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グループで歌ってる曲はパートごとに声を変えてしまう4

 ルルさんの草刈り活動により、奥神殿の出口からゆるく弧を描いて一本のフコの木に辿り着く道ができた。途中で水辺の方へと続く分かれ道ができているのは、水辺から上がろうとしても草のせいで全然上がれなかったニャニをルルさんが見兼ねたせいである。短い手足でのったりと陸を目指しては背の高い草に阻まれてズリズリと落ちていたニャニも、今は短く刈られた草の上でのんびりと体を乾かしていた。

 ヌーちゃんは刈られて束ねられた草の山でお昼寝中だ。


「いっぱいなってるねえ」

「重いですから、まず今日は持てるだけにしましょう」


 薄黄色の葉っぱの間にオレンジ色のラグビーボールっぽいものが鈴なりになった木は、その実の重さで枝垂れている。付け根の方がほんのりピンクがかったものはまだ若く、叩くと実の詰まったいい音が響くのがいい実らしい。

 私はルルさんに相談しながら実を決めて、ルルさんが小さいナイフで切り落としてくれた。


「ルルさん、これどう?」

「ええ、良さそうですね」

「こっちは……まだ若いな。これはなんか皮がシワシワ」

「少し古過ぎるようです。リオ、食べるのに向いていないものは、草と共に厩舎へあげるのはいかがですか?」

「いいねえ。手から直接食べさせてもいい?」

「私の馬でしたら大人しいので構いませんよ」

「ルルさんも馬飼ってるんだ! 5年間一緒に旅した馬?」

「違いますが、同じ血を引くものです」


 ずっしりした実は、帰りの螺旋階段を考えると私が持てるのは頑張って2つ。ルルさんは6つ持ってくれるというので、合計8つ収穫することにした。カゴか何かを持ってきたらもっと収穫できそうである。日持ちのする食べ物なので、まとめて渡した方が相手にも負担にならないだろう。


 ルルさんがマントを使って器用に実を包んで背負うのを眺めていると、ふと空が翳った。

 同時にルルさんがナイフをフコの幹に突き刺し、再び剣を抜く。


「リオ、下がって!」

「マキルカに奪われし救世主よ! 我らがシーリースへと戻りたまえ!!」


 鮮やかな緑色をした大きな鳥が2羽、翼を広げて円を描くように飛んでいる。ルルさんは私を左手で庇うようにしながら、背の高い草の中でしゃがむように私を促した。私が慌てて草の隙間でしゃがみこむと、ルルさんは空を睨んで力強く声を出す。


「ここをどこだか知っての無礼か!! 礼儀と誠心を持って去られよ!」

「利益を占有しているマルギルカ風情が偉そうに口を利くな!」


 奥神殿の周りを回るように鳥が傾くと、その体には革のベルトが巻かれていて、背中にそれぞれひとりずつ人間が乗っているのが見える。言葉からして、シーリースの人間のようだった。

 槍のようなものも見えたし、なんだか偉そうな物言いだ。立ち去ろうとしないその姿に、ルルさんが舌打ちをした。片方の鳥が大きな爪で襲うように急降下してきたその姿を、剣を持って迎える。


「聖地での殺生は望ましくないが、近寄ればつ!」


 けたたましい鳴き声をあげながら襲ってくる鳥の爪を、ルルさんの剣が弾く。硬い音が響いて鳥はまた上昇していった。ぱたぱたと雫が垂れる音と、ひらひら揺れる大きな羽根が落ちてくる。


「次は翼を狙う!!」

「神獣を殺すのか! 汚らわしいマルギルカめ!!」


 再びぐるぐると奥神殿の周りを飛んでいた2羽の鳥は、どこからかピィーと響いた笛のような音を合図に羽ばたいて高度を上げた。


「救世主よ!! 我らは自らの力でシーリースへ戻ることを願う! 賢明な判断を!」


 そう言い残して、鳥とその背中に乗ったシーリース人は飛んでいってしまった。しばらく空を睨みつけていたルルさんが、剣を払ってから鞘に納める。


「リオ、お待たせして申し訳ありません。大丈夫ですか?」


 そっと草を掻き分けて背を屈めたルルさんは、もういつも通りの顔だ。厳しい顔も、舌打ちも、怖い大声もない。


「ともかく今日は戻りましょう。どうぞ、お手を」


 私の肩に乗っていた葉っぱを摘んで落としてから、ルルさんは両手を私の前に差し出した。そのままじっと待っているルルさんをしばらく見つめてから、私は自分の手をそれに重ねた。ルルさんは微笑んで手を握り、ぐっと引っ張って立たせてくれる。


「フコがひとつ落ちて割れてしまいました。申し訳ありません」


 いつも通りというか、少しこっちの様子を窺っているようにも見える。今まで見たことのない面を見せたからか、私の反応が気になっているのかもしれない。そっと私を見つめる青い目をじっと見て、私は意識的に笑顔を作った。


「じゃあ、もうひとつ追加で取って」






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