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グループで歌ってる曲はパートごとに声を変えてしまう5

 ルルさんが状況確認と報告に行くということになって、私はピスクさんとジュシスカさんと3人で取り残された。ピスクさんが廊下に立って見張りをしていて、私とジュシスカさんは扉を入った小さな部屋で待機中だ。


 ジュシスカさんは金の長髪を後ろでひとつに結び、ドアの近くに立っている。椅子に座らないかと訊くと、ジュシスカさんは「警戒中ですから……」と断った。なのでカウチには私とヌーちゃんが座り、その下から微妙にニャニが鼻先を覗かせているだけだ。ニャニは出てこようとするたびに私が騒ぐので大人しくしている。ほんの少しだけ鼻を出して存在を主張することだけはやめないらしい。


「あの、私奥神殿に隠れといた方がいいのかな? あそこ、私以外に入れる人いないし」

「フィアルルーが側に付いているのであれば、それがいいでしょうね。しかし奥神殿へと渡る橋には我々は入れませんから、今再びシーリース人が襲撃してくれば防ぐすべがありません」

「なんでルルさんだけ入ってもいいの? あと敬語じゃなくてもいいんですけども」

「敬語はお許しくださると助かります……フィアルルーは、神官としても騎士としても位を積んでいましたので。他にも高位の巫女や長老であれば渡ることを許されていますが、彼らでは武人に対抗することはできないでしょうから」


 ジュシスカさんによると、ルルさんは神殿騎士を兼ねているときに、「巡行神官」として各地を旅していたらしい。多くの神殿へ巡行した上に、騎士としての腕も高いので長老からの信頼も厚い人なのだそうだ。


「ルルさんってどれくらい強いの? ジュシスカさんは前からルルさんのことを知ってたの?」

「準騎士として神殿に仕え始めたのが同じ年ですから、随分長い付き合いになります。フィアルルーは強いですよ。手合わせをしても私は一度しか勝ったことがありませんね」

「えっそうなの? でもジュシスカさん、神殿騎士で一番強いって」


 ジュシスカさんよりも強いということは、ルルさんは神殿騎士の中で一番強い人間だったのでは。

 そう考えていると、ジュシスカさんがふーと長い溜息を吐いてから頷いた。


「ええ、そうですよ……。フィアルルーを倒す日を夢見て研鑽を積んできたのですが、先日あっさりと神殿騎士を降りましてね……繰り上げで最も強い騎士となっても虚しいものです」

「えっ……なんかごめんなさい……?」


 ルルさんは、今は神殿騎士ではなくて私のことを専門に守っている。ジュシスカさんはきちんと強くなって一番の地位を手に入れたかったようだけれど、それができなくなったことを不満に思っているようだ。じっとりと見られてつい謝ってしまった。


「まあ、仕方のないことです。神殿に仕えるよりも価値のあることを見つけられたのは良いことでしょうから」

「それって良いことなの? 神殿の偉い人から怒られたりするのでは?」

「なぜ?」

「えっと……なぜというかなんというか……」


 神殿というのは、神に仕える施設である。この世界は神様の影響が強い世界として存在していたので、信仰が生活に影響する力も強かったはずだ。そういう道を途中から外れて他のことに意識を向けるというのは、なんだか褒められたことではない気がする。

 そう話すとジュシスカさんは首を傾げた。肩にかかっていた長髪がさらりと流れる。


「 己の生きる道を見つけるということは、良いことだと思います。そうすることによって、神に対する心が減るわけでもないでしょうから」

「そう言われればそうかも」


 信心が薄れて他のことをするということもあるだろうけれど、何か他のことをやったからといって、必ずしも神様を信じなくなったというわけではないのだろう。特に私は神様とのコネがあるだけに、私の世話をしているというのは間接的に神様に仕えていることになるわけだしな。


「フィアルルーはああ見えて自分のしたいことをしたいだけやってきた人間ですから、奴の行動にリオ様があれこれと考える必要はありませんよ」

「そうなの?」

「そうです。闇をも切り裂くという宝剣を人間にあげたとあっさり言ったときもありましたし……全く自分勝手な……」


 ジュシスカさんは憂いを顔に帯びて溜息を吐いた。付き合いが長いだけあって、私が知らないルルさんについてもよく知っているようだ。


「そ、そうなんだ……」

「人当たりが良いので気を遣わせているように思うかもしれませんが、ああ見えて好き勝手にやっていますから。どうぞどんどん我儘を言って困らせてやってください」

「いやそれはさすがに」

「遠慮していると、あれこれと自分のいいように進められてしまいますよ」


 私から見るルルさんはあれこれと細やかな気配りをしてくれる優しい人だけれど、ジュシスカさんからはかなり自分本位な人に見えているらしい。救世主相手にルルさんが遠慮しているのか、ジュシスカさんに対しては遠慮がないのかわからないけれども。


「ともかく、フィアルルーの腕は確かです。どのような相手であれ、引けを取ることはないでしょう。どうぞリオ様はご心配なきように……」


 ジュシスカさんはどうやら私を励ましてくれているようだ。いきなり現れた大きな鳥とシーリース人を怖がったと思われているのかもしれない。

 怖くなかったとはいわないけれど、大体ルルさんが相手をしていただけなのであれこれ考える前に終わった感じがしている。でも、気遣いしてくれているのはありがたい。


「ジュシスカさん、ありがとう」

「礼を言われるようなことは何も。微力ながら私もリオ様のお力になりますから」

「ついでに様付けはやめない? かなり気まずいし」

「それはちょっと……」

「ずっと立ってるのも大変だし座ったらどうかな? いざという時のために力を温存したほうがいいかもだし」

「それほどヤワではありませんので」


 お力になると言ったそばからあれこれ拒否された。

 ジュシスカさんも憂いを帯びた美形だけれど、割と好き勝手やっているように感じる。神殿騎士ってこういうの多いのだろうか。要確認である。






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