噛まない?」
「まったく」
「牙もない?」
「ありません」
よし。大丈夫そう。今日も後ろを付いてきているニャニのイメージを脳内から追い出しながら、私は異世界の馬に期待を寄せた。




