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ノリノリで歌いたいのにドア窓が気になってしまう14

 ルルさんの言っていたことは本当で、夢の中にいたルルさんは本物のルルさんだった。神獣バクには夢を繋げる能力があるとかなんとか。


「え、怖……おちおち夢も見られないじゃないですか怖っ」

「今回は緊急事態だったので繋げてもらいましたが、本来は滅多に行わないことですよ。あまり繋げてしまうと、どちらもに危険が及ぶことでもありますから」

「いやそれも怖っ! どんな危険が?!」

「リオ、食事に集中してください」


 当然夢の中でルルさんが言っていたことも事実で、私は施療院へと来てから3日も眠りこけていたようだ。起きたとき、死ぬほど体がだるく、死ぬほどお腹が空いていた。この世界の万能栄養食であるフコの実をすり潰して水で緩めたものを食べさせてもらっていたらしい。ありがたいやら恥ずかしいやらでもう一回夢に戻りたかったけれどバクはそうでもないらしく、ルルさんに抱っこされている私に抱っこされて満足げにクルクル鳴いていた。


 そう、このルルさん、私が寝こけている間ほぼずっと私のことを抱っこしていたらしい。当然目覚めたときもしっかりとルルさんが抱っこしていたので、私が最初にお願いしたのは、「風呂に入らせてくれ」だった。髪が、髪が!


「夢の内容やバクとの相性によっては、急激に体調が変わる人もいるので」

「いやそういう問題じゃなくない……? 足痺れなかったの?」

「お体に障らぬよう、定期的に体勢を変えていましたから」

「いやそういう問題でもなくない……?」


 眠って3日目覚めないということは、この施療院では珍しいけれどままあることらしく、リルリスさんは目覚めた時も「よかったよかった〜」という反応だった。もう少し様子見ということで、私たちはまだ小部屋に泊まらせてもらっている。

 施療院ではバクは自由に歩き回ることを許されているようで、私たちのいるベッドに登りたがるバクや、定期的に見回りに来るバクなどがフリーダムに振舞っていた。ちなみにいつのまにかニャニも姿を現していたけれど、青いワニを視界に入れながらだと回復するものも回復しないので部屋から出てもらった。ドアの外にいるらしい。


 リルリスさんは大ばば様の手伝いや他の患者さんのお世話の合間に、テキパキと回復食だの筋力の回復だのと親切にしてくれる。しかし、それを大体実行させてくれるのがルルさんで私はとてもいたたまれない。


「もう食べたくありませんか? フコのスープは?」

「いや、あのさルルさん、私別に自分で食べるから」


 昼から半日以上寝て、さらに3日も寝こけたとあればそこそこ筋力は衰えている。しかし、木製のスプーンを持てないほどではない。だというのにルルさんは私のスプーンを手放す気配がない。ルルさんの手からスプーンを奪おうとしてみるけれど、両手がかりでも騎士であるルルさんを抑えられるほどには筋力が回復していなかったらしい。ルルさんは涼しい顔で「溢れますから、お遊びはあとにしましょう」とか言っている。

 この男には私が赤ちゃんにでも見えてるんでちゅか? ああん?


「あのさ、この際だから言うけども、ルルさんって何でそんなに私の世話をしてるの?」

「なぜ、と言いますと」

「私が救世主で、この世界のことも知らなくて、あとあの、シーリースの人たちが危ないことする可能性があるっというのを差っ引いてもさ、ちょっと世話しすぎじゃないかと思うんだよね。一応私社会人だったんで、一通りの暮らしはひとりでこなせるし、料理なんかひとりで作ってひとりで食べてたんだから取り分けとかいらないし、特に手とか取ってもらわなくてもコケたりしないから。昔から全然手のかからない子として定評があったから」


 私が貴重な存在だというのはわかる。そこそこ良くなってきたとはいえ、神様の力でこの世界を整えるためにはまだまだ私は必要だ。だから箱入りで養ってもらえる理由はわかるし、間違っても暗殺とか誘拐とかされないように身辺警護が付くのもわかる。


 でも、特に何の段差もない平たい廊下をいちいち手を取って歩いたり、大皿からバランスよくおかずを取り分けて食べやすいように薬味をかけてくれるとかは、どう考えてもサービス対象外である。

 何より、神殿騎士という立場を降りて私のことを守るというのは、私としてはかなり有難いけれど、ルルさんの立場だと特にメリットのない行為だ。


 ここが乙女ゲーの世界で私が超絶美少女様とかだったら、ルルさんも一目惚れしてとか納得できる動機付けがあったかもしれないけれど、悲しいかなその可能性はない。あとそういう熱っぽい視線とかも貰ったことない。そもそもファーストコンタクトが、よれたスーツに1ヶ月の平均睡眠時間2時間という顔色最悪な状態だったので、それで惚れてると逆に怖い。


 こういうスキンシップ過剰なお国柄なのかな、とも思ったけど、何となくそんな感じでもなさそうである。厨房の料理長は普通にシャイっぽそうだったし、巫女さんたちも誰かにエスコートされていたりしなかった。


「私がして差し上げたいから、という理由では足りませんか?」

「そう思ってもらうほどの理由がないというか、何でそう思ったのかなって」


 ルルさんはしばらく眉尻を下げた微笑み顔のまま私と見つめあって、それからフコのスープをスプーンで掬って私の口元に持ってきた。閉じて意思表示をすると、しばらくして諦めたようにスプーンをスープの中へと戻す。そして大きく息を吐いた。


「理由はありますよ」

「あるの? なんで? 神殿から家族を人質に取られてるとか?」

「まさか」

「人に仕えることに対して異常な興奮を覚えるタイプとか?」

「リオ」

「ごめんなさい」


 ルルさん、たまに笑顔が怖い。私が間髪入れずに謝ると、ルルさんは怖くない笑顔でくすっと笑った。私の腕の中でバクがキッと鳴く。


「それほど理由が気になるのであれば、お教えしてもかまいませんよ」

「気になる気になる。教えて」

「では、このスープを全て召し上がってから」


 チョコレート味のプロテイン風味のスープ、器一杯分。

 すでにお腹はそこそこ満たされている。


「……」


 自分で飲むと主張すると、ルルさんはようやくスプーンを渡してくれた。






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