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グループで歌ってる曲はパートごとに声を変えてしまう7

 シーリースの人々が流した「うちの救世主サマをマキルカが取ったんだよ〜返してよ〜」という噂が、結構な勢いで広がっているらしい。

 エルフの暮らすこのマキルカでもそれは同じで、信じているかは別としてエルフの人々の中でもその噂を知っている人は多くなっているそうだ。対策はしているけれど、この国に逃げ込んでいる人間は特に噂を信じる人が多いとか。


「平穏の訪れを祝して、祭を開催することが決まりました。その場でリオが民の前に姿を現すことで、その噂を払拭すべきではないかという意見が出ています」

「なるほど、元気な姿を見せることで無理矢理ここにいるわけじゃないよアピールするっていうね」

「そうです」


 現状、引きこもったり寝込んだりしていたせいで私本人と会ったことのある人はとても限られている。いつも顔を合わせているのはルルさんとジュシスカさんとピスクさん、あとはお風呂のお世話をしてくれる人くらいで、他に顔を見たことがあるのも巫女の人たちや厨房の人たち、他には長老とかそういう感じの人々くらいである。

 他にも私がここに来た経緯を知っている人はいるだろうし、この中央神殿の人であれば噂は否定してくれるだろうけれど、疑り深い人であれば「独り占めするために誤魔化してる」と思うかもしれない。


「いいんじゃない? 誰かがあれこれ言うより私本人が否定した方がいいだろうし」

「しかし、危険はあります。人前に出れば、またリオを手中に収めんと動く者が出るかもしれません。拐かすだけではなく、害する者がでるやも」


 ルルさんは私が人前に出ることについては消極的なようだ。心配性でもあるので、あれこれと危険性について考えているのだろう。

 パンをどうにか盗み食おうとするヌーちゃんを宥めつつ、私は視線を上げた。


「ジュシスカさんはどう思う?」

「……私の意見で決めてほしくはありませんが、利点も多いかと。噂の抑止に繋がるでしょうし、リオ様が楽しくお過ごしの最中に襲撃が起きれば首謀者が悪者だと印象付けられます。大衆の中では徒党を組んで攻撃することも難しいでしょうし、警備も増やしやすい」

「利点、多いなー!」

「リオ、御身に危険が及ぶ可能性があるのですよ」


 ジュシスカさんの意見に私が頷いていると、ルルさんが嗜めるように話しかけた。


「何か起こってからでは遅いのです。鳥で運ばれてしまえば、お守りするのも難しい」

「弓兵を置けばよい。我々が側にいれば、そう危険はないだろう」

「ジュシスカ、黙ってろ」


 話に横槍を入れられたルルさんは、顔を顰めてぞんざいに言った。声もやや乱暴だったように聞こえる。付き合いが長いせいか、ジュシスカさんに対してはかなりフランクな態度のようだ。


「でもルルさん、今のままじゃ噂がもっと広まるかもしれないんでしょ? それはそれで困らない?」

「それはそうですが」

「どうせ外にも行ってみたいと思ってたし、あれこれ言われ続けるよりちゃんと否定しといたほうがいいんじゃないかな」


 神殿の外に遊びに出たとして、「あのひとシーリース人を見捨てて遊びまわって」とかヒソヒソされるよりも、私はここで庇護されている身分で何も物騒なことはないですよっていうのをわかっててもらった方が居心地は良さそうだ。

 周りの人が好意的な目で見てくれていたら、何か起こったときにも協力してくれるかもしれないし。

 そう言うと、ルルさんは渋々同意した。


「リオが協力的でいてくださるのであれば、神殿としても噂の対策はしやすいでしょうが」

「だよね。あと普通にお祭りとか楽しそうだから行ってみたい」

「リオ……」


 ルルさんが溜息を吐いてから、眉尻を下げて微笑んだ。ヌーちゃんを撫でていた私の手を取って、甲を額に当てる。


「わかりました。命を賭してお守りいたします」

「いや、命は賭けなくてもいいけども」

「リオが危険な真似をすれば、私もジュシスカたちもみな命を賭してお守りしますからね」

「ひえぇ……」


 ルルさんの笑顔の圧が強い。ジュシスカさんに助けを求めると、いつもの憂い顔のまま頷かれた。マジか。


「とりあえず、安全第一な感じでね、お祭りだし、ねっ」

「どうぞ祭りを存分に楽しまれますように」

「ちゃんと私も気をつけるから! 迂闊なこととかしないから!」


 変に禁止されるよりよっぽど気をつけようと思った。ルルさん、本当に人を動かすのが上手い人である。

 無事に過ごすことを第一に考えようと心に決めると、それに同意するようにヌーちゃんがキッと鳴いた。口の周りをジャムだらけにして、満足した顔で。






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