真夏の夜の夢12
「ヌーちゃん!」
首根っこを掴むような持ち方は、ヌーちゃんにとってあまり心地のいい状態ではないようだ。地面に降りようとするかのように短い手足をジタバタと動かしている。
私が思わず前のめりになると、ルルさんが制しながら帽子の人を睨んだ。
「神獣に危害を加えることは禁じられている。そのバクを放せ」
「ウチの店に入った動物をつまみ出して何が悪い。何度見ても奇妙な獣だなこれは。こんなもんを有り難がってる奴らの気が知れん」
「じゃあ返してください!」
「安心しろ。これには興味はない」
「あっ」
帽子の人が、掴んでいるヌーちゃんをこちらに放り投げた。唖然としていると、飛んできたヌーちゃんをジュシスカさんがキャッチする。
「ななな何するんですか動物虐待! 神様にちくるぞ!」
「ギャーギャー騒ぐな」
「可哀想に……こんなにかわいい神獣バクを手荒に扱うとは。余程捕らえられたいようですね……」
「勝手に乗り込んできた不届き者はどっちだ? うちの連中はあちこちにいる。たった3人で勝てると思うのか?」
「どれだけ弱い者が集まろうが関係ない……」
絶対ちくってやる……。
ヌーちゃんを投げた男性に怒っているのは私だけではない。動物を(一方的に)愛しているジュシスカさんも、乱暴な扱いを見て静かにキレているようだ。いつもより低く怒ったような声で帽子の人を挑発している。
そして挑発しながら後ろ手にヌーちゃんをこっちに渡してきたけれど、ヌーちゃんはジュシスカさんの指にしっかり噛み付いてぷらんと揺れていた。
ヌーちゃん、助けてくれた相手を噛んではいけない。
私が慌てて両手を差し出すと、黒いふわふわな体が乗ってきた。無事かどうか確かめながら抱きしめようとすると、ヌーちゃんは身を捩ってぽてっと石畳に着地する。
「ヌーちゃん、危ないよ」
くりっとした目で私を振り返ったヌーちゃんは「キッ」と鳴くと、石畳を歩いてそのまま前に歩いていってしまう。お店の中に戻ろうとしているようだ。ジュシスカさんがそれを止めると、ヌーちゃんはまたジュシスカさんの手をガブッとやっていた。噛んではいけないというのに。ガジガジと噛んで手のひらを蹴ったヌーちゃんは、また石畳に着地すると歩き始めた。
「ヌーちゃん!」
私が呼び止めても、ヌーちゃんは止まってはくれない。
「おい、バクを掴んで止めるのは手荒な真似じゃなかったのか?」
「その店の中に何があるんですか?」
「お前らに教える義理はない。やかましく騒ぐならこのバクも売り払うぞ」
帽子の人が苛立たしそうにそう言って、それから近付いてきたヌーちゃんを軽く蹴るふりをした。ルルさんが剣を握りながら「リオ、下がっていてください」と囁く。ルルさんの堪忍袋も限界なようだ。
しかし、動いたのは神殿騎士チームではなかった。




