ノリノリで歌いたいのにドア窓が気になってしまう9
この世界を創った神様は、良かれと思って決まりを作った。でももしかしたら、昔のシーリースの人たちだって、自分たちの暮らしをより良くするために良いことだと思って領地を広げたかもしれない。災いの原因となったことも、それが良いことだと思ったからやったのかもしれない。ゆっくり死んでいくような土地で、子供のために誰かの食べ物を奪った人も、私がここに来るまでにどれくらいいたのだろうか。
この状況をどうにかしようとして、シーリースの人は禁じられた術で私を喚んだ。エルフの人たちも、よかれと思って私をシーリースから遠ざけて助けた。神殿で騒ぎを起こした人間は、国を助けて欲しくて決まりを破った。
「え、せつなっ!! 誰も悪くないじゃん? みんな、誰かを苦しめたいからとかそういうことで動いてないじゃん?」
「なんかこう、うまく噛み合わんことってあるんじゃよ」
「そんな悟ったようなこと言わないでどうにかならないんですか神様。お願いします神様!!」
「その言葉弱いんじゃよなぁ〜」
ホッケをほじくりながら、神様は白い眉をハの字にした。
「ここじゃと使える力も限られとるし、この世界の理を動かすことはかなり負荷がかかるんで一気に解決できるようなことはできんのじゃが」
「じゃが?」
「まあ、引き続き楽しく歌ってわしの力が行き届きやすくしといてくれるのがベストじゃないかのう。ほれ、食うもんに困らなくなったら争いだって減るし。あとわしの力が増えたら出来ることも増えると思うし」
「なるほど。つまり特にやれることがないと」
「今のところじゃよ! 澱みが薄くなればそのうち良い感じになるかもしれんし。ほらここの人間だって頑張ってわしの介入なしで良い感じに持っていけるようになるかもしれんし」
あれこれ言っているけれど、やっぱり今は何もできないらしい。私がどうにかできる問題でもないし、やっぱり大人しくカラオケ三昧するのが一番良いようだ。いや、私としては歌いまくればいいっていう現状は願ったり叶ったりなんでいいんだけども。
「あ、そうじゃ」
「え、何ですか全てを一気に解決する魔法の手段とか思い付いたんですか」
「も〜人間そうやってすぐ結果求める〜わしが創ったとはいえせっかちじゃのう〜ってそうじゃなくてな」
神様がくねくねしながらプリプリした。サンタさんがくねくねプリプリしている姿が可愛いかどうかは意見が分かれるところだろう。私は可愛いと思った。ぶっちゃけ最近はニャニみたいなやつ以外ならなんでも可愛い。
優しい目で見守っていると、神様が私のことをびしっと指差した。人を指差しちゃいけませんルールは神様にも適応されるのだろうか。
「ここまで黙って見とったけどー、ぶっちゃけお嬢さん頑張りすぎじゃ!」
「えっ」
「歌い過ぎじゃよ。喉潰れるんじゃないかとわしかなり心配しとったんじゃよ」
「まじですか」
「あんなに歌わんでもちゃんと聞こえとるし、力も伝わっとるから! 長ければいいってもんじゃないんじゃよ」
まさかのダメ出しである。神様からダメ出しされた人、私の他にいる?
「えー、まじかー、えぇー、ダメなのかー……」
「いやそんな悲しい顔せんでも……ダメというかな、ほら、義務感とかでやって欲しくないんじゃよ。やらなきゃとかそういう使命感で歌われるとほら、なんか可哀想になってくるというか、心置きなく聴きにくいというかのう」
「フツーに楽しく歌ってたと思うんですけど」
「もちろん大体はそう聴こえとったよ? でも現に今は、もっと頑張って歌わなきゃとか思っとるんじゃないかのう」
「あー、それは確かに。てか普通に聴いてるじゃないですかやめて」
「あっすまん。聴かれるのイヤなんじゃったな。聴いてない聴いてない。こう、耳とかそういう感じで聴いてるんじゃないから」
ダメ出しされた上に気遣われた。そんな人は他にはいないだろうな。
「あのーほら、まあとにかく、楽しく歌える範囲で! 歌いたいときに歌う! そんな感じでやってほしいんじゃよ!」
「なるほど」
「ちょっと疲れとるようじゃし、無理せんでね。お嬢さん、ブラック過ぎる会社勤めで麻痺しとるとこあるから。色々と。わし心配」
「あ……なんかすいません……」
「メンタルとかな、一度崩すと立て直すの大変じゃから。自分大事にな。とにかく一度休むことじゃよ」
「あ、はい」
神様が私の頭に手を置いた。ぽんぽんと優しく撫でられると、なんだかふわふわしたように感じる。
「よく寝て栄養摂るんじゃぞい。好き嫌いせず食べてな」
「はい」
「いけると思ってても体が悲鳴あげてることもあるんじゃぞ!」
「はい」
神様は最終的に一人暮らしする子供を心配する母親みたいになっていた。心配心配というので、無理はしないと約束してなんとか帰ってもらう。
ルルさんたちだけでなく、神様にまで心配されてしまうとは。流石に反省した。




