真夏の夜の夢5
「リオ、街の南側の外れに行ったことはありますか?」
「どのへんかわかんないけどないと思うよ」
「本当に?」
「ルルさんが連れていってくれたところ以外は行ってないよ」
中央神殿があるこの街は、なんか首都とかそういう感じなようだ。だから街も結構大きい。流石に東京と比べたら建物も低いし小さいし人も少ないけど、それでも私は迷子になるくらいの広さは十分にある。
私が迷子になったことがないのは、近所以外のお出かけはルルさんとほとんど一緒に行っているし、ルルさんがいないときはフィデジアさんとかジュシスカさんとかピスクさんとかルイドーくんとか三姉妹と一緒だからだ。
「一人で出歩かないようにってルルさんが言ってるじゃん」
「そうですね」
幼稚園児と同じレベルに扱われているように聞こえるけれど、これは私が救世主とかやってたせいでもある。
人間の国で最も物騒なシーリースという国のなんかエラい立場の人に、私は何度か「うちの国に来いや」とスカウトされたことがある。今は反乱やらなんやらでもっと物騒になってるせいでこの大陸にまでちょっかいをかけてくる人はいないのはちょっとありがたい。けれどこのマキルカにもシーリースからの難民は結構いて、そういう人たちからは今だに「シーリースに行って国を助けてください」とお願いされることが稀にある。
救世主パワーを発揮するには、この中央神殿の奥にあるカラオケルームが最も効率がいい。私は神様本人からそう聞いたけど、普通の人たちはもちろんそれを知らないわけで、だったら近くで歌ったほうがよかろうと思うのも無理ないわけで。ましてや、シーリースの国の現状は救世主でも神様でもすぐどうにかできる問題じゃないなんて、信じたくない人も多いわけで。
直接お願いされたら私もやんわり説明はするし、大体の人はそれで納得してくれる。でもそうでない人たちもたまにいるので、私は安全のためにもひとり歩き非推奨状態なのだった。
あとはルルさんが純粋に心配性だからというのもある。でも私は元々そんなに出歩く習慣がないので、買い物がてらその辺をぶらぶらするだけで大体満足だ。
「そもそも私がひとりでどっかに出かけたら、見回りの神殿騎士の人がルルさんに教えてると思うよ」
「確かに」
ルルさんは元めちゃつよ神殿騎士だったので、今でも部下に慕われている。一般的には元救世主として私は有名だけど、神殿騎士の間では「ルルさんの妻」として知れ渡っているくらいだ。散歩してると声をかけてくれるし、たまになぜかニャニを連れてきてくれたりする。
「では、南の方は行ったことがないですね」
「うん。なんで?」
ルルさんは少し考えてから首を捻った。
「リオの夢に出てくる路地は、聞いていると実在する場所にとても似ているようです」
「えっそうなの?」
「はい。ここから少し行ったところですが、木の実を入れて焼くパンが有名な店があり、そこの裏路地が似た作りになっているかと」
「へー! すごい。鍋の看板もあるの? なんかこんな感じのね」
その辺に置いてあったメモとペンで、私は夢にみた看板を描いてみる。するとルルさんは難しい顔になって頷いた。
行ったこともない場所なのに、夢に見るなんてすごい。
もしかして救世主としてなんか持ってそうな正夢スキルをとうとう手に入れてしまったのか……と思ったけど、私がそんなスキルに目覚めたというよりは、もっとあり得る可能性がある。
「ヌーちゃんのせいかな?」




