雨に唄えば12
「リオ、起きてください」
土嚢作業が終わって3日後。
いつもよりちょっとテンションが上がっているようなルルさんの声に起こされると、雨の音が随分静かになっていた。
「もうすぐ雨が止みますよ」
「ほんと?」
「ええ。ほら、随分明るいでしょう?」
「ほんとだ!」
ザーザーと降っていた雨が、シトシトというお上品な音に変わっていた。小さな雨粒が少し斜めの角度で直線的に落ちるので、白く霞んでいた風景もちゃんと見える。
「この分だと、朝食を食べ終わる頃には止むでしょう」
「もうすぐだね」
支度をして、ルルさんとヌーちゃんと一緒に朝食を食べる広間へ向かう。雨の変化にみんな喜んでいるようで、廊下もいつもよりも賑やかだった。
「ねえルルさん、なんで雨が止むってわかるの? いつも雷とか曇りとかも言い当てるよね。やっぱりエスパー?」
「長年の経験ですよ。旅をしていると、天気の読み間違いは命に関わることもありますから」
「経験でこんな的中精度になるかなあ……ルルさんも子供の頃は予想が外れたりしてた?」
「はい。大雨に降られたこともありますよ」
「私もいつか天気当てられるようになると思う?」
「経験を沢山積めばできるようになるかもしれません」
「ルルさん今無理っぽいなと思ったでしょ。ねえ」
天気を読むことに長けているルルさんでなくても、これだけ雨が変化してきたらそろそろ晴れそうだというのは私にでもわかった。キピルトーの皆さんも同じようで、朝ごはんからなんだかお祝いムードだった。どれだけ続くかわからない雨に備えて質素だった食事はちょっとだけ豪華になり、そして口々に森へ行くだとか家の様子を見に行くだとか外出の話が飛び交う。
土嚢を積んだところは大丈夫だったけれど、そうでない建物はやっぱり少し浸水したようだ。神官の人たちがルルさんと私にお礼を言ってくれて、なんだかむず痒い気持ちになった。
「あとは神獣ニャニが無事戻ってきてくれればいいのですが……」
「ニャニはリオが好きなので遅かれ早かれ顔を出すでしょうが、滞在中に戻ってくるといいですね」
「フィアルルー様、そろそろご出立をお考えですか?」
「雨が止んで道路の状態がいいうちに発とうかと。リオ、どうですか?」
「あ、うん。ルルさんがいいと思うタイミングで」
豪雨だったし居心地も良かったので長々とお邪魔してしまったけれど、ルルさんはそろそろ帰ろうと考えているらしい。確かに私たちは特にスケジュールの決まった仕事はしていないけれど、招かれたとはいえ長くいすぎると迷惑だろうし、中央神殿に行かない期間があまりに長くなるとルルさん大好き少年であるルイドーくんがめっちゃ怒りそうだ。
「とうとう帰ってしまわれるのですか……救世主リオ様……そして神獣ニャニ……」
「お別れの前にぜひじっくり顔を見せていただきたい……」
「そしてできればあの青い体を存分に撫でたい……」
神殿の人たちが別れを惜しんでくれたけれど、たぶん私に向けての惜しみかたじゃなかった。
ニャニ、もうここに住んであげたらいいんじゃないだろうか。




