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真夏の夜の夢17

「ねえねえルイドーくん、ちょっとだけ見てもいい?」

「いいけど騒ぐなよ」

「ルイドー。子バクに餌をあげても?」

「まだ乳離れしてねーのに食うわけねーだろアホッ! ジュシスカてめえは離れとけ!」


 ルイドーくんの華麗なるリーダーシップにより、私たちは神殿へ帰ってきた。正確にいうと、今いるのは神殿に併設されている施療院だ。

 バクは神出鬼没で珍しい神獣だといわれているけれど、この施療院にはなぜかいっぱい住んでいる。ヌーちゃんの号令でワラワラ出てきて、ちっちゃいお仲間に沸き立っていたバクたちもほとんどがここの住人だと思われた。さらにこんなにバクが多いなら子バクの扱いにも慣れているだろうということで、ルイドーくんが親子バクのためにも施療院へ行くと決めたのである。さすがの決断力だ。


 怪しい人たちの怪しいお店から助け出された親子バクは、タオルを掛けて暗くしたカゴの中ですっかりくつろいでいる。子バクたちは親バクのお腹の上でくーくー寝たり、お腹が空いてくんくん動いたりしていてとてもかわいい。親バクは親バクでリラックスしてお昼寝モードだ。道中でルルさんから貰ったおやつや水をガツガツ食べていたけれど、今でも好物を抱きしめてかじりつつウトウトしている。いかにも食い意地の張ったバクらしい様子すら微笑ましい。

 ちなみにこの親バクの好物はフコだった。私はこれから毎日歌ってフコを量産すると決めた。


「こんなにかわいいファミリーなのに、閉じ込めてただなんて冷血過ぎるよね……」

「全くです……剣の露にしてやればよかった……」

「いやジュシスカさん流石にそこまではアレだけどさ」


 バクたちとおしくらまんじゅうしつつ、そっと持ち上げたタオルの隙間からバクを覗くたびに義憤に駆られる。

 狭いカゴに入れられ、床下に押し込められていたという見た目通り、この親子バクはあのギャングっぽい人たちによって捕獲されていたようだ。


 普通、バクは無理矢理捕まえることはできない。神獣パワーでどこでも出入りできるからだ。どんなに頑丈な檻に入れても、お腹が空いたり気が向かないならどこかに行ってしまう。

 けれど、親バクはそれができなかった。


「うーん、神獣の力はなくなったりするものじゃないからね〜、だからこのおかあさんは移動できると思うんだけど、赤ちゃんが小さいからね〜よしよし、いい子ね〜」


 生まれて間もない子バクたちが逃げる能力がなかったこともあって、親バクは大人しく捕まっていたのではないか。そう言ったのは施療院で働くナースのリルリスさんだ。私たちにもバクにも平等に振りまかれる優しさはまさに聖母って感じである。


 その聖母が、ちっちゃくて潰しちゃいそうな子バクをヒョイヒョイと持ち上げて様子を見る。手慣れた様子で口の中とかを見ると、「元気そうねえ」とまた親バクのお腹の上に戻していた。あの場所でどれくらい捕まっていたのかわからないので親バクの様子も診てもらったけれど、リルリスさんの慣れた手つきに親バクは爆睡したままだった。


「バクはね〜。ほとんど赤ちゃん産むことないのよ〜。だから見られてよかったわねえ。ヌーちゃんも、助けてあげたなんてえらいえらい」


 サクサクとクッキーを食べているバクを、リルリスさんが撫でる。やはり長年施療院で勤めているリルリスさんにはバクの見分けが付いているようだ。


「リオさまなら助けてくれると思ったのねえ。助けてくれてありがとう」

「いえ……」


 ぶっちゃけ、私は何もしていない。夢をルルさんに話しただけだ。

 私の話から実在する路地だと気付いたのはルルさんだし、そこまで運んでくれたのはパステルだし、ギャングを眠らせたのはヌーちゃんたちだし、護衛したのはジュシスカさんとルイドーくんだし、親子バクを保護したのもルイドーくんだ。


「あのさ、ヌーちゃん、私に助けを求めたのは間違ってたんじゃない?」


 少し離れて見守っていたルルさんに薄々感じていたことをそっと呟くと、ルルさんは瞬いて首を傾げた。


「そうでもありませんよ」

「でも私何もしてないんだけど」

「仮にヌーちゃんが私の夢に現れていても、ただの夢ではないかとしばらく放置して手遅れになったかもしれません。夢に重きを置いていないルイドーなら気にせずに行くことすらしなかったかもしれませんし、ジュシスカの夢に出たなら単身乗り込んでいって厄介なことになっていたはず」


 そもそもジュシスカは動物に嫌われていますし、とルルさんが言う。ジュシスカさんがこっちを見てそっと睨んでいたけれど、私はちょっと納得してしまった。ジュシスカさんは子供や動物に対する愛はあるけれど、あり過ぎてむしろ相手から嫌がられがちなのだ。お世話とかを際限なくしてしまうらしい。


「この人数で行ったのは、リオが中心にいたからですよ。ヌーちゃんはひとを見る目があります」

「そうかなあ」


 しっかり装備の大所帯は、騎士としてはほとんど活躍することがなかったけれど、眠ったギャングを運んだり棚を移動させたり、帰りは子バクから離れたがらないバクたちを抱えたりとなんだかんだ人手は必要だった。

 ルルさん本人は放置したかもとか言っていたけれど、ヌーちゃんが夢に出てきたら多分ルルさんは様子を見に行ったと思う。でも、そのときはおそらくひとりで行ったに違いない。私が危ない目に遭わないように奥神殿とかに預けて。

 剣に自信のあるメンバーだからひとりで行っても危険ではなかったかもしれないけど、大変だったはずだ。だから4人で行ってちょうどよかったのかもしれない。


 ヌーちゃん、すごいなあ。

 そう思いながらヌーちゃんを撫でようと思ったけれど、クッキーを食べているバクが4匹に増えていたのでどれがヌーちゃんかはわからなかった。


「……ポテチ!」


 キッ!!

 魔法の言葉を唱えると、ヌーちゃんがピョンと私の方に飛びついてきた。


「ヌーちゃん、教えてくれてありがとうねーヌーちゃんは子バクの恩人だね〜」


 フンフンフンフンと鼻息の荒いヌーちゃんを褒めながら撫でる。

 ちっちゃい命を救ったヌーちゃんは、ポテチがないと知るとキッと鳴いてからクッキーの方へと戻っていった。






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― 新着の感想 ―
[良い点] 「……ポテチ!」に反応するのはヌーちゃんだけなのか! 最後の「キッ!」は無いのなら言うなって事なの?ヌーちゃんw
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