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真夏の夜の夢10

 私たちを取り囲んでいる人たちは、全員帽子をかぶっていたり、布を巻いたりして顔を隠している。着ているものは古く汚れているけれど体格はわりとムキムキ、そして手には武器。

 完全にギャングである。


 ここでドラマみたいにいきなりチャンバラが始まったらどうしよう。私は素早くニャニを被れるだろうか。ていうかここ石畳汚い。そんな石畳におなかべったりしているニャニを防具に使うのはイヤだ。後のお洗濯が大変だ。

 私がチラチラとニャニを見ていると、ニャニは私の足をたむたむと踏んだ。ニタァ……と笑うように口を開けているけれど、怖い。そのビジュアルでギャングたちを追い払ってほしい。


 青ワニの微笑みは見なかったことにして、私は前を向いた。正面にいる4人のうち、布を頭に巻いている右から2番目の人が、隣、つまり左から2番目にいる帽子の人に何か耳打ちをする。すると帽子の人が体を横にずらしてこちらを見た。


「あれが救世主か。随分つまらない見た目だな」


 う、うるせー。救世主にビジュアル審査とかないし。ていうか普通の審査もないし。

 私が口に出して反論しなかったのは、ルルさんの腕にしがみついていたからである。



 私がルルさんと結婚したとき、一緒にお酒を飲んで儀式をした。

 その儀式には寿命が均等化されるというわりとすごい効果があるのだけれど、そのほかにも大きな効果がある。相手のことがなんとなくわかるようになるのだ。

 これが気配というのか気というのかよくわからないけれど、ルルさんがどっちの方向にいるかとか、どういう気持ちでいるかとかがなんとなく伝わるようになる。魂を預けあっていることが関係しているようだ。


 相手の気持ちがわかるというのは、便利なようでいて不便なことも多い。何より常時相手の感情が伝わるとなんかやりにくい。なので、私とルルさんは話し合って普段はお互い意識して相手の感情を受け取らないようにしているのだ。


 それで普段は今までと同じように暮らしているけれど、感情が昂るとどうしてもそれを察知してしまいやすい。

 そして、普段はどっしり安定しているルルさんは私関係のことになるとすぐに感情が乱れる。

 特にこういう、私が侮辱されたりするときは。


「まーまーまールルさん、どうどう」


 見た目は何も反応していないルルさんだけれど、私にはビシバシと伝わってくる。

 肌で感じる。「殺すぞボケ」といった感じの苛立ちが。

 なので私は自分が侮辱されるととてもヒヤヒヤするのだ。大事な旦那様が剣を赤く染めそうな気がして。

 困る。囚人服を着たルルさんに差し入れを持っていく日々とかとても困る。


「あのー! おっしゃる通り元救世主なんですけどもー!」


 ルルさんが剣を抜く前に、そしてジュシスカさんやルイドーくんが動く前に、私は先んじて声を張り上げた。ちょっと裏返ったけど気にしてはいけない。

 私がしっかり声を上げると、取り囲んでいるギャング風の人たちは一斉に私を見た。視線が居心地悪い。あと今ルイドーくんが後ろで黙ってろバカって小声で言った。あとで膝カックンしよう。


「すみませーん、今あの、夢に出てきた景色が本当に存在するのかっていう企画でお邪魔させていただいてましてー」

「救世主サマがこのような掃き溜めになんの御用かと思えば……それはそれはご大層な」


 なんかローカル局の深夜番組みたいなコンセプト紹介にちょっと上から嗤う感じで返事をしてくれたのは、さっき失礼なことを言った帽子の人だった。この集団のリーダーなのかもしれない。

 ルルさんがリオと制するように小声で言うけれど、掴んでいる腕をポンポン叩いて大丈夫だとアピールしておいた。


「ここは観光地じゃないんでね。神殿騎士にデカい顔されても迷惑だ」

「あっすいませんほんとすいません。あのですねー、ヌーちゃん……神獣バクがこの辺りっていうかあそこのお店の中にいるかもしれないので、あの、もしよろしければ回収だけさせていただきたいなーって」

「神獣バクねえ」


 ニヤニヤしているのは、友好的だからじゃなさそうだ。

 穏便に、とは思っているけれど、そう思えるのは今の鉄壁フォーメーションに守られているからであって、私ひとりでここの人たちと会ったら遮二無二逃げていた自信がある。


「この辺では見ねえな。それに、たとえ神殿であれ神獣を独占することは禁じられているはずだ。バクがどこにいようが自由にさせるのが筋じゃねえのか? まさか神殿騎士やら救世主やらを振りかざしてウチの店に無断で入ろうと思ってるわけじゃねえだろうな」

「お、おっしゃる通りなんですけども」


 勝手にわいわいやってきて、いきなり「床下見せてください。根拠は夢」とか不審者すぎる。ガラが悪くても、武器を持って私たちを取り囲んでいても、帽子の人の言っていることは正しかった。

 どうしよう。

 夫婦じゃなくとも伝わるほどに「そろそろぶちのめしたい」という感情が滲んでいるルルさんを宥めつつ、私は困った。ジュシスカさんやルイドーくんだけでなく、ニャニでさえも私の足をたむたむしながらシャ……? とヤル気満々のようだ。

 平和的解決がほしい。






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― 新着の感想 ―
[良い点] これはルルさんやルイドー君やニャニが正しい案件かな? ルルさん、ルイドー君、ニャニ、やってお仕舞いなさい! …でも暴れん○将軍のように、峰打ちでね!
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