真夏の夜の夢14
根にもつタイプでも、切り替えは早いらしい。
私やルルさん、ジュシスカさん、ルイドーくんに手分けして回収されたバクたちは、ジタバタと短い手足を動かしてお店の方へ行きたがった。私が抱っこしていたヌーちゃんがスルッと器用に脱出すると、ててててと急ぎ足でお店の中に入っていく。ついでにニャニがズルズルとその後を追っていった。ワニが家宅侵入しても悲鳴が起きないところを見ると、中は無人のようだ。
「ルルさんどうしよう」
「入りましょう。彼らもここに寝かせておくわけにはいきませんし」
「道塞いじゃってるもんね」
「リオは待っていてください」
ルルさんたちは剣をおさめて倒れている人たちを運び始めた。それぞれがひとりで作業していて、脇から持ち上げて引っ張る形で運んでいるので足はズルズル引きずっているけれど、バクに眠らされた人たちはそんな状態でも目を覚まさなかった。中には夢を見ているのか、幸せそうに笑っている人もいる。かあちゃん……と寝言を言っているので、ギャング風な人たちでもかあちゃんが好きなんだな、となんだかちょっとほっこりした。
「リオ、中に」
「うん」
全員が運び込まれたので、私もお店の中に入る。店内は、テーブルが端に寄せられ、眠っている人たちが床に並んでいるのを除くと、夢の中で見た通りだった。
大きな棚があり、そしてその端をヌーちゃんがカリカリしている。いやヌーちゃんだけではない。さっきヌーちゃんのひと鳴きで集まったバクたちが、みんな揃ってカリカリしていた。
「ルルさん、この棚。これを押したら、床下に何かあったんだよ」
「これは……」
ルルさんがバクを踏まないように棚に近付いて、しばらくあちこちを観察した。近付いていったジュシスカさんとも何やら頷き合っている。ルイドーくんは床や机に溜まったホコリを見て「汚ねえ」と顔を顰めていた。神殿育ちで掃除を叩き込まれている身としては、なかなか過酷な環境に見えるようだ。
「ルルさん、何かわかった?」
「ええ。この棚は頻繁に動かされているようです。ほらここ」
「あ、ほんとだ」
ルルさんが示した床には、埃が薄いところがあった。ちょうど棚をスライドさせたような跡だ。棚の側面の一部に付いている汚れも、そこを触って棚を動かす証拠らしい。さすがルルさん、刑事にもなれそう。
「動かしてみます。危険かもしれないので、リオは下がっていてください」
「ルルさんもジュシスカさんも気を付けてね」
頻繁に動かしていた形跡はあるけれど、棚はけっこう重そうだ。夢では私ひとりでも押せたけれど、ルルさんたちが触っている感じを見ると現実じゃ私が5人いても無理そうな感じがする。
ルルさんから目で合図を受けたルイドーくんが、私にクイッと顎で後ろを示す。
「おい、ここ座っとけ」
「え、私だけ座るわけにも」
「バカお前のためじゃねーんだよ早く座れ」
口が悪いながらも、ルイドーくんはイスにハンカチを敷いてくれた。育ちがいい。
座れと言ったのは本当に私のためじゃなかったようで、ルイドーくんは棚をカリカリしているバクたちを捕まえては座った私の膝に乗せていった。尊敬するルルさんが邪魔されず行動できるようにしたかったらしい。
バクは普通の動物に比べたら軽い方だけれど、それでも集まると結構重い。そしてかさばる。棚のところに戻りたそうなバクたちを抱えていると、最後の1匹を持ってきたルイドーくんが首を捻った。
「こいつ、小神殿にいるヤツかもな」
「ルイドーくんが前に暮らしてたとこの? そんなとこから集まってきたんだ。ていうかルイドーくん、バクの見分けつくんだすごい」
私は毎日顔を合わせているヌーちゃんがどれなのかも怪しくなってきているというのに。
ちょっと尊敬の目で見ていると、ルイドーくんがテーブルの上にあった陶器のお皿を手に取る。
「ほら」
バクの上にかざすと、最後の1匹だけがそれを欲しがるように前脚を伸ばした。あーんと口を開けている。ルイドーくんが近付けると、そのままかぶりついてガリガリとお皿を食べ始めた。
「な。悪食のバクでも皿食うようなのはそうそういねえ」
「ほんとにお皿食べてる……」
「装飾品とかも食うから、もし持ってたら気を付けろよ」
ブローチを家に置いてきてよかった。
小神殿のバクは食器を食べる、というのは話には聞いていたけれど、本当だったようだ。美味しそうにお皿をかじるバクを眺めていると、イスの下からヌッと青い鼻先が出てくる。
「……ニャニのおやつは持ってないよ」
お皿はあるけど、と言うと、ニャニはスッと戻っていった。
食の好みが普通なところは、ニャニのいいところかもしれない。




