表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
25/254

ノリノリで歌いたいのにドア窓が気になってしまう8

「会社勤めしてた頃の私も、今キューセーシュサマやってる私も、中身は特に変わってないのに、周囲の反応も言われることも全然違って不思議ですね」

「そういうもんじゃよ。人の態度なんて環境と行動によって変わるもんじゃ」


 女性アーティスト縛りで2時間ほど喉を温め、それから神様を呼ぶとサンタライクな見た目の神様は普通に来た。ほんと普通に。「神様〜」「はいよ〜」って。隣の部屋でヒトカラでもしてたのってノリで。

 私が知らないだけでもしかして神様って地球でも気軽に現れてたのかと思ったけど、流石にすぐ出てくることはあんまりないらしい。ここでは地球の神様に直接呼びかけられるのが私しかいないのでよく聞こえるし、ぼっちな私を気にかけてくれているようだ。あなたが神か。


 そんな感じで出てきた神様は、私の最強カラオケルームをちょっと拡張し、居酒屋みたいな雰囲気の一角を創り出した。ちょっと汚れたテーブル、インテリア代わりの赤い提灯、グラビアアイドルが水着でビールを持っている古いポスター。まだ未成年なので数えるほどしか行ったことないけど、これは間違いなく日本の居酒屋。値段が安いタイプの居酒屋。


 そこで神様がジョッキ片手におもむろに焼いたホッケを食べ始めたので、私もご相伴にあずかることになったのだった。なんでも頼んでいいと言われたので明太子の入っただし巻き卵を希望する。湯気の立ったアツアツのだし巻きは外側がちょっと火の通った明太子を包み込んでお互いを活かした美味しさで無限に食べれそうだった。


 神様が分けてくれたホッケをつつきながらちょっと世間話をする。地球はいつも通り、この世界を創った神様も特に変わりなし。神様は最近居酒屋にハマってるらしい。尿酸値やコレステロールに気をつけてほしい。


 私はどうなのと訊かれて割といい暮らしだと言うと、白い髭を揺らしながらうんうん頷いていた。神様が聞き上手なのか、居酒屋の雰囲気がそうさせるのか、気がつくと私は細々したことを色々と神様に話していた。


 ここのカラオケルームがチート過ぎて毎日が楽しいこと、ものすごいイケメンがお世話係をしてくれていて役得だけどたまに心臓に悪いこと、ワニに激似の生き物に何故か接触を試みられていること、ごはんも美味しいこと、なんだかきな臭い感じのことも起きてるらしいこと。


「シーリースって国、神様わかります? そこがなんか土地が悪くなってて、他よりも良くなってないとかで」

「おぉ……うむ、わかった。人間の国じゃな。こりゃわしの力も届きにくいじゃろうなぁ」


 小さいキラキラおめめをパチパチさせて、神様はそこにシーリースが見えてるかのように頷いた。


「色々と良くないことをしたりしたっぽいんですけど、神様の力でどうにかできませんか?」

「今は難しいのう」

「神様なのに……」

「神様だって色々あるんじゃよォ」


 神様がジョッキを飲み干してどんとテーブルに置くと、おかわりのビールが勝手にジョッキの底から湧き出てきた。飲兵衛垂涎のジョッキだ。


「ここを創った神が、悪い行いには罰が下るように世界を捏ねたんじゃろうなあ。加護があんまり効かんみたい」

「そんな殺生な。シーリースでも、直接は関係ないのに困っている人もいると思うんですけど」

「そこがなー……罪のない人ならシーリースから出れば問題なく生きていけると思うんじゃが、だからといって大移動して他の地域に超迷惑とかかけちゃうとそれが罪になって、多分アウトになっちゃうんじゃろうなぁ」

「えぇ……」

「大勢に危害を加えるとか、大勢じゃなくてもひどく苦しめるとかなー、そういうのがあかんみたいじゃよ」


 悪いことをすると神の加護をだんだん受けられなくなり、ご存知の通りな災いなどでも護られないので苦しむことになるのだとか。犯罪者を見逃さないという点では良いシステムかもしれない。


「でも、本人が悪気があってやったわけじゃないことってあるんじゃないですか? えーっとホラ、いっぱい山菜取れたからみんなに食べてほしくてご近所に配ったら、実は毒草だったとか」

「そうなんじゃよなー。その場合に限っていうとここでもセーフみたいじゃけど、善悪決まってるとそういうのに対応しきれんから後々手を加えまくることになるんじゃよ。で、色々と無理が出てくるんじゃ。絵も細かいとこ直しまくってると、気付いたら全体のバランスがおかしくなってたりするじゃろ」

「なんてわかりやすい例え」

「本当は善悪なんてないんじゃ。何をどう見るかで変わるだけじゃよ。でもあやつはなんじゃろうなあ、理想を求めてしまったんかもしれんなあ」


 この世界を創った神様は、とても優しい神様だったらしい。悲しむ生き物を見たくないがゆえに、正しく生きる人々のための世界を作ろうとしたのかもしれないと神様はひとりごとのように言った。


 真面目に生きている人が報われる世界というのはとても良いと思う。でも、人が大勢いたら、そう生きられない人というのもいるのではないだろうか。そういう人にとっては、とてもつらい世界になるのかもしれない。

 私も、胸を張ってそういう世界に住みたいとは言い切れない。信号無視とか、社長のおやつに賞味期限切れとか出すとかは割とやったので。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ