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雨に唄えば7

「また何か企んでいると思ったら」

「ル……ルルさん……おでかけするんじゃ……」

「まだ時間に余裕はありますので。どなたかが妙に慌てて出て行ったおかげで」


 ルルさんは笑顔なのに、私はヘビに睨まれたカエル状態になっていた。

 私の思惑は千里眼なルルさんにはバレていたらしい。


「いつのまに来たの……」

「普通に後ろからついてきましたが」

「忍者? 忍者なの? 心に刃を持つルルさんと書いて忍と読むの?」


 元神殿騎士だからなのか、それとも身体能力の高いエルフだからなのか。ルルさんは私に悟られず行動することに慣れていた。たまに一人で買い物していて知らない男性に絡まれたりしたときには後ろからついてきていたルルさんに助けられたりもするけれど、夕食前にこっそりおやつを食べようとしたときなんかは一度も勝てない強敵と化すので厄介だ。


「それほど私の言葉が信用ならなかったのですか?」

「いえ……あの……ただほら、地元の人の意見を聞きたいなあって」

「それで人前で祈ることができない自らを窮地に追い込むことが目的だと?」

「イエ……ナンカ……スミマセン……」


 子供たちの前でやんわり怒られるのはとてもいたたまれない。

 私はまだ未就学児くらいに見える子に手を握られ、こっそり「いっしょにごめんなさいしてあげようか?」と囁かれ私はますます縮こまるしかなかった。

 私が小さくなっていると、ルルさんは小さく息を吐いて子供たちを見回した。


「既に知っての通り、我々の大地は救世主によって十分力を取り戻している。この程度の雨で、いやこの先に大変なことがあっても、もはやそれは我々自らが対処すべき問題であり、救世主に頼るべきではない。我々が何もせず救世主ばかりあてにするようになれば、神はまたこの地を荒廃させるだろう。そのことをしっかり心に刻みなさい」

「はい、フィアルルー様」


 見た目中学生な子が頷いて、そして子供たちに優しく説明している。子供たちは素直に納得して「じゃあかわりにみんなでお祈りする」と元気よく言っていた。ルルさんはそれに満足してオヤツを渡すと、私の背を押して退出を促した。ちょうど戸口を使ってゴロリとうつ伏せに戻ったニャニが、私の足の甲をたむと叩く。


「リオちゃんまたねー」

「今度は一緒に遊ぼうねー」


 子供たちに手を振って、また渡り廊下を歩く。


「あの……ルルさん」

「何ですか」

「こういう災害のときって、やっぱり私がなんかするべきなのでは」

「この程度の雨でリオが責任を感じるべきではありません」

「でも……私が歌ったら雨がマシになるかもしれないし、このまま降り続けたら被害がひどくなるかもだし」

「ご覧の通りキピルトーでは風通しを重視した建造物ばかりです。ここで遮音してひとりきりになることはできませんよ」

「うっ」


 ルルさんにぴしゃっと言われ、私は言葉に詰まった。立ち止まると、ルルさんが私の向かいに立つ。


「もし本当に救世主としてのあなたが必要なときは、きちんと伝えます。今はそうではない。あなたが嫌だという気持ちを抑えながら歌う必要はありません」

「でも」


 本当にいいのだろうか。ただ、私が歌いたくないという気持ちだけで、こんな豪雨をほったらかしても。

 後ろめたい気持ちになりながらそう伝えると、ルルさんは私の手をギュッと握った。






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