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雨に唄えば11

「今日も元気でごはんがうまい!!」

「おお、救世主様は今日も元気ですなあ〜」

「リオちゃんおかわりする?」


 モリモリ働いてモリモリ食べ、そしてモリモリ寝る。極めて健康的な生活で、私は心身ともにとても元気だった。


「リオ、窓際に立つと雨が吹き込みますからこちらへ」

「あ、ハイ」


 そして豪雨もとても元気だった。

 私たちが頑張って土嚢を積んでいる間にもザバザバと勢いよく降った雨はじわじわと排水機能を上回り始め、道から階段3段分の高さがあるキピルトーの住宅の2段目を侵略し始めている。

 土嚢をしっかり積んだ神殿施設はとその近くのいくつかの建物は浸水の心配はまだないけれど、普通の住宅だとちょっと心配になってくるレベル。街に住んでいる人たちは1階を片付けて被害に備えると、食糧やら荷物やらを持って土嚢があるところへとそれぞれ避難し始めた。私たちが泊まっている宿泊施設にも街の人がやってきたので、ごはんの時間も賑やかである。


「雨止まないねえ……ルルさん、もっと土嚢積む?」

「もうある程度の高さには詰めましたし、何よりもう倉庫も空ですから」

「せっかく筋肉が鍛えられてきたのに」


 雨が多いので、キピルトーは保存食も多い。フコの粉で焼いたパンに塩辛みたいなやつをつけて食べつつ、私は空を心配した。袖から出てきたヌーちゃんは雨が気にならないようで、食卓を回っては色んな人にお裾分けを強要している。


「救世主リオ様……今日も神獣ニャニのお姿は見られないのですか……」

「神獣ニャニはどこへ行ったんでしょう……」

「この雨で立ち往生していたりしたら……ああ神獣ニャニよ……!」

「うんなんかごめん」


 雨よりニャニを心配しているのがニャニラトテフ神殿の人々である。

 土嚢積みの際、つい「雨止めてきたら」的な感じで見送ったニャニが、数日経っても姿を現さないままなのだ。泉だろうが川だろうがいつも爆泳ぎしているニャニが溺れたりどこかに流されたりすることはないだろうけれど、頻繁に神出鬼没してるくせにこれだけ姿を見ないのも珍しい。


「皆さん、落ち着くのです」

「神官長!」


 威厳のある声で嘆く神官たちを宥めたのは、神官長だ。随分お年寄りだけど矍鑠としていて、ニャニを模した鮮やかな青の衣が似合っている。


「ニャニは救世主リオ様の願いを請けて、きっとこの雨を止めに行ったのでしょう。この雨が止む頃、ニャニは必ず救世主様の元へ戻ってくるはずです」

「神官長……」

「神獣ニャニよ、どうか我らを救いたまえ!」

「神獣ニャニよ、どうか救世主リオ様の元へ帰りたまえ!」


 いや、別に私の元へ帰るよう祈らなくてもいいのでは。この神殿に帰れでいいのでは。

 ツッコミは心に留めつつ、私はルルさんがくれたフルーツを食べた。



 集まった街の子供たちも交えて遊び、そして洗濯やら保存食作りの手伝いをし、お風呂に入って部屋に戻る。ルルさんが剣の手入れをするのを見ながら、私はベッドに座って一緒に入ったヌーちゃんを乾かした。

 雨はまだ降り続いている。


「リオ」

「なに?」

「夜闇に乗じてこっそり抜け出し歌いに行こうなどとは考えてませんよね?」

「えっ、か、考えてないけど」


 ほんとに考えてなかったけど、ルルさんが剣を手にやたらと静かな声で訊いてきたのでなんか焦ってしまった。じっと私を見たルルさんが、しばらくしてから剣を鞘にしまう。元ナンバーワン神殿騎士だけあって、武器を持つとルルさんは迫力マシマシだ。


「ダメですよ。今は増水していて、リオが道を歩けばあっという間に滑って転んで立てなくなりますから」

「だから考えてないってば」


 ふかふかになったヌーちゃんは、スルッと私の手元から抜け出して枕の近くで横になった。夕食もいっぱい食べていたので丸くなれずにお腹を仰向けにして野生感ゼロである。

 代わりにやってきたのがルルさんで、剣をベッドサイドに立てかけると私の隣に座って手を握る。大きい手にひっくり返された私の手のひらは、まだちょっと赤みが残っていた。連日の土木作業でちょっと手の皮が擦りむけたのだ。

 そこにしみる薬を丁寧に塗り込んだルルさんが、私も布団に入るように促す。


「もう間もなく雨は止みますから、絶対に外へは出歩かないように」

「考えてないし……雨、止むの? ほんとに?」


 私が聞き返すと、ルルさんがにっこり笑って頷いた。






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